125 / 125
第9章 奪還編
地獄の118丁目 箱庭から始まる俺の地獄
しおりを挟む――時は(50年ほど)流れ――
「待っておったぞ。キーチロー」
「安楽 喜一郎、ただ今、人としての生を全うしてまいりました」
俺はおじいさんの姿でデボラ達に敬礼を行うと変装を解き、元の20代の姿へと
戻った。
「いやぁ、火葬の文化だと色々下準備が大変だったよ」
「ちゃんと骨は残してきたか?」
「ああ! 毎日牛乳を飲んで血から生成するとかいう謎の魔法まで開発したからな!」
晩年は毎日、ナースに変装して病院に忍び込んだデボラが採血してはアルカディア・ボックスの中に送り続けていたわけだがあのコスプレは今度もう一回してもらおう。
「全く、キャラウェイ殿の新薬・新術開発は素晴らしいな」
「人体実験で何度か死にかけたけどね」
マンドラゴラ改・オメガスペシャルをうっかり飲まされた後、1ヵ月眠ることが出来なかったのも今ではいい(?)思い出だ。
「しかし、キーチローさん。50年もかけて人間界を制圧できないとは」
ベルは呆れ顔で肩をすくめる。
「いや、元々制圧する気なんかないってば。なんか困ってる人がいたらちょっと顔出そうかなと思ってるくらいで」
「天界、地獄、人間界でも有数の力を持ちながらこの体たらく。デボラ様の覇道を共に歩むに本当にふさわしい方でしょうか?」
ベルがビシッと俺の目の間辺りを指差し、力説する。こうも荒々しく否定されるといっそ、魔法の力で人間界を治めても良かったか? と勘違いしそうになるが、これは正しく悪魔の囁きである。聞く耳を持ってはいけない。
「覇道なんて大それた道を歩むつもりはないよ。たまに歩道を散歩できればそれで十分」
「我の期待は見事に裏切られたがまあ、それも含めてキーチローなんだろうな」
期待を裏切られた割には怒るどころかむしろ満足げな表情だが、三界制覇ってのはどの程度本気で言ってたのだろうか。
「私めは大魔王デボラの側近にして、アルカディア・ボックス清掃員、安楽 喜一郎でございますゆえ」
大仰にお辞儀をしてみせると、デボラはフンと鼻を鳴らし、ダママの元へ歩いて行った。
「さて、今日からどこに行こうかな。きっと色んな場所、色んな冒険が待ってるぞ」
「キーチローー! カブタンのエサ!! 早く地獄から採ってきて!」
密やかな期待を込めた決意の発露はローズにきっちりと水を差されたわけだが。
「キーチロー君、後で新開発の薬品を……」
「パスでーす!!!」
悠然とした日常の始まりはキャラウェイさんのマッドな薬品に破壊されそうなわけだが。
「キーチロー君! これからはずっと一緒だね!」
甘美な二人だけの鉢にも構わずセージ君の愛の種は芽吹くようだが。
「キーチローさん! 私のお勧めの本、用意しといたんで暇な時読んでください! 感想文は一作につき原稿用紙50枚ほどで大丈夫ですよ!」
平穏な時間さえもステビアの読書感想文に奪われてしまいそうだが。
「キーチロー! エサはまだか!」
「せやせや!」
「キーチロー! 飯!」
「キーチローさん」
「キーチロー……」
俺の地獄はこの箱庭から改めて今日、始まるようだ。
☆☆☆
――さらに時は流れ
昔々、あるところに手に入れた者は望むままの力を手に入れ、或いは数多の魔獣を従える地獄の王へとその身を昇華させるという妖しき魔性の宝石箱があったそうじゃ。
その宝石箱に触れたものは魔獣が跋扈するダンジョンへと転送され、その最下層にこそ、全てを司る玉石があるそうじゃが……。
その箱に触れたものでついぞ帰ってきたものはおらん。努々触れるなかれ。その身に大いなる災いを宿したくなければ。
「おい、知ってるか。生死を司るフェニックスに会える宝石箱の話を」
「俺が聞いたのは今では絶滅した万病に効くマンドラゴラが自生しているという話だが」
「へっへっへっ、伝説の魔獣、ケルベロスの牙を売れば一生遊んで暮らせるほどの金が手に入るぜ」
「それなら、俺も聞いたぞ。フェンリルの牙もたてがみも今や貴重なお宝だ!」
「いやいや、中にはサキュバスが群れで暮らしていて中に入ったものはハーレム状態だから出てこないって話だ」
「何としても手に入れたい!」
「一番に手に入れるのは俺だ!」
「地獄中をひっくり返してでも見つけろ!」
千年の時が経ち、アルカディア・ボックスの存在は伝説が伝説を呼び、もはや誰も真実の姿を知る者は居なくなっていた。
