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第3章 魔草マンドラゴラ編

(閑話) 地獄のスカウトマン①

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 俺はエージェントK、この荒れ果てた地獄に送り込まれた新進気鋭のスカウトマンだ。今回の指令ミッションは、作戦名『楽園の鍵』

 雇い主はもちろんこの地獄の統括者、デボラ様だ。内容は俺にとって朝飯前どころか夜食のカップラーメン前、ってところだな。何しろ、雇い主が雇い主だ。交渉の手順を間違わなければ、地獄のトップに逆らえるはずもない。

 依頼はこうだ。

「キーチロー、すまんが代わりに交渉してくれ。この内容で駄目なら我にはもう策がない」

 俺は求人広告を見て人を集める気が本気であるのかと問い質したいところだったが、今回のミッションには時間制限があるので野暮な追及はよした。文句は言ったが。その後に魔王様からのこの依頼ってワケだ。

 さて、先ほどから少々語り口がウザったいことにお気づきいただけたなら幸いだ。俺のファンであると認定してもいい。そう、この雰囲気作りには理由わけがある。

「キーチロー。お前まさかそんなバカみたいな恰好で勧誘するつもりじゃなかろうな? 地獄の住人を舐めるなよ!」

 ……確かにバカみてぇな恰好だ。麦わら帽子に半袖半ズボン。ご丁寧に手にはムシ網、腰にはムシカゴ。元気ハツラツで昆虫採集に来ました! といったところか。

 俺が23歳という事実を除けば。

 そして、俺の記憶が確かならば、このバカみてぇな恰好をしつらえたのは他でもない、この魔王様だったはずだ。

「勧誘ならせめてエージェントらしい恰好をしろ!」

 俺の全身が輝きだし、まるでヒーローだの魔法少女だののように服が変化し始めた。

 黒の革靴、黒のスラックス、黒のジャケットに白いシャツ。ネクタイは魔王様のイメージカラーなのか深紅。そして、サングラス。

 なぜだか今すぐ逃げまわる奴を追いかけたい気分になる。ちなみに魔王様も同じ服に変化している。

 気持ちを変えるにはまず見た目から。これは作戦会議の時のメガネでも実践済みだ。要はそれらしい恰好をすればそれらしい言葉が紡がれる。そんな訳で、少々ウザったい語り口でお送りしていた次第だ。

 とにかく、最低でも二人は確保したい。ベルもローズももはや手一杯だろう。

 条件としては、動物好きで理不尽に屈しない、かつ性格がよくてコミュニケーションも十分取れる。ましてや給料など要求しない。そんな人物が望ましい。



 …………馬鹿か! ここは地獄だぞ! 高望みにも程がある。結婚相談所か!

 というわけで、とりあえず動物好きを探すことにした。もうすでにハードルが高い気がしてならない。なぜなら通りすがる職員が鬼の姿でスーツ着てたり、角と牙が生えた女の子だったり、まず声を掛け辛いからだ。

「デボラ様、ここは受付に行ってみませんか?」
「うむ。数を撃っても当たる気がせんな」

 裁判所の受付は地獄の住人専用だった。そもそも、地獄に送られてくる亡者に受付は必要ない。判決のプロセスは半強制的で、流れ作業のように行われるためだ。そうでもなければ毎日のようにやってくる十数万とも言われる死者に対応できない。

 俺は受付のお姉さんに軽くジャブを入れた。

「お姉さん、ちょいと人探しをしているんだが、助けてくれないかい?」
「仕事の邪魔になるようでしたら警備を呼んでつまみ出していただきますがご用件は?」

 張り付いた笑顔のお姉さんに強烈なカウンターアッパーを喰らった。

「……。俺の後ろに控えている御方をどなたと心得る!」

 腕組みをしたまま壁に寄りかかっている魔王様が受付嬢に向かっておもむろに投げキッスをした。

「デボラ様……ですか? 今日は何の御用ですか?」

 受付嬢はなおもめんどくさそうに対応する。想定外だ。普段、この魔王様は何をやっているんだ。

「地獄復興事業のスタッフを募集しておる。誰かこれぞ! という人材はおらんか?」
「でしたら、奥の人事部へどうぞ。職員の人となりはそれなりに網羅されているはずです」
「協力感謝する。おもてを上げてよいぞ」
「最初から上げてます。下げてないです。」

 今にして思えばローズの恐縮のしようは何だったのかと疑問に思われる程の塩対応だ。

「さて、行くか! キーチロー!」
「ハイ……。ボス……」

 俺の中での雇用主という設定も今しがた面倒になり消えた。

「はい、こちら人事部で……ってデボラ様じゃないですか! どうしたんです? 今日のその恰好は」
「重要な案件の一環だ。すまんがこの裁判者またはその近くの職員で動物好きの奴はおらんか?」
「はぁ……。そういうことでしたら何人か心当たりはありますが……」
「宜しい。では、集めてもらえるか? 話は閻魔に通しておく」
「えっ、今からですか!?」
「一刻を争う。頼む」
「は、はい!」

 かくして、地獄の集団面接が幕を開けるのだった……。
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