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第6章 魔王降臨編

地獄の69丁目 箱庭への帰還

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『ああ、やっぱりキーチローさんですよね! なんか感じが違うんで危うく弾くところでしたー!』

「本来は弾いた方がいいよ、多分。変装とかの可能性もあるし」

『姿形は違和感あったんですけどー、魂の形がキーチローさんそのものだったんでー。いいかなーと』

「今回は助かったけどね」

 アルは冷静に迎えてくれたが、その他の人々は俺と俺の――あんまり言いたかないが――死体を見比べながら目を白黒させている。

「キャラウェイさん! 俺が死んだあとどうなったかわかりますか!?」
「死んだことは自覚してるんですね。だとしたら早く地獄で裁きを受けないと悪霊になりますよ! ナンマンダブ……」
「いや、もう既に一回、亡者として門をくぐってるんですよ! 色々あってここに戻ってきましたけど! ていうか元魔王がお経唱えてどうするんですか!!」
「えっ、元魔王!?」

 セージとステビアの声が揃う。しまった。一応、今はキャラウェイさんで通してたんだった。

「いや、あの、とにかくこの姿でいられるのも三時間しかないんで詳しくは地獄で話せますか? 裁判所まで来てください! 俺はそこにいます!」
「事態がまだ呑み込めませんが、君はいつも時間に追われていますね。まるでアリスの白兎だ」

 だんだん、人間界の文化に染まりつつある、地獄の住人達。たぶん、デボラの影響が大きいのだろう。俺はまた、ここにいないデボラたちの身を案じ、焦燥感にとらわれるのだった。

「白兎でもアルミラージでもいいんで、とにかく来てください! 裁判所ですよ!」

 言い終わると俺は閻魔様から預かった通信機のボタンを押し、地獄の閻魔様の元へ舞い戻った。

「閻魔様! 戻りました!」
「おお、して首尾は?」
「箱庭の中にはうまくは入れましたが、全部説明している時間は無いのでここに来てもらうように伝えました。会議室借りてもいいですか!?」
「ああ、構わん。前に面接に使ったところを空けておこう」

 俺は閻魔様に感謝を込めて頭を下げると、以前に使わせてもらった部屋でみんなが来るのを待つことにした。少しは待つかと思ったが、ものの十数分で、三人とダママがやってきた。

「すいません、キーチロー君の遺体を念の為、保存しておくのに少し手間取りました」
「保存とは?」
「昔のデボラさんの例もありますし、生き返る可能性も考慮しつつ」

 前回は生死の境だったけど、今回は心臓を貫かれてるわけだし、復活の目なんてあるのか? ともかく希望があるなら俺だってそれにすがりたい。このまま死ぬのはできれば避けたいに決まってる。

「なるほど。ありがとうございます。さて、本題ですが、デボラ、ベル、ローズの三人はここにいないという事は……」
「連れ去られた線が濃厚です」
「そうですか……。だったら救出に行かないと」
「ですが、現状明らかに戦力的に不利です。魔王二人がかりで止められたという事実は重い」
「やっぱり、キャラウェイさんて元魔王なんですか!?」

 セージは気になって仕方がない様子で口をはさむ。

「ええ、肩書がウザったいのでキャラウェイ=カミングスで通していたのですが、今はそれよりもデボラさん達の事が優先です」
「そうですね、失礼しました……」
「あ、どうか今まで通り私についてはキャラウェイで接してください。魔物オタクのキャラウェイさんとして」

 キャラウェイさんはセージとステビアを見つめるとパチンとウインクをして二人に今まで通りの応対を促した。二人もその意をくみ取ったらしく、短くコクリと頷くのであった。

「それに、キーチロー君は今、魂の状態です。地獄においてその姿で魔族と対峙するのは自殺行為を通り越して無意味です。まあ、人間だとしたら肉体があってもさほど意味はないんですが」
「そんな……デボラ達を見殺しにはできません!」
「私とて、彼女らを救いたい気持ちは同様です。しかし、ここは冷静にならなくては」

 何か……何か方法は無いのか! 焦る気持ちとは裏腹に何も名案が浮かんでこない。絶望的な気持ちで今はデボラ達の無事を祈った……。


  ☆☆☆


「(ベル、ローズ、聞こえるか?)」
「(……はい、デボラ様)」
「(ええ、通じております)」

 良かった。二人ともケガはしているようだが無事のようだ。近くに気配は無いが念のため使った【交信テレパス】でのやり取りも出来るな。後はこの忌々しい鎖だが……。そういえばヴォルはどうなった? 確かこの屋敷に捕らわれていたいたはずだが。

「(ヴォル、近くにおらんか? ヴォル!)」
「ウォッ! ウオゥ! グルルル……」

 どういうことだ……? 近くに居るようだが声が聞こえん。キーチローは地獄におらんのか? まさか、まさか……キーチローの身に何か……! いや、何かあろうものならここに居る者共悉く塵芥にしてくれる!

「(会話は出来んが鳴き声は聞こえる。しかし魔力は感じない……か)」

 結界のようなものが張られているのだろう。神の鎖すら食いちぎるフェンリルに拘束は無意味だからな。よし、ならば……。

「……ッ!」
「(デボラ様! 何を!)」
「(案ずるな。唇を少し切っただけだ)」
「ペッ」

 フフフ、両足はそのままとはな。ただ手を拘束して吊り下げておくなどこの我にとっては甘々すぎるぞ! 血を媒介にして魔力操作をすれば手が使えずともこのぐらいは……。

 壁の中に魔力を通すことぐらい容易いことよ。よし、結界の気配だな。後はこれを解いてやれば……。

「ウォッ!? ウォン! ウォォォ!」
「(こら、静かにしろ!)」

 後はヴォルを召還すれば……。フッ!

「ウォッ!? ウォゥ!!」
「(よし、ヴォル! 鎖を切ってくれ!)」 
「ウー……! ウォン!!」

 よし、言葉が通じなくてもこのぐらいは行けるな!

 さて、手さえ使えればこちらのものよ。ヴォルも連れてこれたし、ここは一旦退くか!

「(ベル、ローズ! 結界を頼む! 我は転移の準備をする!)」
「(御意!)」
「(合点承知!)」

 流石に敵の居城からでは時間がかかるな。ん? この魔力の流れは……。そうか、コキュートスに飛んだときの! ひとまずそこに行くか。

「準備出来た! 行くぞ! ベル、ローズ、ヴォル!」

 ハァッ!

「ふぅ……。ここまでくれば一旦は大丈夫だろう」
「いやぁ、拘束って思ったほど興奮しなかったぁ」
「何を呑気な……。さあ、ここもすぐに離れるぞ!」
「はい! デボラ様!」
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