だが、神の悪戯か、悪魔の暇つぶしか、千年の時を経て再び三界の血を宿す賢者が現れた。その者は三界に住まうあらゆる生物と会話が出来、また、不思議なる術をいくつも使用することが出来た。後に言う、大賢者アピス=コンフォートである。
大賢者アピスは地獄中を巡り、ついにアルカディア・ボックスを発見するに至った。
不思議な力に誘われ、アピスはついにアルカディア・ボックスの中に入り冒険をする。魔獣、怪獣、妖怪、宝石、財宝、伝説に語り継がれるモノ共に邂逅したアピスであったが、あるものを見つけたところで彼の冒険は終わる。
そして、冒険を終えた彼は天界、地獄、人間界でこう語り継ぐのである。
「中には宝どころか骸ひとつない。それどころか箱には大いなる呪いがかけられていた。誰も入ってはいけない。誰も触ってはいけない」
アルカディア・ボックスから帰還しながらその手に何の成果も持ち帰らず、さらには恐怖に満ちた表情で語りかける彼の逸話はある程度信憑性を持って世間に受け入れられた。彼はその後、箱を封印と称してどこかに隠したようだが、誰もそれと気づかぬ速度で、その後地獄には生物が溢れていった、との事である。
「これで良かったんですよね。デボラさん、キーチローさん」
大賢者アピスは二人の墓前に手を合わせ、花を手向けた。
「Et in Arcadia ego(私はここにもいる)ですか。ここを楽園とするのははてさてどうでしょうか。楽しいところですけどね」
「いつか、自分たちが去った後も栄華はこの中に。あなたの遺志、今は私が継ぎましょう」
遠くからフェンリルの遠吠えが聞こえる。
マンドラゴラの花が微笑むように揺れる。
箱庭の世界に光が、差し込む。
完
0
お気に入りに追加
98
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(9件)
あなたにおすすめの小説
『購入無双』 復讐を誓う底辺冒険者は、やがてこの世界の邪悪なる王になる
チョーカ-
ファンタジー
底辺冒険者であるジェル・クロウは、ダンジョンの奥地で仲間たちに置き去りにされた。
暗闇の中、意識も薄れていく最中に声が聞こえた。
『力が欲しいか? 欲しいなら供物を捧げよ』
ジェルは最後の力を振り絞り、懐から財布を投げ込みと
『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』
それは、いにしえの魔道具『自動販売機』
推すめされる商品は、伝説の武器やチート能力だった。
力を得た少年は復讐……そして、さらなる闇へ堕ちていく
※本作は一部 Midjourneyにより制作したイラストを挿絵として使用しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
美少女ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、バグが多いのが玉に瑕の1000時間遊べる名作RPGだ。
そんな【ドラゴンズ・ティアラ】を正規プレイからバグ利用プレイまで全てを遊び尽くした俺は、憧れのゲーム世界に転生してしまう。
俺が転生したのは子爵家の次男ヴァレリウス。ゲーム中盤で惨たらしい破滅を迎えることになる、やられ役の悪役令息だった。
冷酷な兄との対立。父の失望からの勘当。学生ランクFへの降格。破滅の未来。
前世の記憶が蘇るなり苦難のスタートとなったが、むしろ俺はハッピーだった。
家族にハズレ扱いされたヴァレリウスの【モンスター錬成】スキルは、最強キャラクター育成の鍵だったのだから。
差し当たって目指すは最強。そして本編ごとの破滅シナリオの破壊。
元よりバランス崩壊上等のプレイヤーだった俺は、自重無しのストロングスタイルで、突っかかってくる家族を返り討ちにしつつ、ストーリー本編を乗っ取ってゆく。
(他サイトでも連載中)
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新ありがとうございます。
トレント誘拐w トレントを捕獲できるムシ網の大きさが気になる。
更新ありがとうございます!
まさかの弱くてニューゲームw
感想ありがとうございますm(_ _)m 死んだらおれyoeeeeスタートですね(*´・ω・`)b
いつも見ていただき有難うございますm(_ _)m 地獄の待遇ですからねw