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~第2章~ アメフッテジカタマル ~惑星 レイニール編~
第19話 雲の向こうはいつも青空
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「――ずいぶん走ったな」
コウイチロウはそうつぶやくと、木陰で地図を広げた。雨が降りやまないせいか、この星の加工品はだいたいの物が撥水加工されている。
「もう少し先か……」
コウイチロウが今目指しているのはモーイスト大陸の西端の街、ウィッシュスカイである。ここは、隣の大陸、レイセゾンと陸続きになった後に出来た街で、交易が盛んな都市でもある。恐らくメニウェットよりも大きいはずだ。
情報収集よりも直接星の一族に巡り合うことが望ましいが、果たして叶うだろうか。とにかく、できるだけ多くの人に当たってみるしか方法がない。コウイチロウは少し休憩した後、またウィッシュスカイに向けて走り出した。
夕暮れまでには着いておきたいな……。
常人では歩きで3ヵ月はかかりそうな道のりをコウイチロウはひたすら走っていた。ゼイド爺さんにもらったサンドイッチを糧に。
――コウイチロウが想定していた夕暮れを少し過ぎたころ、大きな街が見えてきた。メニウェットのように分厚い壁や物見櫓などは見当たらない。代わりに街はドームに覆われていた。そして『ようこそウィッシュスカイへ』という看板が戦争の気配を全くと言っていいほど消し去っていた。
街に入ると、コウイチロウは驚愕した。空の景色と引き換えにウィッシュスカイは雨の呪縛から解き放たれ、ゼイド爺さんの言うような絶望とは縁遠い賑やかさを獲得していた。
町並みは少し近代化されたのだろうが、石畳の道は変わらなかった。到着してすぐ、コウイチロウが行ったのは宿の手配と職探しだ。何しろ、ゼイド爺さんのような人とこんな大都会で出会えるとは思えない。幸い、宿は5000レーンから見つかり、職も日雇いには事欠かないようで、コウイチロウは自身の能力を生かして、配達と現場作業の仕事を選んだ。『分身』達にそれぞれ別の雇い主を見繕い、Aには配達と聞き込みを、BとCにはそれぞれその日のうちに給料手渡しの現場作業をやらせた。
というのも、『操作』スキルの制限は『分身』しても有効で、結局二人までしか操作は出来ないようだ。
コウイチロウ本体はというと、聞き込みに専念し、目撃情報を地図に書き込んでいった。おかげで、宿に帰るころには15000レーン(20000レーン-宿賃)が手元に残っていた。どうやら1レーンは1円とほぼ変わらない感覚で使えるようだ。ただし、雨のせいで野菜類など特定の食材などはコウイチロウの庶民感覚から言って高いと唸らざるを得なかった。
この方法なら大家さんに小言言われずに暮らせるな……。
コウイチロウは自分のしょぼい人生設計に改めて物悲しい気持ちになった。
こうなったら情報収集も兼ねて酒場へ行ってやる! 情報収集と言えば古今東西、酒場がセオリーなんだ!
誰のための言い訳か、コウイチロウは自分に言い聞かせるように繁華街へと向かったた。気になるお店は3つ。
『居酒屋 人生墓場』、『Bar青空』、『スナック 雨の慕情』
正直、『青空』以外は名前のインパクトが強すぎて、初見殺しとしか思えない。まずは、『Bar青空』に入ってみた。どうやらここは、マスターであるポポロと看板娘のニイナが切り盛りする小さなバーらしい。悪いとは思いつつも『操作』で最低限の情報収集を行った。が、やはりというべきか星の一族やカミサマに関する情報は特に得られなかった。
後は、酔って暴れた客が「俺はカミサマだ」と言い出しただの、バーに来たのにミルクコーヒーしか頼まない客がいて迷惑してるだのマスターの愚痴が始まったので適当にあしらった。看板娘のニイナはというとコウイチロウの事が大層気に入った様子でお茶に誘われたが、丁重にお断りした。
コウイチロウはほろ酔いで宿に戻ると『分身』の記憶を含めて情報を整理した。やはりここでもカミサマに命の危機を救われた者は存在した。飛んで行った方向を見るとカミサマは東から来て西に去っているようだ。とするとカミサマはこの星の大陸を順番に回っているんじゃないだろうかという仮説を立てた。
メニウェットで得た情報の日付よりも後の日付が多いのも得心がいく。さらに日付を整理すると巡回の周期なんかもわかったりするだろうか。
ここまで考えたところでコウイチロウは酔いと疲れから睡魔に襲われ、ウィッシュスカイ初日の幕を閉じた。
