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第2章 魔犬ケルベロス編

地獄の18丁目 作戦会議をするぞ!

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 あの夜以来、ローズは非常に真面目にヘルワームやケルベロスの世話をしている。そしてまたそんなローズの頑張りに感化されてか、ダママもまた少しずつ歩み寄りを見せている。

 例えばエサについて。今までは置かれていたものをローズがいなくなった後にのそのそと起きだして食べにくるのが普通の光景だったが、今ではローズが差し出したものをその場で食べ始めている。これまで魔王様がずっと担当していった散歩もローズがたまに変わってもらえるようになり、ダママもそれを割と黙って受け入れている。

 魔王様もこの変化には大変満足のようで(散歩の交代は少し渋っていたようだが)散歩から帰ってきた二人を出迎えたりしていた。

「ダン、マツ、マー! お帰り! ローズとの散歩は楽しかったか?」
「ローズ、思ったより足早いよ!」
「駆けっこで負けちゃった!」
「俺、寝てたからよくわかんない」
「そうかそうか! 何か面白い発見はあったか!?」
「んーとね……。あんまりなかった」
「そうか……」

 ダンの言い分も解る。俺も何度か散歩に出たが、この地獄の風景は代わり映えがない。おまけに生物も雑草の類を除いていないときているから遠くまで行く分には気分ぐらいは変わるかもしれないが、その辺をうろつくぐらいでは直ぐに飽きてしまう。

「差し出がましいようですがやはり生物が今は少ないようですわね。この辺は一回りすれば見慣れてしまいます」
「かといってあまり無作為に増やすとどんな弊害があるかわかりませんしね……。貧弱な俺が襲われたらひとたまりもないし」
「デボラ様の魔力の断片でも感じて襲ってくる生物はそうはいないはずです!」

 例外は付き物と言ったのはあなたなんですが……。

「ヘルワームたちは何か言っておるか?」
「彼らは相変わらずです。エサをやっていればそれほど動き回ることもありませんし」
「よし。各自、ここまでのアルカディア・ボックス運営に関して問題点・改善点を持って来い! 希望があればある程度検討してやる!」
「はっ!」
「はい!」
「は、はいっ!」

 さて困った。仕事みたいになってきたぞ。今はそれほど本業が忙しくないが、かといって忙しくない時期に忙しくなりたくない。かといって適当なことをすると魔王様、ベル辺りが黙っちゃなさそうだ。

 問題点か……。悪臭問題はクリアしてもらったし、生物達との意思の疎通も問題ない。むしろ普通のペットよりも密なぐらいだ。後は地獄の風景と、今後の生物の増やし方……てところか。

 そして、二日後。俺達四人はローズ邸の一室で会議を行うことになった。と言うかローズ邸に会議室が出現したというべきか。どこから持ってきたのか長机と10脚ほどの椅子(誰が参加する予定なんだ)、そしてホワイトボード。これはベルが人間界での使い勝手の良さに設置を熱望した物でもある。もちろん、マーカー、クリーナー完備だ。

 そして、最大の謎は全員眼鏡着用が義務付けられていることだ。魔王様曰く『真面目に見えるから』とのことだがいったい誰にそうみられるためのものなのか見当もつかない。

「全員揃ったな? では、第一回アルカディア・ボックス方針会議を行う。ベル、進行を」
「畏まりました。では、早速皆さんのご意見を伺いながらこの素晴らしきアルカディア・ボックスをどのように発展させていくかを検討いたしましょう。ローズさん、お願いします」
「はい、この三か月ほどヘルワーム、ケルベロスを直接世話しておりましたので、いくつか所見を述べさせていただきたいと思います」

 眼鏡の効果か、みんな口調が真面目になっている。見た目から入るというのも存外悪くないアイディアかもしれない。さすが魔王様。

「では、まず第一に。キーチローが居ない時には意思の疎通が途切れるという点です」

 ベルがホワイトボードにでかでかと<問題点> <要望> <展望>と書き出した。あの辺のお題に沿って話せばいいということだな。

「アルカディア・ボックスの魔力やスマホ(魔)の力でキーチローと繋がっている時は魔物たちの意思が表示されるのですが、キーチローがそれらに触れていない時は経験則で行動するしか無くなってしまいます。現状、不具合等は起きておりませんが数が増えたり、難しい性格の子が来たら対応が難しくなる可能性もあります」

「これは問題点と、要望にまたがる意見と言うことでよさそうですね。デボラ様、対応はいかがいたしましょう」
「ふーむ……。これはキーチローにしかない特殊な力に起因しておるからなぁ。基本的には経験則に基づく対応でいいだろう。キーチローの能力はあくまで補助的なものとして考えておくがよいかもしれん。緊急事態等には真価を発揮するだろう」
「とはいえ我々にも経験則が乏しいのは事実。これに関しては図鑑の作者追跡を進めるのがよかろう。秘策もあるので心して待て」

「なるほど。ローズはどう考えますか?」
「そうですね。デボラ様の仰る通り、病気やケガの場合には迷わずキーチローに連絡いたします。私も最近やっとダママ達と気持ちが通じ合ってきたようですので」
「では、この件に関しては図鑑の作者捜索を継続と言うことで。第二はありますか?」

「はい。第二は作業員の拡充についてです。今後飼育生物が増えるのは間違いないのでその際は増員対応していただけるのかと案じております」
「うむ。当然の疑問だな。答えはYESだ。地獄にも真面目な奴がいないでもないだろう。そいつらをひっ捕らえて世話係に任命しよう。これは地獄の最大の栄誉である!」

 さらりと強権を発揮する辺り、魔王様の魔王様たる所以だ。

「ありがとうございます。私からの要望は以上です」
「では、キーチローさん。何かありますか?」
「基本的にはローズさんと同意見です。四六時中スマホ(魔)に触れていられないのはご承知の通りですが、魔物たちも頼もしく成長してきたので、心配はしていません。今後についてですが、本業の方が4月を境に圧倒的に忙しくなります。そこについてはベルさんも同じような状況にならざるを得ませんので作業員の補充はその辺を目途にお願いしたいです」

 ダママはほっといても魔王様が喜んで相手してくれるけどな。

「今後の展望ですが、この前少し触れたようにダママ達の散策コースやヘルワームたちの住める森などを考えております。これに関しては実現はだいぶ先になるでしょうが、彼らの成長に合わせてなるべく早く実現してあげたいです」

「ふむ、最初の頃のキーチローと比べてなんと前向きな事よ。なあ、ベル」
「はい。このまま魔族に引き込むのも悪くないかもしれません」

 この手の話題に関してはたまに冗談に聞こえないから怖い。というか冗談のつもりもないかもしれない。俺は人間で居たい!

「このまま生きていけば地獄行きもあり得るかもしれませんね。と言うか多分そうでしょう」

 三人がこちらを見てニヤついている。モテる男は辛いぜ。

「では我からも一つ。先ほどの『秘策』についてだが、我はキーチローとダママと共に地獄へ行こうかと思う」
「え?」
「ケルベロスと言えば犬だ。犬と言えば追跡だ。追跡と言えば図鑑の作者だ!」
「はぁ」
「という訳で、キーチロー。ケルベロスの成長を待って地獄へ行こう! お前の仕事とやらも忙しいのはこれから2~3ヵ月の話だろう?」
「そ、そうですね」
「ダママもそのくらいあれば少しは大きくなるだろう。そこから地獄巡りの開始だ!」

 という訳で俺は死後を待つことなく、地獄行きが確定した。
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