76 / 125
第6章 魔王降臨編
地獄の69丁目 箱庭への帰還
しおりを挟む
『ああ、やっぱりキーチローさんですよね! なんか感じが違うんで危うく弾くところでしたー!』
「本来は弾いた方がいいよ、多分。変装とかの可能性もあるし」
『姿形は違和感あったんですけどー、魂の形がキーチローさんそのものだったんでー。いいかなーと』
「今回は助かったけどね」
アルは冷静に迎えてくれたが、その他の人々は俺と俺の――あんまり言いたかないが――死体を見比べながら目を白黒させている。
「キャラウェイさん! 俺が死んだあとどうなったかわかりますか!?」
「死んだことは自覚してるんですね。だとしたら早く地獄で裁きを受けないと悪霊になりますよ! ナンマンダブ……」
「いや、もう既に一回、亡者として門をくぐってるんですよ! 色々あってここに戻ってきましたけど! ていうか元魔王がお経唱えてどうするんですか!!」
「えっ、元魔王!?」
セージとステビアの声が揃う。しまった。一応、今はキャラウェイさんで通してたんだった。
「いや、あの、とにかくこの姿でいられるのも三時間しかないんで詳しくは地獄で話せますか? 裁判所まで来てください! 俺はそこにいます!」
「事態がまだ呑み込めませんが、君はいつも時間に追われていますね。まるでアリスの白兎だ」
だんだん、人間界の文化に染まりつつある、地獄の住人達。たぶん、デボラの影響が大きいのだろう。俺はまた、ここにいないデボラたちの身を案じ、焦燥感にとらわれるのだった。
「白兎でもアルミラージでもいいんで、とにかく来てください! 裁判所ですよ!」
言い終わると俺は閻魔様から預かった通信機のボタンを押し、地獄の閻魔様の元へ舞い戻った。
「閻魔様! 戻りました!」
「おお、して首尾は?」
「箱庭の中にはうまくは入れましたが、全部説明している時間は無いのでここに来てもらうように伝えました。会議室借りてもいいですか!?」
「ああ、構わん。前に面接に使ったところを空けておこう」
俺は閻魔様に感謝を込めて頭を下げると、以前に使わせてもらった部屋でみんなが来るのを待つことにした。少しは待つかと思ったが、ものの十数分で、三人とダママがやってきた。
「すいません、キーチロー君の遺体を念の為、保存しておくのに少し手間取りました」
「保存とは?」
「昔のデボラさんの例もありますし、生き返る可能性も考慮しつつ」
前回は生死の境だったけど、今回は心臓を貫かれてるわけだし、復活の目なんてあるのか? ともかく希望があるなら俺だってそれにすがりたい。このまま死ぬのはできれば避けたいに決まってる。
「なるほど。ありがとうございます。さて、本題ですが、デボラ、ベル、ローズの三人はここにいないという事は……」
「連れ去られた線が濃厚です」
「そうですか……。だったら救出に行かないと」
「ですが、現状明らかに戦力的に不利です。魔王二人がかりで止められたという事実は重い」
「やっぱり、キャラウェイさんて元魔王なんですか!?」
セージは気になって仕方がない様子で口をはさむ。
「ええ、肩書がウザったいのでキャラウェイ=カミングスで通していたのですが、今はそれよりもデボラさん達の事が優先です」
「そうですね、失礼しました……」
「あ、どうか今まで通り私についてはキャラウェイで接してください。魔物オタクのキャラウェイさんとして」
キャラウェイさんはセージとステビアを見つめるとパチンとウインクをして二人に今まで通りの応対を促した。二人もその意をくみ取ったらしく、短くコクリと頷くのであった。
「それに、キーチロー君は今、魂の状態です。地獄においてその姿で魔族と対峙するのは自殺行為を通り越して無意味です。まあ、人間だとしたら肉体があってもさほど意味はないんですが」
「そんな……デボラ達を見殺しにはできません!」
「私とて、彼女らを救いたい気持ちは同様です。しかし、ここは冷静にならなくては」
何か……何か方法は無いのか! 焦る気持ちとは裏腹に何も名案が浮かんでこない。絶望的な気持ちで今はデボラ達の無事を祈った……。
☆☆☆
「(ベル、ローズ、聞こえるか?)」
「(……はい、デボラ様)」
「(ええ、通じております)」
良かった。二人ともケガはしているようだが無事のようだ。近くに気配は無いが念のため使った【交信】でのやり取りも出来るな。後はこの忌々しい鎖だが……。そういえばヴォルはどうなった? 確かこの屋敷に捕らわれていたいたはずだが。
「(ヴォル、近くにおらんか? ヴォル!)」
「ウォッ! ウオゥ! グルルル……」
どういうことだ……? 近くに居るようだが声が聞こえん。キーチローは地獄におらんのか? まさか、まさか……キーチローの身に何か……! いや、何かあろうものならここに居る者共悉く塵芥にしてくれる!
