上 下
85 / 125
第6章 魔王降臨編

地獄の78丁目 魔王、その名は

しおりを挟む
 うへぇ、ペッペッ! 口の中がジャリジャリする。なんだこれ、灰か? 俺の復活は……。なんだか頭がクラクラして重い。失敗したのか!?

「あれ、みんな……。俺、どうなった?」

 おかしい。みんな俺の声聞こえてないんだろうか。

「もしかして、失敗? 今度こそ地獄行き?」
「き、キーチロー………」

 あ、聞こえてた。良かった。けど、どうしたんだ? ベルもローズもキャラウェイさんも、セージやステビアも果てはエイダンまでみんながっちり固まって。

「どうしたの? やっぱダメ?」
「その………角………」

 は? 角?

「みんなに生えてる角が何か?」
「いや、お前の………」

 いやいや、俺人間ですよ? 角がどこに………。あれ………、頭が変だ。重い。
ペタペタと頭を触ると妙な違和感が………。

「ンなんじゃこりゃああああああっ!!!」
「おおおおち落ち着けキーチロー、だだだだ大丈夫だから」
「そうですよ、角ぐらい牛にも生えてます! キーチローさん!」
「とととりあえず解剖してみますか? ねっ?」
「キャラウェイさん! 落ち着いて! キーチロー! ここは一旦その邪心を……」
「ローズさんは……少し黙ってて……」
「魔族になったキーチロー君も……いい……」

 ちょちょちょっと待って待って、人間として蘇るはずだったんだが!? 俺に生えてるこの角はどう見てもデボラやキャラウェイさんと同じ巻き角なんだが!? おまけになんだこの湧き上がる力は! 使ったことも無い魔法や魔法陣が頭に浮かんでくるんだが!?

「何これぇ? どういう事ぉ?」

 俺は半泣きになりながら辺りを見回した。誰か今の状況をヒントでもいいから教えて欲しい。

「キーチローさんの肉体は半分魔族、半分人間、少し天使といった具合になりましたね」

 フェニックスのエイダンが思いがけず俺の疑問に答えてくれた。

「なんでそんなことに……」
「元々、キーチローさんの体には天使と悪魔のハーフの血が混じっていました」
「それって……」

 俺はチラリとデボラの顔を見た。向こうも視線に気が付いたようで、覚悟を決めたのか大きな深呼吸をした。

「我の血だな」
「えっ、デボラ様って……」
「天使と悪魔のハーフ……存在は聞いたことあるけど」
「そ、それで?」

 俺は急かすようにエイダンに続きを促した。

「そう、元々死ぬ前からキーチローさんの体には三界の血が流れるという特殊な状態で、復活そのものが不安定だったのですが、どういう訳か肉体の器よりも魂が強化されておりまして。そのままだと肉体が砕け散る恐れがあったのです」

 さすがにこれは、俺にも心当たりがあった。あの特訓は無駄じゃなかった……じゃなくてえらいことになるところだった。ラファエルさんめ……。

「で、急遽我の血で肉体の方の強化を図ったわけだのだが……」
「魔族と天使の成分が濃くなり、いよいよ人間を超越した何かになってしまったという訳です」
「どうやって生きていったらいいんだ……」

 俺は頭を抱えたがそこにはもっと頭を抱えたくなる現実が二本伸びていた。

「ひょっとして、魔法も使えたりするのかな?」

 俺は試しにいつもデボラやベルがやっているように人間の姿へ(角を隠すだけだが)変身してみた。

 念じただけで変われた。角が消えた。

「これなら、まあ、安心……か?」
「とにかく、今のキーチローの魔力は我やキャラウェイ殿はおろかあのドラメレクすらも凌駕しておる」
「そんな非常識な力が」
「趣味趣向に変化はありますか!? キーチロー君」

 キャラウェイさんが強引にカットインしてきた。

「魔族が普段何を食べてるのか知りませんが、俺は今お茶漬けが食べたいですね」
「ふむ、食事は変わりなさそうと。ドラゴンの肉を食べたいと思いますか?」
「いや、言葉で聞いただけではちょっと……食べたいとは思いませんね」

 実際、目の前で焼かれたらおいしいと思ってしまうのかも。前にデボラが飲んでいた地獄の酒も今なら飲めるか?

「ともかく、肉体のベースは人間プラス悪魔と言ったところでしょう。大半は人間の様ですが」
「天使要素はどこに?」
「髪が半分金色になってます。はい、鏡」
「んなあああああああっ!! フツメンなのにコレはイタいいいい!!」
「そそそそんなことはないぞ! キーチロー! 良く似合っておる!」

 サヨナラ……平穏な? 暮らし……。こんにちは……地獄の日々……。あれ、変身さえできればあんまり今までと変わりないか……。

「これからどうしよう」
「その魔力なら我はもう、魔王を名乗ることは出来ん。今日からお前が魔王だ」

 そんなことを急に言われても強さ以外にも色々あるだろ……。

「大体、地獄の知識なんて……」

 言いかけて俺ははたと気付いてしまった。もしかして【転送ダウンロード】とやらが使えるのでは? ていうか、デボラが起こす奇跡のような魔法が全部使えるとしたら本当に人間界にいてはいけない存在になってしまうが……。

「ちょっと試しにみんなの地獄に関する知識を【転送ダウンロード】してみていいかな?」
「うむ、良いぞ!」
「ええ、構いませんわ」
「恋愛に関する記憶は盗まないでね!」
「私も持っている知識を授けましょう」
「今まで……読んだ本の……情報は……全て頭に……残ってます……」
「僕も今まで見てきた生物や地獄の豆知識あげるよ!」

 割とみんな簡単に明け渡してくれるんだよなぁ……。ローズの恋愛に関する記憶は生々しそうで嫌だが。

「ありがとう、じゃあ【転送ダウンロード】!」

 あ、ヤバい。すごい勢いで情報が流れ込んでくる。地獄の常識、作法、場所、魔法、人、鬼、魔族、相関、食べ物、種族、生物、さ、酒の種類!? 閻魔、裁き、神、歴史、敵、あああああああああああああ……。

「あああああああああ」
「だ、大丈夫か!? キーチロー!」

 あああああああああ……。

「キーチローさん!?」
「だ、だい、大丈夫……」
「とても大丈夫そうには見えませんが?」
「いや、本当に大丈夫です。もう、大丈夫」
「そうか、ならいいが……」

 うん、もう大丈夫だ。俺はドラメレクを滅ぼし、魔王になれる。大丈夫。その方法をもう、持ってる。

「デボラ、俺はもう人間でも魔族でも天使でもない」
「ああ、済まない」
「俺が、魔王になるとしたら、ドラメレクとの戦いは避けられない」
「そうだな」
「今度は俺も力になれる」
「力になるどころか地獄でも随一の実力者だと思うぞ」

「だから、無事にドラメレクを倒したら一緒に住もう」
「ああ……そうだな…………ええ!?」

 もう、種族なんか気にしなくていいや。人間界でも地獄でも好きな方で暮らそう。
その両方だっていい。モヤモヤが吹っ切れた気がする。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

ウロボロス《神殿の中心で罪を裁く》【完結】

春の小径
ファンタジー
神がまだ人々と共にあった時代 聖女制度を神は望んではいなかった 聖女は神をとどめるための犠牲だったから

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...