上 下
109 / 125
第8章 天界編

地獄の102丁目 曇りのち……

しおりを挟む
「くそがあああああっ!!!」

 ニムバス隊長、今回の任務から帰って来てずっとあの調子だ。私は今、隊長に壊された備品を数えて、次回の申請に出すかどうか迷っている。最初に出さなきゃいけない申請はドア。あのハゲが蹴破って入ってきた木製のボロいドア。隠密の仕事部屋がセキュリティ無しでオープン状態とかヤバいっしょ。後は壁の穴に……、机、情報端末のモニター。高いものばっかりぶち壊してるなぁ。細かいもので言うと折れたペンに割れたコップ……、あ、コップは私物か。どうでもいいや。

 あ、椅子一脚追加ー。

「クロードさん、どうなってるんですかぁ? 今回大失敗だったみたいですけどぉ」
「ミスト、お前それ隊長に聞かれるなよ、てか俺にもやめろ」

 機嫌悪そうだな。二人とも。他の隊員も何やら自信なくしちゃってるみたいだし。任務大失敗なのに怪我した隊員が一人だったらむしろ良かったのでは? ハゲも根暗もあんまり口開かないし。上司の報告書なんか見れないしな……。そうだ。後でこっそり根暗の方の報告書盗み見よ。何が起こったか知るのは大切な事だよね。これはスパイ的な技術が試されますな! なんかワクワクしてきた!

「根く……クロードさぁん、昼飯まだですよねぇ? 私、今日部屋で食べるんでぇ、行ってきていいですよぉ?」
「……そうか? 悪いな」

 よし、後はあのハゲをどうにかすれば……。

「ハ……隊長! これ以上物壊されると経費で落としきれないんで、さっさと飯行って来てください!」
「ぬっ!? くぅぅ……」

 たい……ハゲは……、良し。出て行った。背中がいつもより小さい。

「どれどれ……?」

 ◆出張報告書◆
出張日時:天歴X年 心の月 癒しの日
出張先:特殊案件施設
出張目的:特殊案件

 …………馬鹿なの? コレなんの報告なの?

報告事項:負傷者1名

 え? この人のプライド高すぎ……? 報告書の意味ある? これ。

経過報告:現地着、査察執行開始。負傷1名。危険生物によるもの。続行は危険と判断し、撤退。

 ダメだ。ぜんっぜん内容が伝わって来ない。報告書の体を成してない。びっくりした。この内容で出すの? マジ?

特記事項:今回訪れた施設は必ず滅却すべき。

 なんとなくわかってきたぞ? これ、本当に大失敗したな。特に最後の一行、すごい私怨を感じる。何が起こったか分からないのにぶっ壊せってそりゃ無茶よ。危険生物って何よ。次回徴集されるかもしれないのにめちゃ不安。ハゲの態度と合わせて尚不安。

「…………おい」
「ひゃっ!?」
「何勝手に人の報告書見てるんだ?」
「す、すいませぇん!」

 やば、見つかった!!

「お前、せめてやるならもっと上手くやれ。それなりに隠密行動の講習は受けてるよな?」

 謎の方向性で説教されてる。

「ドアが無いのだから人が来る可能性は常に考えろ。そもそも足音に気を配れ! この場で読むな! 何かに写し取るなりしろ! 戦闘ばっかり伸ばしやがってこの脳筋くしゃくしゃ頭が!」
「はい、すいません……」

 前半はまぁまぁ納得できる説教だけど、後半ただの悪口だし。戦闘の方が得意なのは才能だし。この頭はちゃんとパーマ当ててるヤツだし。お金かけてるヤツだし。

「不服そうだな。覗き魔」
「イエ、ソンナコトハ」
「何が起こったのか気になるんだろう」
「すごい気になりますぅ」
「よし、お前も次回は戦闘要員として連れていかれるだろうし話しておいてやる」

 お、ケガの功名か? あの報告書じゃ何もわからないし。当事者の口から直接聞いた方が早い。けど、この人余計なフィルターかけて来そうだから用心しないと。

「まず、特殊施設というのは、地獄の生物の飼育施設の事だ」
「あー。それは分かります」
「目的は施設の接収。失敗したがな」
「え、アレ接収する予定だったんですか!?」

 私も文字でしか見たことないけど、内容だけ考えれば破壊が妥当だと感じたのになぁ。

「そうだ。一回目の査察の後、隊長に聞かされた。アレは手に入れると」
「何か良からぬことを考えてるんじゃないでしょうねぇ? 隊長」
「俺達の目的で良からぬことじゃなかったことが有るか?」

 言われてみれば、無い。しいて言えば明確な天界の敵、ドラメレクの処分ぐらいか。今回の査察も割とゴリ押しだったみたいだし。

「あ、でも私が聞きたかったのは中で何があったのかってぇ事なんですよぉ」
「想定外が二つあった」
「想定外?」
「ああ」

 何やら聞いてみると中にはドラゴンが居たらしい。まあ、存在自体はメジャーだし私も戦ったことは無いけど、実物を見たことくらいは有る。確かに正面切って戦うような存在じゃないな。あれは。

「居たのも想定外だったが、強さも我々が知るものとは遥かに違う次元のものだった。アレは恐らく竜王の血筋か何かだ」

 んー。たかが繁殖施設にそんなもん居るかね? 失敗の言い訳かも。

「次に、職員の強さ。お前も地獄で会ったのだろう?」

 誰の事かと思ったら地獄の魔王決定戦とか言うのに出てた参加者三人の事らしい。魔王になったらしい人は私に一方的に攻撃されてたし他の人もそんな強い魔力は感じなかったけどなぁ。

「デボラとか言う奴だがお前が会った時は実力的にどう感じた?」
「ああ、新魔王! いや、普通でしたよぉ? ドラメレクとサシの勝負は厳しいと思いました」
「何があったか知らんが、奴の実力はドラメレクとそう変わらんレベルだったぞ。隊長とも互角に戦っていた」
「いやいや、そんな馬鹿な。なんの修行したらそんな急激に強くなるんすかぁ。激しい怒りで何かしらの超と書いてスーパーと読む状態になったとかですかぁ?」
「俺にも解らん。ただ、あの施設内の生物に異常な魔力の高まりを検知した。どの生物も地獄の並み以上だ。話半分で聞いていたがやはりあの施設に成長促進の作用があるのかもしれん」

 だとしたら地獄の生物だけじゃなくその魔王にも効果が出てるって事!? ヤバい施設じゃない!?

「俺は、接収よりも破壊を提案したいところなのだが隊長がな……」

 うーん、成長促進が私達にも影響あるならトレーニング施設として欲しいところだけど。今現在も成長を続けてるなら早めに破壊した方がいい? のかな?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...