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第7章 地獄の魔王決定戦編

地獄の88丁目 予選②

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『それでは続き増して予選Cブロック始めたいと思い魔す! 注目選手はドラメレク様に歯向かう暫定元魔王、デボラ! せめて予選は突破して欲しいところであり魔す! それではヘルズファイト……レディ……ゴー!!!』

 コンフリーの掛け声でいよいよデボラの出場するCブロックの闘いが始まった。

 と、同時に30名ほどの脱落者が出た。どうやら戦意喪失やデボラの信望者らしい。開始と同時に半数が脱落したわけだが、デボラは中央で腕組みをしたまま微動だにしない。

「デボラ様! お気を付けて!」

 ベルは必死で応援しているが、予選で声を枯らすんじゃないかと心配なほどだ。

 闘技場に視線を戻すと、残りの半数は半数で互いを牽制したまま動けずにいる。やがてそのうちの一人が意を決したのかデボラに飛び掛かったが片手で闘技場の端まで吹き飛ばされてしまった。そしてその様子を見た10人ぐらいが棄権していった。残りの20人程はまた硬直して中には冷や汗をかいているものもいる。

「かかってこないのか?」

 悪魔や鬼などバラエティに富んだ闘技者たちは互いをキョロキョロと見回している。

「ならばこちらから行かせてもらうぞ?」

 この一言に闘技者たちが一つの答えを導き出した。

 ――多勢に無勢。古より伝わる喧嘩の極意だ。ここは一致団結してまず一人を蹴落とす。その後、自分たちの予選の本選が始まる。誰が発するという事も無く、デボラに対して一斉に攻撃を試みるが、デボラはその悉くを交わし、自ら闘技者達の渦の中心に歩を進めていく。そこからは本当に瞬きをする間の出来事だった。襲い掛かる剣、棍棒、拳を身をかがめて躱すと、一人二人と闘技場の端へ蹴り飛ばされていった。上から見ているといつかの線香花火のようだった。

 残り一人になったところで、最後の闘技者は力なくギブアップを宣言した。

「良かった。終わってみれば圧勝だったな」
「ええ! もちろん私はこうなると予想しておりました!」

 ベルは控えめな胸を張ってこう主張したが、それならばあんなに必死に応援することもあるまいと思ったが、黙っておいた。

 D~Fブロックは突出した闘技者がいなかったせいか、本物のバトルロイヤルになった。乱戦に次ぐ乱戦。血みどろの闘いを繰り広げた結果、EとFのブロックは予選突破を確定させたにも関わらず、戦闘不能となり、本選への出場は叶わなかった。

 そして、いよいよ俺の出番である。

 闘いか……、今までで喧嘩と呼べる小競り合いはいくつか経験しているが、それでもせいぜいが拳1~2発の話で、ここまで純粋な戦闘の経験は一般市民として当然の如く無い。どうして今こんなことになっているのか不思議なくらいだ。

 周りを見渡すと、目線は全てこちらに向いている。彼らの思いはきっとこうだ。

 ――なぜ人間が。

 角を隠しているせいもあるだろうが、今の俺はどこからどう見てもただの人間だ。それも周りの生物に比べると貧相極まりない。

「おい、ここは亡者が来るとこじゃねーぞ! ましてや生者なんぞどうやって潜り込んだんだ! 邪魔だから帰れ!」

 金棒を持った赤鬼さんがご親切に忠告してくれたが、本当にその通りだと思う。こんな大会なんか出ないで直接対決しとけば良かった……。

「一応、候補の資格はあると思いますんでお気遣いなく……」
「人間が!? 魔王!? ガハハハハハハ」

 赤鬼さんの笑い声につられて周りの参加者たちもドッと笑い出す。

「お前、ジョークにしても酷すぎるだろ! 悪いことは言わんからおとなしく刑罰を受けてろ、な?」
「俺も帰りたいんですけど色々事情がありまして」
「お、お前、本当に参加する気か!? どうなっても知らないからな!」

 そう言うと赤鬼さんは開戦の合図を待つように金棒を肩に担いだ。むしろここまでくると逆に親切な鬼さんなんじゃないだろうか。この鬼さんは最後に残そう。

『このブロックには珍客が紛れ込んでいるようですが、参加者に資格は要り魔せん どうぞ遠慮なく闘ってください!。それでは予選Gブロック始めたいと思い魔す! ヘルズファイト……レディ……ゴー!!!』

 案の定、まずは一匹とばかりに5人ばかりが向かってきた。だが、俺に戦闘の意思はほとんど無い。この大会には武器の持ち込みが禁止されていなかったので、俺は手に物理法則ムシ網を、腰にムシカゴを召還した。

「ドラメレクと当たるまでは徹底して実力を隠しときたいんでね」

 俺はボソッと呟くと、向かってきた5人を一斉にムシカゴ送りにした。何が起こったか分かっていないその5人はしばらくすると小さな声で出せ出せとせがんできた。心配しなくても後で闘技場の外に出すつもりだ。起こった異常に気が付いたのは周りの数名と上から見ている観客達のみ。

「行くぞ! よいしょおおおおっ!!」

 俺はムシ網を振り回し、手当たり次第にムシカゴに収めていく。周りで闘っていた者もここに至ってという事実に気づいたようだ。闘いの手を止め、俺の方に体の向きを変えた。

「お、お前! 何をした! 反則じゃないのか!?」
「こっちのカゴはある程度の衝撃を加えないと出てこれないように俺が作った。それで実力の線引きはしてるつもりだけど?」
「屁理屈こねやがって!」

 俺は赤鬼さん一人になるまで網を振るい続けた。その結果、

「お、俺はギブアップするぜ……、その網とカゴ、どんな魔力を込めたらそんなことになるんだ……」

 赤鬼さんには認めてもらえたようだ。という訳で、俺はシレっと本選出場を決め、ムシカゴの皆さんには逆恨みされないよう、キツく脅して解放した。観客からのブーイングは聞こえないふりをして。

「まさか、ムシ網をここで使うとはな」

 観客席に戻ると、デボラが噴き出しそうな顔で待っていた。

「別に他の参加者に因縁があるわけじゃないし、血なまぐさい戦闘を避けられるならこれでいいかなって」
「キーチローらしいな。フハハハ」
「他の参加者は納得しないだろうけどね」
「捕まえた奴らはどうしたの?」

 ローズが邪心飴を舐めながら聞いてくる。

「自ら中に入って魔力を開放したら、みんな黙った。ここで起こったことは口外無用。マーキングも済ませてあるって言ったら静かになったね」
「あー……」
「次はキャラウェイさん、頑張ってください!」
「よく考えたら私も実力隠したいんですよね。私の正体、見る人が見たらわかっちゃうと思うんですけど」
「ムシ網使います?」

 キャラウェイさんはゆっくり首を横に振った。

「適当に加減して闘います。それはキーチロー君が作ったことになっているのですから」

 そういえばそうだった。強度の調整はしたけど、自分で作ったは言いすぎたな。ハッタリとしては良かったと思うが。

「さあ、次のブロックが始まりますよ。本選でのことも考えて分析しましょう!」

 闘技場では次のHブロックの選手たちが入場を始めていた。変に凶悪な人が居ないといいけど。
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