翌日、初日と同じように分身三人を働かせ、コウイチロウは情報収集に当たった。文句ひとつ言わないで働いてくる『分身』達にコウイチロウはおかしな論理だが感謝した。おかげで金の心配はいらなそうだ。
という訳で今日は『居酒屋 人生墓場』に入ってみることにした。ここは日本でいうところの一般的な大衆居酒屋で、客に話しかけて回るのは不自然な気がしたため、純粋に飲んで帰ることにした。魚を頼んでみたが、ゼイド爺さんのところの魚には及ばないようだ。何しろ鮮度が違う。
ゼイド爺さん元気してるかな……。こんな街があることを知ったらみんなは明るく生きられるだろうか。
何しろ、雨が止んでいるので気の持ちようが全くと言っていいほど違う。酒場一つとっても盛況だ。あまりに盛況なのでコンドウと行った居酒屋の方が思い出されるくらいだった。
明日は、『スナック 雨の慕情』にでも寄ってみるか……。よし。帰ってもう寝よう。
コウイチロウは雨から解放されて少し間違った元気を取り戻した。ウィッシュスカイについてひと月も経つと配達の仕事の給料も入り、ある程度懐に余裕ができた。
「ダメだダメだ! こんなんじゃ地球に帰れない!」
コウイチロウはさすがにまずいと思い、いったんライザに連絡を取ることにした。
「おお! コウイチロウ久しぶり~。元気~?」
「ライザ……。すまんが行き詰ってる」
「まあ、調星活動がそんな簡単なものだと思われても困るさ。何しろ惑星単位の大仕事だからな。アムゼンはうまくはまった方だと思うぞ」
「うう……返す言葉もない」
「珍しく弱気じゃないか。雨に打たれてへこんだか?」
「おっしゃる通りで。『変化』してもなかなかこの雨が降り続くというのはキツイものがある」
「だったら星の一族もそんなもんかもしれないな。酒場の調査というのは強ち間違った方向性ではないかもしれんぞ!」
「そういうもんかな。では隊長、調査を続行いたします」
「うむ。任せたぞ! また何かあったら連絡をくれ!」
ライザとの通信を終えたコウイチロウはある決意をしたのだった……。
コウイチロウはそうつぶやくと、木陰で地図を広げた。雨が降りやまないせいか、この星の加工品はだいたいの物が撥水加工されている。
「もう少し先か……」
コウイチロウが今目指しているのはモーイスト大陸の西端の街、ウィッシュスカイである。ここは、隣の大陸、レイセゾンと陸続きになった後に出来た街で、交易が盛んな都市でもある。恐らくメニウェットよりも大きいはずだ。
情報収集よりも直接星の一族に巡り合うことが望ましいが、果たして叶うだろうか。とにかく、できるだけ多くの人に当たってみるしか方法がない。コウイチロウは少し休憩した後、またウィッシュスカイに向けて走り出した。
夕暮れまでには着いておきたいな……。
常人では歩きで3ヵ月はかかりそうな道のりをコウイチロウはひたすら走っていた。ゼイド爺さんにもらったサンドイッチを糧に。
――コウイチロウが想定していた夕暮れを少し過ぎたころ、大きな街が見えてきた。メニウェットのように分厚い壁や物見櫓などは見当たらない。代わりに街はドームに覆われていた。そして『ようこそウィッシュスカイへ』という看板が戦争の気配を全くと言っていいほど消し去っていた。
街に入ると、コウイチロウは驚愕した。空の景色と引き換えにウィッシュスカイは雨の呪縛から解き放たれ、ゼイド爺さんの言うような絶望とは縁遠い賑やかさを獲得していた。
町並みは少し近代化されたのだろうが、石畳の道は変わらなかった。到着してすぐ、コウイチロウが行ったのは宿の手配と職探しだ。何しろ、ゼイド爺さんのような人とこんな大都会で出会えるとは思えない。幸い、宿は5000レーンから見つかり、職も日雇いには事欠かないようで、コウイチロウは自身の能力を生かして、配達と現場作業の仕事を選んだ。『分身』達にそれぞれ別の雇い主を見繕い、Aには配達と聞き込みを、BとCにはそれぞれその日のうちに給料手渡しの現場作業をやらせた。
というのも、『操作』スキルの制限は『分身』しても有効で、結局二人までしか操作は出来ないようだ。
コウイチロウ本体はというと、聞き込みに専念し、目撃情報を地図に書き込んでいった。おかげで、宿に帰るころには15000レーン(20000レーン-宿賃)が手元に残っていた。どうやら1レーンは1円とほぼ変わらない感覚で使えるようだ。ただし、雨のせいで野菜類など特定の食材などはコウイチロウの庶民感覚から言って高いと唸らざるを得なかった。
この方法なら大家さんに小言言われずに暮らせるな……。
コウイチロウは自分のしょぼい人生設計に改めて物悲しい気持ちになった。
こうなったら情報収集も兼ねて酒場へ行ってやる! 情報収集と言えば古今東西、酒場がセオリーなんだ!