「(会話は出来んが鳴き声は聞こえる。しかし魔力は感じない……か)」
結界のようなものが張られているのだろう。神の鎖すら食いちぎるフェンリルに拘束は無意味だからな。よし、ならば……。
「……ッ!」
「(デボラ様! 何を!)」
「(案ずるな。唇を少し切っただけだ)」
「ペッ」
フフフ、両足はそのままとはな。ただ手を拘束して吊り下げておくなどこの我にとっては甘々すぎるぞ! 血を媒介にして魔力操作をすれば手が使えずともこのぐらいは……。
壁の中に魔力を通すことぐらい容易いことよ。よし、結界の気配だな。後はこれを解いてやれば……。
「ウォッ!? ウォン! ウォォォ!」
「(こら、静かにしろ!)」
後はヴォルを召還すれば……。フッ!
「ウォッ!? ウォゥ!!」
「(よし、ヴォル! 鎖を切ってくれ!)」
「ウー……! ウォン!!」
よし、言葉が通じなくてもこのぐらいは行けるな!
さて、手さえ使えればこちらのものよ。ヴォルも連れてこれたし、ここは一旦退くか!
「(ベル、ローズ! 結界を頼む! 我は転移の準備をする!)」
「(御意!)」
「(合点承知!)」
流石に敵の居城からでは時間がかかるな。ん? この魔力の流れは……。そうか、コキュートスに飛んだときの! ひとまずそこに行くか。
「準備出来た! 行くぞ! ベル、ローズ、ヴォル!」
ハァッ!
「ふぅ……。ここまでくれば一旦は大丈夫だろう」
「いやぁ、拘束って思ったほど興奮しなかったぁ」
「何を呑気な……。さあ、ここもすぐに離れるぞ!」
「はい! デボラ様!」
「本来は弾いた方がいいよ、多分。変装とかの可能性もあるし」
『姿形は違和感あったんですけどー、魂の形がキーチローさんそのものだったんでー。いいかなーと』
「今回は助かったけどね」
アルは冷静に迎えてくれたが、その他の人々は俺と俺の――あんまり言いたかないが――死体を見比べながら目を白黒させている。
「キャラウェイさん! 俺が死んだあとどうなったかわかりますか!?」
「死んだことは自覚してるんですね。だとしたら早く地獄で裁きを受けないと悪霊になりますよ! ナンマンダブ……」
「いや、もう既に一回、亡者として門をくぐってるんですよ! 色々あってここに戻ってきましたけど! ていうか元魔王がお経唱えてどうするんですか!!」
「えっ、元魔王!?」
セージとステビアの声が揃う。しまった。一応、今はキャラウェイさんで通してたんだった。
「いや、あの、とにかくこの姿でいられるのも三時間しかないんで詳しくは地獄で話せますか? 裁判所まで来てください! 俺はそこにいます!」
「事態がまだ呑み込めませんが、君はいつも時間に追われていますね。まるでアリスの白兎だ」
だんだん、人間界の文化に染まりつつある、地獄の住人達。たぶん、デボラの影響が大きいのだろう。俺はまた、ここにいないデボラたちの身を案じ、焦燥感にとらわれるのだった。
「白兎でもアルミラージでもいいんで、とにかく来てください! 裁判所ですよ!」
言い終わると俺は閻魔様から預かった通信機のボタンを押し、地獄の閻魔様の元へ舞い戻った。
「閻魔様! 戻りました!」
「おお、して首尾は?」
「箱庭の中にはうまくは入れましたが、全部説明している時間は無いのでここに来てもらうように伝えました。会議室借りてもいいですか!?」
「ああ、構わん。前に面接に使ったところを空けておこう」
俺は閻魔様に感謝を込めて頭を下げると、以前に使わせてもらった部屋でみんなが来るのを待つことにした。少しは待つかと思ったが、ものの十数分で、三人とダママがやってきた。
「すいません、キーチロー君の遺体を念の為、保存しておくのに少し手間取りました」
「保存とは?」
「昔のデボラさんの例もありますし、生き返る可能性も考慮しつつ」
前回は生死の境だったけど、今回は心臓を貫かれてるわけだし、復活の目なんてあるのか? ともかく希望があるなら俺だってそれにすがりたい。このまま死ぬのはできれば避けたいに決まってる。
