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第3章 魔草マンドラゴラ編

地獄の28丁目 余命9時間/蝶のように舞い

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 ウッディーの名前が決まってしばらく経った頃。俺達はうっかりキラービーの巣をつついてしまい、全力で逃げていた。

「に、逃げる方向はこっちでいいのか!」
「わかりません! とにかく逃げないと! あいつに刺されたらギャグ漫画みたいに顔が腫れる程度じゃ済みませんぜ!」
「これ以上、マンドラゴラが必要になる事態は避けたいですね」

「というか魔王様達の力で何とかならないんですか!?」
「魔王に就任した瞬間から、地獄の生物に対するむやみな殺生は禁じた!」
「私も観察対象にはなるべく手出ししない主義で」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……」

 と言いかけたところで俺は唐突に右手の頼もしいやつムシ網の事を思い出した。

「俺を舐めるなよっ!」

 どこかの漫画のワンシーンのように決めてみたかった俺は恥ずかしいセリフ回しと共にキラービー目がけてムシ網を振り回した。

 す、すごい! 振り回しているだけでグングン網に吸い込まれていく!

「フッ……。我が奥義、“乱れ網の舞い~夜の蝶~”振りし後に生物はなし……!」
「すごいですね! その網! ウッディー君の時も思っていましたがデボラさんはこういう工作が得意なんですか?」

 俺の奥義はスルーされ、魔王様は鼻を高くしている。元魔王様から見てもこの魔具の数々はすごいと思うものなのだろうか。

「人間界の研究を少々。人間は魔法が使えない分、道具を扱うことに長けておりましてな。そこに魔法をミックスしてやることで、とても便利な魔具の発想が湧いてくるのです」
「研究者として方向性は違えど大変意欲が刺激されますね」

「さて、一応捕らえたキラービーですが、こいつらを突然送ったらベルさん達びっくりしちゃいますよね」
「一旦、話してみよう。落ち着いたら帰ってもらおう」
「了解です!」

「では。キラービーさん達聞こえますか?」
「「閉じ込められた! 出せ! なんだコレは!? お前何者だ!」」

 ……だめだ。数が多すぎて会話にならない。

「代表者一匹で話してもらえませんか?」
「「俺が! いや、私だ! 僕に話させて!」」
「めんどくさいんで指名します。君!」

 俺は騒ぎまわっている奴らではなく、端っこでおとなしくしている一匹に指をさした。

「ちょっと聞いてください。我々は今、……ということをしていてその途中で……んで今、マンドラゴラを探しています。協力してもらえませんか?」
「亡者を刺しまくる任務と女王をお守りするという役目があるので案内は僕だけでいいですか?」
「ふむ。良いだろう。好都合だ。キーチロー、他の奴らを放してやれ」

 俺は命じられるがままに一匹を残してカゴから出した。何やら文句を言っているものもいたが、概ね良好に去っていったようだ。

「では、トレントのウッディー君と、キラービーの……名前はある?」
「ないですよそんなもの」
「じゃあ……ラビィ君!」

 やはりウッディーの時の輝きは見間違いではなかったようだ。ラビィに名前を付けた時もキラリキラリとラビィ全体が光った。これは恐らくアルカディア・ボックスに名前を付けた時の様な作用が魔物たちの間でも起きている……ということだと思う。

「ラビィ! いいですね! それじゃあ行きましょう!」
「案内なら俺一人でも十分なのに……」
「まあまあ、万が一今みたいに何かに追いかけられたときにはぐれたりしないとも限りませんし、余り大勢にならなければいいんじゃないでしょうか」

 キャラウェイさんのフォローもあり、一行の結束は強まったようだ。とはいえ、これ以上の人数で動けば目立つのもごもっとも。なるべく早くマンドラゴラに辿り着いてさっさと帰りたいものだ。

「よし! では調査続行だ! 我らを導いてもらおう。ウッディー、ラビィ宜しく頼む!」
「畏まりました!」
「いっくよー!!」

 ふむふむ。犬、木、蜂、一般人、魔王×2。昔話のハイブリッドのような構成ではないか。魔王×2が大分盛り過ぎ要素だが。これで後は……マンド……ラ……

「おい! キーチロー! どうした!」
「む? 毒の回りが少し早いようですね。とりあえず応急処置をしましょう」

 ……アレ? 声が遠く……なる……ぞ


 そして、次に目を覚ました時、最初に目に映り込んだのはウッディーの後頭部(?)。どうやら俺はウッディーにおんぶで運んでもらっていたようだ。だが、地面の向きがおかしい。おんぶされているはずなのに重力は俺の真下から感じる。

 これは……。

「ウッディー? 倒れてるのか?」
「魔王様? キャラウェイさん? ダママ! ラビィ!」

 辺りにマンドラゴラ捜索隊の姿は見えない。

「まずいぞ。死の森で一人っきりは非常にマズイ。ウッディー! なんとか起きてくれ!」
「う、うーん……」

 お、生きてた!

「ウッディー! よかった! 生きてた!」
「あれ? 俺寝ちゃってました?」
「俺が倒れている間に何があったか知ってる?」
「いやあ、大変でした。というか危ないところでしたよ」

「見たところ、魔王様達がいないようだけど」
「ケルベロスはその辺に倒れてるんじゃないですかね。魔王コンビとラビィは俺の微かな記憶によると先に行きました」
「なんでそんな事に!」

 ウッディーによると俺が倒れた後、魔花デスビオラが現れたらしい。非常に強い幻惑花粉を飛ばすそうで、まず臭いに敏感なダママが発症、続いてウッディー。さらには毒で倒れていた俺まで暴れ出したとの事。

「俺は植物なんで回復が早かったのか一番最初に眠らされたキーチローさんを背負ってケルベロスから逃げてたんですが」
「ウーム。全く記憶にない……」
「これ以上キーチローさんを動かすとマズイってんで全員一緒に寝かせて結界に入れたようです」
「なるほど。俺の容体が落ち着いているようだが……?」
「デスビオラはすりつぶして飲むとわずかに解毒作用があるんです」

 魔王様は殺生を禁じていたがこういう場合はOKなんだろうか。そもそもマンドラゴラも薬にするぐらいだから“むやみな”に引っかからなければいいのかも。

「なんにせよ、この数時間ぶっ倒れてばかりだ」
「結界から出れないようですしケルベロスでも探しましょう」
「連絡は出来るのかな」

 俺はおもむろにスマホ(魔)を取り出し、初めて耳のマークを押してみた。

「ゲヘヘヘヘヘヘ! ゲヘヘヘヘヘヘ!」

 思わず耳から離して終話ボタンを押してしまった。規則的に笑っているところから察するに呼び出し中の音みたいだが悪趣味にもほどがある。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

 で、着信音はデスボイスな訳だ。結界の中でもつながる便利アイテムであることはよくわかったがことごとく趣味が偏っている。まるで魔王斯くあるべしとでも言いたげな。

 俺は通話ボタンを押し、話し始めた。

「もしもし?」
「おお! キーチローか! どうだ容体は!」
「おかげさまでどうにか少し安定したようです」

「実はな、もうマンドラゴラを見つけておってな! お前も見に来るか!? お前を置いてきた場所からそう遠くないぞ!」

 すごくテンションが上がっているようなので、同意しておいた。わかってる。多分、俺の命とは関係なく、レアな生物を見つけた時の喜びだ。

「じゃ、今からダママとウッディーと向かいまーす。はーい。失礼しまーす」

 なんとなく仕事の電話みたいな切り方になったがいいだろう。よし、ついにマンドラゴラとのご対面だ!
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