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第2章 魔犬ケルベロス編

地獄の24丁目 これがホントの生き地獄③

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 ヘルアント以降、特に珍しい個体にはあまり出会うことはなく、ありふれた魔物については魔王様の一睨みで撃退していた。この1時間で動物系2種、植物系2種ほど暫定フィールドに送ったが。

 地獄の生き物の共通点として、

① 大きい(同じような人間界の生き物と比べて)
② 凶暴(変わったものを見ると襲ってくる)
③ おとなしいやつは逆にヤバイ(毒だの幻覚だの特殊能力持ちが多い)

 以上の事が見えてきた。

 魔王様によるとこの辺はまだ地獄の端の方で比較的おとなしい生物が多いとの事だが、奥に進むのが怖くなってきた。

「キーチロー! どうだ地獄は! いいところだろう!」
「まぁ、想像通りというか人間界じゃ色んな人が『見てきた!』ってやってますからね。俺も本なんか出して印税で暮らそうかな……」
「書き方に注意しないと天界を怒らせるか地獄を敵に回すことになるぞ。特に生者に希望を持たせる書き方はやめておいた方がいい。フフフ」

「俺には文才が無いので止めときます」

 文才が無いのは事実だが、天国も地獄も敵に回すだなんて恐ろしいことできるわけがない。魔力を分けてもらっただけの一般人だぞ! こっちは!

「ん……。また何か生き物くるよ」

 ダンは空を見上げて鼻をヒクつかせた。マツとマーも気配を察知したらしく一斉に上を向いた。

「お? あれはヒクイドリか?」
「え? ヒクイドリって空飛べましたっけ。危険な生物だった気はしますけど」
「あれは正真正銘、火を喰う鳥だ。あいつがいるという事は焦熱エリアが近いな」

 なるほど、人間界のヒクイドリと別物か……。というかあの空の旋回行動は獲物を狙っているんじゃないのか?

「よし、キーチロー。あいつも連れて行こう。数は相当減っていたはずだ。オスかメスかしらんがどちらかが捕えられると怒ってパートナーが襲ってくると図鑑には書いてある」
「美しい話じゃないですか」
「という訳であいつが襲ってきたら遠慮なくムシカゴにぶち込め」

 イエッサー、ボス。

 ん? アレ何メートル上空にいるんだ? まだ降りてこない……。

 え? 大きくない? 共通点①とは書いたが、降りてくる頃には鳥人間コンテストに出場できそうなぐらい大きくなりそうだぞ?

「あ、これヤバい奴だ」
「来るぞ! ムシ網! キーチロー!」

 恐らくはるか上空を旋回していたヒクイドリは俺に狙いを定めたらしく、まるでミサイルのように猛スピードで落ちてくる。

 俺はヒクイドリがスッポリ収まるより少し大きいぐらいの網を想像し、ジャストタイミングで振り下ろした。この網の恐ろしいところは全く手ごたえが無くてもある程度タイミングさえ合っていれば吸い込まれるように魔物が収納されるところだ。

 キーチローは“ヒクイドリ”を捕まえた!

【ヒクイドリ】
体長:(翼を広げて)4m
武器:鋭いくちばし、火を吹く
性格……はもういいか。地獄の生物はみんな『獰猛』!
紅い羽毛に覆われており、翼の骨が通っていると思われる部分のみ黄色く筋が入っている。美しい鳥だ。

「おい、人間。なんだコレは。どうなっている」
「お、なかなかの美声イケボ。」
「ふざけているのか? 早めに出せ。さもないと……」
「そう警戒しなさんなって。これは魔王様のご命令だ!」

 ……ちゃんと説明しないとコレはただの密猟者だな。

「ヒクイドリはエサ自体は簡単だぞ! 地獄の炎は消えないからな!」
「アレは……、デボラ=ディアボロス! なぜ地獄の魔王がこのようなことを」
「キーチロー、伝えてくれ。我は地獄の悪人どもがいないところで伸び伸びと過ごして欲しいと願っていると」

「……だそうです」
「ふーむ。試みは面白いが、果たして上手く行くかな? まぁ私達の仲間もどんどん連れ去られたからな……」

 そうこう話しているうちにもう一匹のヒクイドリが現れた。恐らくこの美声の持ち主の奥さんだろう。

「気を付けろ! 私の妻は家族を連れ去られている。私が捕らえられていることを知ったら本気で襲ってくるぞ!」

 彼の言う通り、激しい勢いでこちらに向かってくる。これは気合を入れねば。俺はさっきよりさらに大きめを想像し、万に一つも取りこぼしが無いようにムシ網を振りかざした。

 結果、ヒクイドリの夫婦は揃ってムシカゴに収まることとなった。旦那さんが事情を説明してくれたので、最初は興奮していた奥さんも何とか落ち着きを取り戻し、こちらの話を聞いてくれることになった。

「まずは地獄の魔王として、荒れに荒れている生態系を詫びねばなるまい。この野放図な現状は我の不徳の致すところである」

 ヒクイドリ夫婦に通訳すると、奥さんは口を開いた。

「なぜ、人間に言葉が通じるのかはわかりませんが、ともかくこの機会にお話させていただくことを光栄に思います。魔王様」

 ヒクイドリの奥さんは軽くお辞儀をすると、続けた。

「私の父と母、それに弟は悪意を持った魔族に連れ去られました。その後の行方は分かっておりません。ですが、地獄にいればいつかは再会が叶うと信じ、夫と連れ添って暮らしておりました」

「そうか……。我としても乱獲の類については頭を痛めておってな。再会についてはこちらでも何かと協力する故、我の箱庭にて吉報を待ってはくれぬか」

「そういう事でしたら……。あなた方を信用します。私の今の望みは夫を奪われぬ生活ですから」

 俺、こういう話弱いんすよ……。ていうか、そりゃあみんな獰猛になるわな。不審者を見たら逃げるか襲うかするわ。

「じゃあ、暫定フィールドに送ります。その先ではベルとローズという人が待機していてくれるはずですので心配しないでください。二人ともいい人、いやいい魔族ですから」

 自分で言ってて何を言ってるか分からんがこれが今の俺の率直な気持ちだ。いい魔族って何なんだろう。

「では、また会いましょう。キーチロー」
「さらばだ、キーチロー」

 何匹か暫定フィールドに送ったが、最初の頃に感じていていたどこか後ろめたい気持ちはヒクイドリ達のおかげで今や幾分マシになっていた。

「きちんと気持ちを伝えれば割とわかってもらえるもんですね」
「ああ、だからこそお前の存在が重要なのだ。これからも頼むぞ! キーチロー!」
「うっし! 任せてください! 魔王様!」
「ワン! ワン! ワン!」
「ああ、もちろんお前たちも頼りにしているぞ! ダママ!」



 気合も十分、後は図鑑の作者を探し出して協力依頼すれば地獄巡りは終了だ! 意外と早く終わりそうだぞ!
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