上 下
119 / 125
第9章 奪還編

地獄の112丁目 アルカディア・ボックスの攻防①

しおりを挟む
 キーチローが飛び出してしまった後しばらくして曇天の隊長であるニムバスがやってきた。デボラ様が捕らえられたという連絡は、ベルからこちらにも来ている。デボラ様達の留守は私達が守る!

「査察である。直ちにアルカディア・ボックス職員は退去。要請に従わない場合は捕縛、または武力を以って排除する」
「ちょっと待ってください、査察なら職員の立ち合いが必要では?」

 キャラウェイさんが私達を守るように一歩前に出てニムバスに物申す。ニムバスは表情を変えることなくキャラウェイさんを睨みつけている。

「貴様らには天界に対する反逆罪の容疑がかかっている。我々が査察を終えるまでおとなしくしていてもらおう」
「反逆だなんて!」

 セージが詰め寄るが、曇天の新手が出現し、セージの前に立ちふさがる。

「どうせ反逆の容疑がかかってるならやっちゃいますぅ? キャラウェイさん」
「デボラ様も……無実の罪……。こいつらには仁義が……ない」
「二人とも冷静に。さて、ニムバスさん。武力で、とおっしゃいましたが可能だとお考えで?」

 ニムバスは少し顔を崩し、ニヤリと笑った。最初にあったころより断然いけ好かない笑顔だ。

「もちろん」
「日々進化する地獄の生物を相手に日夜研究を重ねている職員を余り舐めない方が良いですよ?」
「そちらこそ天界の選りすぐりを舐めない方が良い。日々鍛錬を重ねるの、な」

 ニムバスの部下たちも自信ありげに、不敵に笑う。

「さて、皆さん。対立は不可避となったようですが覚悟は宜しいですか?」

 ニムバスより冷たく、キャラウェイさんが微笑む。素敵だけどどこか空恐ろしい。

「魔獣よりも調教し甲斐がありそうですわ! キャラウェイさん!」
「職場……仲間……守るの……!」
「とりあえず一方的な武力行使に対する正当防衛という事で頑張ります!」

 ステビアもセージもやる気みたい。それもそのはず。この三カ月飼育だけやってたわけじゃない。明確な敵の襲来に備えてやるべきことはやった。今の私達なら曇天とも互角以上に渡り合えるはず。

「このローズウッド=ロールズをお色気美女担当だと思ってると痛い目に合うんだから!」
「思ってない思ってない」
「おとぼけ担当の……間違い……」

 ぐっ……! セージもステビアも!


  ☆☆☆


――三ヶ月前、曇天を退けた後。

キャラウェイさんが私とセージとステビアの三人を呼び出して真剣な顔で問いかけた。

「単刀直入に言います。あなた方はこの施設が好きですか?」

 突然の質問に私も含めて全員、困惑の表情を浮かべる。質問の意図を測りかねて思わず質問を質問で返してしまった。

「好きですけどどうしたんですか? 急に」

キャラウェイさんは眼鏡を押し上げながらなおも真剣な表情で確認してくる。

「先日、この施設に混乱をもたらした『曇天』という組織は分かりますね?」

 三人で目を合わせ、揃って頷く。

「彼らがあれで諦めるとは思えませんし、また、この箱庭の特殊性が明らかになることでそれ以上の組織に狙われるかもしれません。思い返せばドラメレク一味が襲来した時も危険と隣り合わせでした」

 なるほど。なんとなく言いたいことが分かってきた。つまり、キャラウェイさんは私達に“覚悟”を問うているのだ。この施設に居続けることで身に危険が及ぶかもしれない。それは、つまりになるかもしれない、ということだ。

「……なんとなく察していただけたみたいですね。デボラさんはいわばここの責任者。キーチロー君はそもそも実力者ですし、ベルさんにはデボラさんという覚悟の源があります」
「……私たちは……足手まとい……?」
「まぁ、確かにアルバイトにしてはリスキーだよね」
「私達には動機が薄いと言えば薄い、と」
「悪く言えばその通りです」

 キャラウェイさんは少し浅く息を吐いた。

「私はあなた達が危険な目に合う事を望みません。一方でまた、絆の様なものも感じている。だから、無理強いはしません。もしあなた達にその気があるのなら、身を守る力を手に入れませんか?」

 悩むことは無い。私の心は決まっている。

「私とてデボラ様に忠誠を誓った身。義理は通させていただきますわ!」
「私は……戦う事は望みませんが……皆さんを支える力……が……欲しいです」
「僕は照れくさいので地獄に帰ってからも自衛に役立ちそうだからっていう建前で!」

 私たちはセージの軽い言葉に声を出して笑った。

「では、皆さん日々のお世話が終わったら集まって基礎体力の向上と能力開発をやって行きましょう!」
「なんか部活みたい!」
「うう……体力……」
「キャラウェイ師匠! 宜しくお願いします!」
「私の修行は厳しいですよ! フフフ」

 ――とまぁ、和やかな雰囲気だったのはここまで。

 ――キャラウェイさんの修行は本当に厳しかった。

 ――地獄の元魔王の特訓。

 ――思い出したくもない地獄の日々。

「きゃ、キャラウェイさん! もう腕が上がりません!」
「おお! ちょうどスタートラインですね」

「キャラウェイさん、この飲み物腐ってません!? すっぱ! 臭っ!」
「私の特製栄養ドリンクです。たんと召し上がれ」

「いやぁぁぁぁぁっ!! もういやぁぁぁぁぁっ!」
「お、足早くなりましたね。ローズさん」

「ローズ、行くよ!」
「手加減しないからねー」
「俺達から逃げてみろ逃げてみろ!」
「来ないでぇぇぇぇぇっ! ダママぁぁぁぁぁぁっ!」

 被害を受けたのは主に私とセージ。ステビアは魔力を高めて支援系の魔法を覚えるとか何とかであまり体力系の特訓には参加させられていなかった。

 ……まぁ、特製ドリンクと魔術書一日20冊のノルマはさすがに堪えたようだけど。セージは段々顔つきが変わっていって特殊能力を得るころにはガチガチのムキムキになっていて少し目の保養になった。


  ☆☆☆


 フフフフフフフフ。フフフフフフフフ。ついに役立つ時が来たのね! あの特訓が! むしろ敵が来なかったらどうしようかと思ってたわ! 私達に手を出すとどうなるか教えてやる!

「俺とて前回の失態、忘れた訳ではないぞ! 今回は実力本位で選抜した部下三人と今まで接収した魔道具の数々、惜しみなく使ってくれるわ! 行けいっ! レイン! スノウ! ラクライ!」

「御意!」

 このアルカディア・ボックスは私達が! 守る!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

処理中です...