「なるほど。ありがとうございます。さて、本題ですが、デボラ、ベル、ローズの三人はここにいないという事は……」
「連れ去られた線が濃厚です」
「そうですか……。だったら救出に行かないと」
「ですが、現状明らかに戦力的に不利です。魔王二人がかりで止められたという事実は重い」
「やっぱり、キャラウェイさんて元魔王なんですか!?」
セージは気になって仕方がない様子で口をはさむ。
「ええ、肩書がウザったいのでキャラウェイ=カミングスで通していたのですが、今はそれよりもデボラさん達の事が優先です」
「そうですね、失礼しました……」
「あ、どうか今まで通り私についてはキャラウェイで接してください。魔物オタクのキャラウェイさんとして」
キャラウェイさんはセージとステビアを見つめるとパチンとウインクをして二人に今まで通りの応対を促した。二人もその意をくみ取ったらしく、短くコクリと頷くのであった。
「それに、キーチロー君は今、魂の状態です。地獄においてその姿で魔族と対峙するのは自殺行為を通り越して無意味です。まあ、人間だとしたら肉体があってもさほど意味はないんですが」
「そんな……デボラ達を見殺しにはできません!」
「私とて、彼女らを救いたい気持ちは同様です。しかし、ここは冷静にならなくては」
何か……何か方法は無いのか! 焦る気持ちとは裏腹に何も名案が浮かんでこない。絶望的な気持ちで今はデボラ達の無事を祈った……。
☆☆☆
「(ベル、ローズ、聞こえるか?)」
「(……はい、デボラ様)」
「(ええ、通じております)」
良かった。二人ともケガはしているようだが無事のようだ。近くに気配は無いが念のため使った【交信】でのやり取りも出来るな。後はこの忌々しい鎖だが……。そういえばヴォルはどうなった? 確かこの屋敷に捕らわれていたいたはずだが。
「(ヴォル、近くにおらんか? ヴォル!)」
「ウォッ! ウオゥ! グルルル……」
どういうことだ……? 近くに居るようだが声が聞こえん。キーチローは地獄におらんのか? まさか、まさか……キーチローの身に何か……! いや、何かあろうものならここに居る者共悉く塵芥にしてくれる!
「(会話は出来んが鳴き声は聞こえる。しかし魔力は感じない……か)」
結界のようなものが張られているのだろう。神の鎖すら食いちぎるフェンリルに拘束は無意味だからな。よし、ならば……。
「……ッ!」
「(デボラ様! 何を!)」
「(案ずるな。唇を少し切っただけだ)」
「ペッ」
フフフ、両足はそのままとはな。ただ手を拘束して吊り下げておくなどこの我にとっては甘々すぎるぞ! 血を媒介にして魔力操作をすれば手が使えずともこのぐらいは……。
壁の中に魔力を通すことぐらい容易いことよ。よし、結界の気配だな。後はこれを解いてやれば……。
「ウォッ!? ウォン! ウォォォ!」
「(こら、静かにしろ!)」
後はヴォルを召還すれば……。フッ!
「ウォッ!? ウォゥ!!」
「(よし、ヴォル! 鎖を切ってくれ!)」
「ウー……! ウォン!!」
よし、言葉が通じなくてもこのぐらいは行けるな!
さて、手さえ使えればこちらのものよ。ヴォルも連れてこれたし、ここは一旦退くか!
「(ベル、ローズ! 結界を頼む! 我は転移の準備をする!)」
「(御意!)」
「(合点承知!)」
流石に敵の居城からでは時間がかかるな。ん? この魔力の流れは……。そうか、コキュートスに飛んだときの! ひとまずそこに行くか。
「準備出来た! 行くぞ! ベル、ローズ、ヴォル!」
ハァッ!
「ふぅ……。ここまでくれば一旦は大丈夫だろう」
「いやぁ、拘束って思ったほど興奮しなかったぁ」
「何を呑気な……。さあ、ここもすぐに離れるぞ!」
「はい! デボラ様!」
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる