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第4話 魔王様、空腹です!

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「なっ、なんだこれは!!!!」

 外は丁度、日が真上に来ている頃。ひとまず周りを見渡してみると、我が城Ver.2は見晴らしの良い崖どころかただの平地に突き刺さったドラゴンキラーの真下だった。ひとまず、地下帝国の領土拡大については問題ないだろう。

 だがっ! だがしかし、これはあんまりではないだろうか。扉初号機が引っ掛かっていたのは、大量の不法投棄。あれは、簡易コテージだろうか。木の盾やひのきの棒もある。恐らく序盤の装備をコレクターチックに集めていたが、帰路に着くに当たって持て余したのだろう。モンスターの素材のようなものもある。とても生臭い。あれは……、イベントアイテムか? ヒュージブリッジのスイッチを押すのに使った鉄塊だ。確かにもう使い道無いけども! あろうことか勇者一味、産業ならぬ勇者業廃棄物を投棄していったのである。

「ん? ちょっと待てよ?」

 ということは何か? 俺の墓も不法投棄のついでにノリで作ったってことか? 装備の中でもそこそこ高価なものだというのがせめてもの救いだが、人の墓をゴミ捨て場の近くに作ったってことか!?

「ぉおぉのぉぉぉぉれぇぇぇぇぇっ!!! あいつら、いくら相手が魔王だからってやって良いことと悪いことがあるだろ!」

 例え、マジックバッグを圧迫していたとしてもゴミは持ち帰れよ! 魔王討伐はお家に帰るまでが魔王討伐でしょうが!!!!

「ハァッ、ハァッ、………ハァァァァァ………」

 俺は深いため息と共に涙を溢さぬよう天を仰いだ。

「もう怒った。ストーカーだろうがなんだろうが知ったことか! あいつらの私生活徹底的に暴いて攻略したる!」

 そうだ、我は魔王。何はばかる事無く魔王をやればよいのだ。そうと決まればドローンの大量生産だ。奴らの動向だけでなく人間界の動向も交えて奴らの弱点を探し出してやる。そして、目指すはハーレムエンドよ。ククク……ハハハハハハ!!!

 アーーーーーーッハッハッハッ!!! ハ、ハ、ハ……、腹減った。

 急にとんでもない虚しさが襲ってくると同時に腹の虫が鳴き始める。そういえばこっちの世界では何を食べてたんだったか。

 魔王らしい食事というものを覚えていない。もう90年も前の話だ。今はむしろニホンで食していたご飯に味噌汁に漬物、おひたしや焼き魚の姿がありありと目に浮かぶ。ああ、贅沢は言わない。お茶漬けでいいから食べたい……。

 しかしそれも叶わぬ夢。こちらには米も無ければお茶もない。この広い世界のどこかを探せば近縁種があるのかもしれんが今は一刻も早くあの懐かしきニホン食を食べたいのだ。

「おのれ……、次元転移に必要なものが揃えばいずれは……」

 嘆いていても仕方ない。まずはやれることを一歩ずつ、だ。

「フム、落ち着いて周りを見てみればこの景色は見覚えがあるぞ。我が城Ver.1の近くではないか」

 俺が倒されたすぐ後だ。城に帰れば何か食べ物ぐらい残っているかもしれん。しかし、勇者の倒し残しの魔物や部下がいたらどうしよう。あいつらのことだ。魔王様が帰ってきた! とか王の帰還だ! とか盛り上がって再度人間界への侵攻を訴えかねない。

 まぁ、魔王としての俺を支えてくれた四天王は俺が勇者にけしかけて一人残らず倒されるのを目の当たりにしたわけだが……。役割とは言え悪いことしたよ。実際。あんな強いと思わないじゃん。次々やられていくからこっちもちょっと引いてたし。「ま、魔王様……、必ずや魔族に栄華を……」とか言いながら死んでいくからこっちもその気になっちゃったけどさぁ。

「あいつらも平和な世界に転生して第二の人生を満喫してるといいけど」

 さてさて。見えてきたな、我が城一号。落成した時は感無量だったもんだ。今は勇者一行が大暴れしながら我がもとへたどり着いたものだからあちこちにそれまでになかった損傷が出来て、当時の荘厳な姿は見る影もない。まぁ、ある意味おどろおどろしさがあっていい雰囲気なのかも。レッツポジティブ!

「ぐあっ!? も、門が無い!」

 あいつらせめて門は開けて入って来いよ! なんてお行儀の悪い奴らなんだ! さっきまでのポジティブシンキングもどこへやら。よく見れば見る程、意外な城の惨状に心のダメージが凄まじい。そして、さらに追い打ちをかける様に俺の脳にある事が思い浮かんだ。

 元仲間の死体だらけだったらどうしよう。いや、そうなっているはずだ。勇者達が攻めてきたんだから。しかし、空腹の度合いも増してきた。ここは勇気を振り絞って中をあらためるしか……ないか。

「ああっ!! 大事にしてた像が!!」

 城に入ってしばらく。目に飛び込んできたのは凝りに凝った内装がボロボロに破壊されている様だった。

「ひ、酷い……。何のうらみがあってこんな真似を……」

 と、嘆き悲しんだところで気が付いた。ここの手前の部屋で銅像やカーペットに化けた手下を配置していたのだった。勇者達の心理からいってそれらを警戒して攻撃するのは当然の事と言える。

「そうか……、何もかも自業自得というわけだな……」

 しかし不思議なことに死体の一つ、血痕すら見当たらない。ううむ。どういうことだ……? まぁ、よくわからんことは今考えても仕方ない。ここは一つ食事をして気持ちを盛り上げなければ。このまま自分の殺害現場に突き進むハートの強さは今の俺には無い。

「よし、さすがに食糧庫方面は無事なようだな。勇者達にとっては興味ないもんな」

 これまでのところ、城内に人及び同胞の気配はない。ダイニングを抜けるとすぐにキッチンが見えてきた。普段は二十人からの料理人が立ち並び、城の料理を一手に引き受けていたものだ。あいつらも勇者に抵抗したのか、はたまた逃げ出したのか。その姿はもうどこにもない。勇者の侵攻に気付いていたのか、調理中の物はさすがに残っていなそうだな。

「久しぶりに自分で料理するかぁ……」

 久しぶりの料理はニホンでの暮らし以来だ。魔王生活をしていたころは料理人が作ってくれたし、一人で暴れまわっていたころは魔獣の丸焼きなんかだし料理とは到底呼べない代物ばかりだ。

「ん? なんだこの匂いは」

 キッチンの方からやたら香ばしい香りが漂ってくる。よく思い出せないがこんな香りをこの世界で嗅いだことがあっただろうか。むしろ……この香りは……?

「誰か居るのか!?」

 キッチンを覗き込むと、突然、俺の顔めがけて包丁が飛んできた! 俺はかろうじてそれを躱し、包丁が飛んできた方向を振り返ると、一人の女が立っていた……。
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