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第4章 箱庭大拡張編

地獄の44丁目 救世主、ベル

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「本日は、少し日が空いてしまいましたが、我が来都カンパニーの決算が無事に終了したことを祝して、ささやかながら慰労会を催しました。皆さん、今日は大いに飲みましょう!」

 皆川部長の挨拶で決算慰労会が始まった。皆川部長もコンフリーに憑依されたときはどうなる事かと思ったが、後遺症もないようだし、コンフリーをぶっ飛ばした後の記憶もうまく定着している様だ。

「いやあ、早速で悪いけどこの前は酔いつぶれちゃったみたいでごめんね? 安楽君」
「いえ、皆川部長も疲れていらっしゃるようですから、たまにはしょうがないですよ!」
「あの後、どうにか家に帰ったみたいだけど玄関先で寝てたみたいで女房にしこたま怒られたよ。年を考えなさいってね」

 いやあ、もっとマシな記憶にすればよかったかなぁ。確かに奥さんが怒るのも頷ける。

「今日はほどほどにしろって釘刺されてるからね。ははは」
「ま、まあ何事もほどほどが一番ですよ、ははは……」

 一方、阿久津はというと開始早々、女性二人が並ぶ座席の間に強引に割り込み、楽しそうに騒いでいた。二人のヒクついた表情が目に映っていないのか、饒舌に雄弁に自分語りをしている。キャバクラじゃないんだぞ、おっさんとツッコみたいところだが、グッと堪える。ベルも今頃この男をどう処理しようか考えているに違いない。

「アンラッキー君、調子悪かったペットはもう大丈夫?」
「ええ、ただの脱皮でした。もうそこからはすごい成長速度ですよ」
「脱皮かぁ、さすがに猫の飼い主から出来るアドバイスはないなぁ」
「猫みたいな動物を飼ったときは色々聞かせてください!」
「猫みたいなって、猫じゃだめなのかい?」

 滝沢先輩は怪訝な顔をして愛想笑いをする。

「それもそうですね、ハハハ。ただ、うちのアパートはペット禁止なんでどこかに引っ越さないと駄目ですね」
「残念だなぁ、知り合いで子猫の里親を探している人がいるから引っ越したら声かけてよ!」
「引っ越し資金も安くはないですからね……」

 としばらく他愛無い世間話で盛り上がっていると、皆川部長の、いや俺と滝沢さんを除く全員の顔色がいつの間にか悪い。原因はやはり奴だ。酒も進んできて上機嫌が限界突破している。

「二人はさ、彼氏とか作んないの?」
「あいにく縁に恵まれなくって……」
「私は今のところ恋愛に興味ありませんね」
「えー!! 縁なんてそこらに転がってるでしょ! こんな可愛い子がフリーだなんて社会の損失だよ!」

 広瀬さんがしまった、と言う顔をした。嘘でも彼氏がいる事にしてしまえばよかった。という事だろう。時すでに遅し、選挙の立候補者の如く、俺が俺がの猛アピールだ。自分の性格がいかに素晴らしいか。懐の余裕は心の余裕を生むんだなどと、どの口が言っているのか。下々の者どもにお優しい俺様としか聞こえない自己アピールは
確実に事故アピールとなって全員の陽気を削っていく。

「すいません、ちょっと連絡を」
「早く戻ってきてねー」

 ベルがおもむろに席を立つと、その数分後にスマホ(魔)が震えた。

********************
【ベル】【デボラ】

ベ:デボラ様、人間界での魔法行使の許可をいただけますか? アルカディア・ボックスとは直接の関係は無いのですが。

デ:ベルが必要だと思うなら使えばよい。私欲に溺れて魔法を行使するなどとは我は考えておらん。

ベ:ありがたき幸せ。キーチローさん。詠唱はこちらで済ませて席に戻ります。

********************

 ああ、阿久津君はついにやっちまったな。さりげなくベルの太ももにタッチしていたのが逆鱗に触れたのだろうか。それとも広瀬さんへの危機感の高まりか。どちらにせよ、私的な行使でないことは俺も後からデボラに説明しておこう。

「さて、許可も下りたので、遠慮なく」
「許可って何のことぉ?」

 席に戻るなり、ベルが阿久津の頭にそっと指先を触れた。さあ、【洗脳】か【誘惑】か、どっちだ!