誰のための言い訳か、コウイチロウは自分に言い聞かせるように繁華街へと向かったた。気になるお店は3つ。
『居酒屋 人生墓場』、『Bar青空』、『スナック 雨の慕情』
正直、『青空』以外は名前のインパクトが強すぎて、初見殺しとしか思えない。まずは、『Bar青空』に入ってみた。どうやらここは、マスターであるポポロと看板娘のニイナが切り盛りする小さなバーらしい。悪いとは思いつつも『操作』で最低限の情報収集を行った。が、やはりというべきか星の一族やカミサマに関する情報は特に得られなかった。
後は、酔って暴れた客が「俺はカミサマだ」と言い出しただの、バーに来たのにミルクコーヒーしか頼まない客がいて迷惑してるだのマスターの愚痴が始まったので適当にあしらった。看板娘のニイナはというとコウイチロウの事が大層気に入った様子でお茶に誘われたが、丁重にお断りした。
コウイチロウはほろ酔いで宿に戻ると『分身』の記憶を含めて情報を整理した。やはりここでもカミサマに命の危機を救われた者は存在した。飛んで行った方向を見るとカミサマは東から来て西に去っているようだ。とするとカミサマはこの星の大陸を順番に回っているんじゃないだろうかという仮説を立てた。
メニウェットで得た情報の日付よりも後の日付が多いのも得心がいく。さらに日付を整理すると巡回の周期なんかもわかったりするだろうか。
ここまで考えたところでコウイチロウは酔いと疲れから睡魔に襲われ、ウィッシュスカイ初日の幕を閉じた。
翌日、初日と同じように分身三人を働かせ、コウイチロウは情報収集に当たった。文句ひとつ言わないで働いてくる『分身』達にコウイチロウはおかしな論理だが感謝した。おかげで金の心配はいらなそうだ。
という訳で今日は『居酒屋 人生墓場』に入ってみることにした。ここは日本でいうところの一般的な大衆居酒屋で、客に話しかけて回るのは不自然な気がしたため、純粋に飲んで帰ることにした。魚を頼んでみたが、ゼイド爺さんのところの魚には及ばないようだ。何しろ鮮度が違う。
ゼイド爺さん元気してるかな……。こんな街があることを知ったらみんなは明るく生きられるだろうか。
何しろ、雨が止んでいるので気の持ちようが全くと言っていいほど違う。酒場一つとっても盛況だ。あまりに盛況なのでコンドウと行った居酒屋の方が思い出されるくらいだった。
明日は、『スナック 雨の慕情』にでも寄ってみるか……。よし。帰ってもう寝よう。
コウイチロウは雨から解放されて少し間違った元気を取り戻した。ウィッシュスカイについてひと月も経つと配達の仕事の給料も入り、ある程度懐に余裕ができた。
「ダメだダメだ! こんなんじゃ地球に帰れない!」
コウイチロウはさすがにまずいと思い、いったんライザに連絡を取ることにした。
「おお! コウイチロウ久しぶり~。元気~?」
「ライザ……。すまんが行き詰ってる」
「まあ、調星活動がそんな簡単なものだと思われても困るさ。何しろ惑星単位の大仕事だからな。アムゼンはうまくはまった方だと思うぞ」
「うう……返す言葉もない」
「珍しく弱気じゃないか。雨に打たれてへこんだか?」
「おっしゃる通りで。『変化』してもなかなかこの雨が降り続くというのはキツイものがある」
「だったら星の一族もそんなもんかもしれないな。酒場の調査というのは強ち間違った方向性ではないかもしれんぞ!」
「そういうもんかな。では隊長、調査を続行いたします」
「うむ。任せたぞ! また何かあったら連絡をくれ!」
ライザとの通信を終えたコウイチロウはある決意をしたのだった……。
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