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第3章 魔草マンドラゴラ編

地獄の36丁目 第2回方針策定会議①

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「ベルさん…、今の人は…?」
「コンフリー=コンラッド。先代魔王の側近です。しかし、同じ側近と言ってもその魔力、悪意は比較になりません」
「ちょ、ちょっと今になって足が…」

 ベルの様子を見て俺も急に足が震えだす。恐らく、ベルが間に合ったのは奇跡だ。

「とりあえずここを離れましょう。ボックスの中なら手出しは出来ないはずです」
「は、はい!」

 俺達は足早に自宅アパートへと駆け出した。背筋を冷たいものが流れるのがはっきりと感じられた。



 アルカディア・ボックスに着いてすぐ、魔王様達と連絡をとりあい、今後の対策も含めて全体会議を開くことにした。事は重大で急を要するのだが、今回も全員メガネは必須だ。

「ではこれより、第2回アルカディア・ボックス方針会議を行いたいと思います」

 司会進行は以前の通り、ベル。ホワイトボードの横に立っている。魔王様が来たことでもう平静を取り戻したのだろうか、涼しい顔だ。長机のお誕生日席には魔王様が着座し、上座には俺とローズ、キャラウェイさん。下座には今回採用の二人が配置されている。メンバーに上下の区別はないが、今回は自己紹介も兼ねるので、向かい合うように座っている。

「では、まず初めに今回からアルカディア・ボックスの運営に関わっていただくお二人から自己紹介をお願いします」

「初めまして! 僕はセージ=シモンズと言います。地獄では生物の観察と記録を担当していました。ただ、あまり重要ではないポストでしたので、使いっパシリも兼任です」

 キャラウェイさんがメガネをクイッと上げる。興味を示したらしい。

「好きなものは地獄の生物と男性、苦手なものは女性です! 宜しくお願い致します!」

 …………ん?

「好みは昆虫とキーチローさんです。趣味が合いそうで良かった……」

 ………………んん?

 キャラウェイさんはそっと目線を外した。セージ君は熱心な目つきでこちらを見つめている。

「宜しく頼むぞ! セージ! では、次!」

 魔王様はどうやらサッと流す方向のようだ。

「あ、あの……私はステビア=サリンジャーと言います。地獄では……書庫整理をやっておりました。キャラウェイ様が著された作品もいくつか拝読しております」

 顔が真っ赤になっているのは緊張の為か、はたまた書物の著者に会えた照れなのか。どちらにせよそこまでコミュニケーションの妨げになるようなレベルではなさそうだ。

「これはこれは、恐悦至極です! 生物の観察係に本の虫とは、正にこのプロジェクトの為に居るような人材ではないですか!」
「でも、動物の世話って意外と大変ですよぉ? 臭いし汚いし」

 ローズが少し先輩風を吹かせた。軽いテストのつもりだろうか?

「…………あぁ!?」

…………え?

「今、ワレ動物の事、バカにしたんか!?」

…………えぇ……。

「い、いや、動物のお世話は本当に大変と言いたかった訳で……」

ローズがしどろもどろに取り繕う。

「あ……、私ったら……また……。動物の事となると見境なくなっちゃって……。こんな性格だからあまり人と関わらないようにしてきたんですが……」

 なるほど。これはまた一癖も二癖もある人材が来ちゃったなぁ。よく考えると一番キャラ薄いの俺じゃね? 立ち位置ヤバくね?

「よっしゃ、自己紹介も終わったみてえだし、いっちょ話進めッか!!」
「キーチロー、余計なキャラ付けはせんでいい。ステビア、宜しく頼む」
「はい……宜しくお願いいたします」

「次の議題だ! ベル!」
「はっ! 続きましては、アルカディア・ボックスの現状につきまして、です。この議題に関しましてはお手元のレジュメをご参照ください」

 来たぞ……! 深夜のテンションで作ったから少し不安だがそれなりの体裁は整っているはずだ……!

「ふむ、この資料は中々よくまとめられている。キーチロー! よくやったぞ!」

 俺は心の中でガッツポーズをとった。ああ、我ながら良く調教されてきている。

「特にこのヘルローズの通称が地獄の薔薇になっている辺り、寒気がするほどスベッておる!」
「そこはマンドラゴラの副作用で少しハイになってました! すいません!」
「このまま『地獄生物大全』に載せていいですか?」
「いや、すいません。勘弁してください!」
「まあ、冗談はさておき、コレはキーチローさんにしか作れないでしょうね」
「お褒めに預かり光栄です!」

「キーチローさんて、本当に動物の事が好きなんですね! 尊敬しちゃうなぁ」

 お願い! その目で俺を見つめないで! 

「なるほど、動物の特徴や特性がよく記されていますね。読み物としては三流以下ですが」
「誰かー! ステビアさんの毒が凄いの! マンドラゴラ持ってきて!」
「ここに書かれているエサなどの問題点は魔物たちに直接聞いてみるのがよかろう。区画整理も我の魔法で何とかしよう。幸いボックスの方にも名前を付けて以来、魔力が溜まってきておる。それを利用すれば造作もないことだ」

 俺はキャラウェイさんの方へチラリと視線を移したが、キャラウェイさんもここについては話しておきたかったようですでに挙手していた。

「デボラさん、その名付けについてですが」
「なんでしょう? キャラウェイ殿」
「このアルカディア・ボックスでは魔物たちにも名前をつけているようですね」
「今はまだ一部ですが。それが何か?」
「アルカディア・ボックスに起きた事と同じ現象が魔物たちの身にも起きています」
「さすがキャラウェイ殿! よく観察しておられる! そう! 名付けを行った生物については魔力の増加と成長の促進が見られます!」

 話の方向性としては注意喚起なのだが、魔王様はとてもうれしそうに語っている。

「魔力の暴走といった危険性も無いとは限りません。念のため、名付けは生物の代表2匹程度に留めておいた方が無難でしょう」
「む……。まあ、確かにそういう見方もありますな。心得ました!」

「俺からも少し……」
「なんだ? キーチロー」
「この先も魔王様は地獄で捕まえた生物をこちらに送られるんですよね?」
「一応そのつもりだが、余り現状で増やしすぎるのもどうかとは思っておる」
「えっ、全然まともな回答が返ってきた」
「お前……魔王を何だと思っている」
「俺は水棲生物もいつかは飼育してみたいです!」
「ほう、では検討しておこう」
「ありがとうございます!」

 と、ここでベルが目線を送ってきた。そろそろ本題に入れ、という事だろうか。
そうだな。俺の命に関わる事でもある。会議のメインテーマに移るとしよう。
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