「あー、ほんと。今日はお酒が進むなあ! 楽しいなあ! ねぇ、ベルさぁん」
「そうですね。さあ、みなさんも楽しみましょう!」
「はあ、素敵な声だ……。脳がトロけるぅ」
「どうしちゃったんだ、阿久津君は」

 皆川部長が心配そうに阿久津の顔を覗き込む。

「もう酔っ払っちゃったんじゃないですかね」
「どうしようもないな、この男は」

 ひそひそと滝沢さんが俺に耳打ちしてくる。俺も適当に相槌を打つが、これは恐らくベルの【誘惑】の効果だろう。制裁はこんなものかと若干の肩透かしを食らった気分だが、まあ、あまり人間界に干渉しすぎるのもどうかと思うし、妥当な判断だと思う。ただ、標的がベルに絞られるのが気がかりだが。

 ――そして、その後の慰労会は比較的和やかに進行した。途中ベロンベロンになった(と思われている)阿久津がベルの目を見て奴隷にしてくださいと宣言するアクシデントはあったが。正直、制裁が少し甘いんじゃないかと思っていたが、コレはもう多分会社に戻ってからもこのままだろうし社会的に死んだと言ってもいいレベルで全員がドン引きしていた。

 かくして、阿久津問題は一旦の終息を見せた。主に被害を受けていた広瀬さん、ベル、俺はその後女の子と用事があるらしい滝沢さんと奥さんに頭が上がらなくなってしまった皆川さんと別れ、二軒目の個室居酒屋へと河岸を移した。そして改めて今日の事を話し合うことにしたのである。

「なんか阿久津の奴、途中から変でしたよね? あんなに酔っぱらうタイプでしたっけ?」
「さあ? 私の魅力に抗えなくなったのでは?」

 ベルが冗談とも本気ともつかない表情で言い放ったが、俺は笑う事を選択した。つられて広瀬さんも笑顔になったが、今まで阿久津がしてきたことを思い出して真顔でベルに忠告した。

「奴がどういうつもりか分かりませんが、気を付けてくださいね? 下手したらストーカーになるかも」
「私は武術の心得がありますのでご心配なく。あの程度の男、いざとなれば骨の二、三本……」
「おーっと、物騒な話は置いといて。今日は気分を変えて飲みましょう! 多分、もう阿久津は大丈夫です」
「そうかなぁ……。何かあったら警察に通報するぐらいはやっちゃってくださいね!」

 今までの所業に堪りかねていたのか、その後も広瀬さんは阿久津への文句が止まることは無かった。逆にスッキリしたのか、二時間もすると広瀬さんは上機嫌で日本酒を5合を空けていた。

「なんか愚痴っぽくなっちゃったけどスッキリした! また今度このメンバーで飲みに来ましょう!」
「ヘイ、そうれすね! もう、俺も気持ちいい~」
「しっかりしてくださいね。キーチローさん」

 べるはともかくひろせさんもなんでへーきなんれすかね。おれはも へろへろ

「さ、また来週から仕事頑張りましょう! お疲れさまでした!」
「広瀬さんは送っていかなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ! この辺でたまに飲み歩いてますし、まだ終電まで時間ありますし! むしろそこの人大丈夫ですかね」
「大丈夫だと思いますよ。途中まで一緒ですし。じゃあ、お疲れ様!」
「おっつかれさましあ」

 ひろせはんはかえりみちがちがうですので俺とべるは、いっしょかえったます。
きょうはおつかれました!
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