箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太

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第6章 魔王降臨編

地獄の67丁目 亡者となりて

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 生きてる人間だって薬物やアルコールなんかで人間止めちゃってる奴もいるぐらいだし、死んだとなっちゃ本格的に人間を止めた。という事になるんだろうが、俺みたいにたった一匹の虫をきっかけに人間止めちゃう奴ってのはそうはいないだろう。

 結局何度か訪れることになった地獄。けど、今回はいつも横にいた人が居ない。さらに言えばスタート地点に立っている。ああ、俺は本当に死んだんだな。希望を捨てろと言われてもな。こんな突然死んだとなると親の事も会社の事も、何もかも考える事すら出来ない。

 とりあえず見覚えのある門の前に立っているという事で、異世界転生に選ばれなかったという事は分かった。後は粛々と蟻を踏みつぶしたりしょうもない嘘をついた罪を償っていくのだろう。死の森に呼ばれないことを祈るのみだ。

「デボラ達はどうなったんだ。ダママは食われて無いだろうな」

 最後に見た記憶はみんながことごとくやられていく様。死んだわけではないだろうがかといってあのまま無事に済んだ保証もない。何しろ相手はあの気まぐれぶっ飛び全裸魔王だ。とは言えデボラ達のようにコキュートスに一瞬で行く術もなし。とにもかくにも自分の事だ。

「はぁ~あ、色々やり残しすぎだよなぁ。よく地縛霊にならなかったな」

 と思ったが、地縛霊になったところで落ち着く先は地獄だった。地獄の最深部で地縛霊とか嫌すぎる。まだまし……と思うべきなのか?

 とぼとぼ歩いているとやがて亡者の列が見えてきた。少し前は遠巻きに眺めるだけだったものを今や行列が出来る裁判所の最後列だ。と、その前に三途の川か。なんか見覚えがある人が亡者に川を渡る要領を説明している。カロンさんだ。

「あれ? お前、魔王様と一緒にいた……」

 自分の番が回ってきた時、向こうもこちらに気づいたようで亡者の列から離れて少し話が出来ることになった。

「今日は魔王様は? ていうかここ亡者の列だぞ」
「いや、今回は本当に死んじゃったみたいで……」
「え? で、魔王様は!?」
「それが、よくわからないんです……」

 俺は自分の体験をかいつまんで伝えたが、見る見るうちにカロンさんの顔が青くなっていく。

「前魔王が復活したってお前本気で言ってんのか!?」
「俺の見てた限りでは……。というか主に俺の死因というか」
「なんてことだ……こりゃ、閻魔様達にも知らせないと!」

 前魔王っていったい何したんだ? 仮にも地獄の統括者がここまで恐れられてるって尋常じゃないよな。

「お前は、一旦俺と来い! ちょっと色々事情が建て込み過ぎてる!」
「は、はあ……」

 という訳で俺は川を渡った後、以前通った場所を抜けて、裁判所に辿り着いた。カロンさんは俺に待っている場所を指示して奥の方へ駆けて行った。

「えらいことになった……」

 一人で待たされるとやがて色々と最後の場面や今までの人生の事が思い出される。走馬灯とはまた違うがゆっくりと自分の生きた証みたいなものを振り返った。

 ……さすがに小中学生の思い出は断片的だな。初恋の女の子や仲の良かった友達。どれもシャボン玉のように浮かんでは消えていく。高校いって大学行って、今の会社に入社して。心が少し疲れて虫を飼って。それがヘルワームで取り返しに来たのがデボラ。あの頃はまだ魔王様って呼んでたっけ。

「おい、キーチロー! お前も一緒に来い!」

 しばらく思い出に耽っているとカロンさんが呼びに来た。俺は馬鹿でかい扉に通され、そこに待っていたのは赤い顔をした閻魔様だった。全貌を見たのは初めてかもしれない。それぞれ大きな事務机に肘を置き、大きな椅子に腰かけている。

「今度は亡者の姿とはな。驚いたぞ。キーチロー君」

 仕事の時だけは眼鏡をかけているのか、閻魔様は大きさの合っていない眼鏡を少し手でつまんだ。

「辛いかもしれんが君が死んだ時の事をちょっと聞かせてくれんかな」
「はい……」

 俺はさっきカロンさんに話した内容に少し肉を付けて話した。

「ふむ、なるほど。それが地獄に来る前の出来事か。それにしてもドラメレクとはなぁ」
「あの人何やらかしたんですか?」
「何をやらかしたというと魔王らしいことは全て、かな」

 魔王らしいこと……。ゲームで言うと世界征服的な?

「いや、逆か。魔王らしいことは何にもしとらん。七つの大罪を極めし者じゃな」

 じゃあ、あのまんまか。欲望の赴くままに生きてそうな。

「天界にも喧嘩を売って敵に回すし、ワシらのように普通に生きとる鬼や魔族にとっては甚だ迷惑じゃった。そもそも魔王も半分自称のようなものじゃからな」
「え、あれって継承とか指名とかそういうの無いんですか!?」
「地獄で一番実力のある奴が名乗りを上げ、やがてそう呼ばれる。文句のある奴はかかってこいとな。ドラメレクの代は最悪の世代だったんじゃないか?」

 それでキャラウェイさんことバランさんもドラメレクとは反目しあってたように見えたのか。

「とにかく、その最悪な奴が蘇って、デボラ達が倒されてしまったんです! 俺が行ってどうすることもないですが、とにもかくにも現場の確認はしたい!」
「ふーむ。本来、君は死んで亡者となり、ワシの判決を受けて罪の重さで地獄へ行ったり煉獄へ行ったりするわけじゃが」

 煉獄? 天国へ通じる比較的罪の軽いものが行くところかな?

「君の場合、死因だったり、生前の肉体に宿っていた魔力だったり色々状況がややこしくてな。ワシだけでは判決が下せん。デボラちゃんたちにも話を聞いておきたいんじゃが、ワシも忙しくてここは抜け出せん。なんか地獄に伝手はないかのう?」

 そういえば、アルカディア・ボックスに残ってたセージとステビアはどうしているんだろう。彼らのスマホ(魔)を使えば連絡が取り合えるかも!

「あるにはあるんですが行き方が特殊というか……。もしこっちに帰って来てたら連絡も取れるんですが」

 俺はセージとステビアの事を話し、その場所に霊体? 亡者? の身で辿り着けるかどうかわからない旨を話した。

「分かった。事情が事情じゃ。君には特例で仮の肉体を与えるので、人間界でその方法が通用するか試してみてくれ」
「分かりました。もし、仮の肉体で上手くいかなかった時はどうしましょう?」
「この通信機のボタンを押してくれ。もし、失敗したとして押さずに現世で生きようとは思うな。肉体は二日ほどで土に還る。その後、君の魂は強制的にここへ戻され、地獄行きが確定じゃ」
「はい。肝に銘じます」
「では、しばらくお別れじゃ。人間界の君の家に送ってやる。デボラちゃんに会えることを祈っておる!」
「はい! ありがとございます!」

 俺は、地獄で死んで、人間界で一時蘇ることになった。
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