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第8章 天界編

地獄の103丁目 これから

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「さて、竜夫妻の怒りは解けたようだが……」
「どうしようね。曇天対策」

 曇天を退けた。けど、それは一時的なものだ。奴らはあんな程度では絶対納得しない。この箱庭の奪取、もしくは破壊。それぐらいはやってくるはずだ。狡猾な手段で査察の内容を誤魔化してきた。俺達の天界そのものへの不信も生まれている。

「今回の件、曇天の暴走だと思う? それとも……」
「さっぱりわからんな。少なくとも天界に対しては根回しらしきことはしているつもりだが」

 デボラの表情は暗い。地獄の魔王とは言え、天界全体を敵に回すような行為は得策ではない。万が一、曇天の意思が天界の意思なら。俺達はここを諦めなくてはならないのだろうか。

「まず、狙いは何なのか検討してみましょう」

 曇天の連中を外にほっぽリ出した後、集合したキャラウェイさんが口を開く。

「可能性はいくつかある。箱庭そのものの奪取。考えてみれば中にいるだけで魔力が高まるなんて恐ろしい機能だ。ましてそうやって魔力を増した魔物が繁殖している。さぞや魅力的に映る事だろう」
「しかし、魔物と心を通わせるにはキーチロー君の助力が不可欠です」
「奴らがそのような事、知る由もないでしょう。あるいは何らかの魔物を従わせる手段を既に持っているか」

 それはマズい。俺の存在価値がなくなる。

「あるいは天界への脅威としてみなされたか」
「あり得ますね。制御できる性質のもので無ければそう判断して破壊するのが向こうにとっては有効でしょう」
「やっぱり、ここの魔物を一旦地獄に還すしかないのかな。もう、並みの住人じゃ手出しできないだろうし」

 沈黙が辺りを包む。

 曇天がこれ以上の無茶を企てた場合、どう対処するのがベストか。明け渡すのは論外だ。戦う? 勝ったとして天界の反応は? 俺達の思考は袋小路へ落ちていく。

「地獄で育てようにも箱庭以外ではキーチロー君意外に意思の疎通が出来ませんし……」
「いっそ、あのハゲを縛り上げて脅してみるか。背後関係があるなら吐かせる!」

 デボラが急に武闘派というか魔王みたいなことを言い出す。

「ま、あのおっさんもクロードとか言うのも後ろ暗いところがありそうだったしそれも一つの手かもね」
「とにかく、我は天界とのコネを利用して探れるところまで探ってみる。すまんが通常業務は任せて良いか?」
「解りました。エサやりからパートナー探しまでお引き受けしましょう」

 今更だが、元魔王にここまでやらせていいのだろうか。割とノリノリで手伝ってくれるけど。

「俺も、今はやれることをやるよ。でも、いつかはこの身に流れる血が三つの世界をつなぐ架け橋になってくれるといいけど」
「そうだな。三種の血が流れる不思議な生き物だからな」
「デボラはそれ言っちゃダメでしょ」

 カラ元気で笑い飛ばすと、その場はいったん解散となった。

 俺は、むしゃくしゃしてケット・シーのノリオのところへ遊びに行った。

「やあ! ノリオ!」
「おや? キーチローさん。どうしましたかにゃ?」
「なんとなく、今日は猫の気分だった」

 今は小さい生き物に癒されたい。大きな犬や狼や鳥はダメだ。虫も、魚も。リス、木、トカゲ。みんな大好きだけど今日の気分は猫なのだ。

「よくわかりませんにゃ。悩み事ですかにゃ?」
「ああ、ちょっと今回は困っちゃって」
「ならば、僕の猫占いでキーチローさんの将来を占いますにゃ!」
「猫占い?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦。いきますにゃ~?」

 ノリオはおもむろに空を見上げるとヒゲをピクピクと動かし始めた。

「何を占うって?」

 余りに占いに見えない仕草についツッコミを入れてしまった。

「出ましたにゃ!」
「おお!」
「明日の人間界の天気は雨ですにゃ!」
「おお……」
「傘を持ってくといいですにゃ」

 なぜ地獄の空気を感じて人間界の天気が分かるのか知らないが、とりあえず自信満々なので逆らわないことにした。

「ありがとう、非常に役に立った。スマホの情報を鵜呑みにして雨に降られるところだった」
「ふふん。猫と言えば天気占いですにゃ」
「もっと具体的な将来の占いを期待してたんだけど、まあいいや」
「占いより、自分を信じた方が良い結果に結びつくものですにゃ」

 それを言っちゃおしまいよ。

 なるべくなら戦いは避けたいし、平穏無事に過ごしたい。魔物とは言っても比較的いい子達ばかりだしずっとモフモフしたり遊んだりして暮らしたい。一度死んで魔王みたいな力を宿して復活した身としては贅沢な悩みなんだろうか。

 まさか、カブトムシだと思って飼いはじめたヘルワームからこんなことになろうとは思いもしなかったが今では職員のみんなや魔物達への愛着もある。簡単に手放したり出来ない。天界を敵に回すのはさすがに無謀か? 話し合いの道筋は?

 考えている内に、俺はノリオと共に暖炉の前で寝てしまったらしい。やがて、目が覚めると、俺とノリオには毛布がかかっていた。誰の気遣いか知らないが非常にありがたい。

「んじゃ、ノリオ、俺帰る」
「んにゃ。またいつでも来てくださいにゃ」
「ああ、天気予報が気になったら遊びに来る」
「もっと頻繁に遊びに来てくれてもいいのにゃ!? ローズさんの遊びはシンプルに危険にゃ!」

 ローズ……、ノリオにいったい何をしたんだ。


  ☆☆☆

「エッキシン!!」
「うわ、汚い!」
「鼻水飛ばさないでください、ローズ!」
「ん……? 風邪……?」
「誰か噂してんのかな?」
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