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娯楽の街に辿り着く前に、カルラには見慣れた制服が目に入る。
と言っても、コートに隠れてチラチラとしか見えないが、そのコートも特徴的と言えるだろう。
彼等は馬で、大急ぎでこちらに向かって来るが、先を見据えている所為か、旅人達には見向きもしない。
それもそうだろう。
彼等の資金源で有る膨大な魔石が、魔力研究所の研究員に依って、全て、何の価値にもならない只の石になったとの報告があの街から入った為、他者に構う余裕が全く無いからだ。
そんな研究も指示も出して無い彼等にとっては寝耳に水だし、それが事実なら、早急に対応しなければならない。
まぁ、対応と言っても、カルラが変質させた石は、元に戻る事も、変質させる事も出来ないが。
そんな彼等がカルラ達の横を勢い良く通り過ぎるのを、カルラは冷めた目で見送る。
「ねぇ。あの制服が何を意味するか、あなた達は知ってる?」
カルラの問いに、首を傾げる三人。
どうやら魔力研究所の制服を知らないようだ。
「なら、一応忠告して置くわ。あれは魔力研究所の研究員達が着る制服よ。奴等には絶対に近付かない事ね。あいつ等、魔力持ちなら些細な能力でも捕まえたがるし、魔力持ちに対する扱いは家畜同然、その能力が実用的なら、洗脳して服従させると言われてるわ」
「あれが、魔力研究所の……」
「……」
「……おい、お前。何でそんな事まで知っている?」
エンヤが敵意剥き出しで、カルラに問うので、カルラはエンヤに冷めた視線を返す。
「あたしが住んでた村に来た事が有るのよ、あいつ等。その時に大人が話してたわ。ティファは魔力持ちでしょう?初めてあなた達と出会った時、ティファは迷い無くあなた達の居る方向に進んでいったわ。だから、世間知らずのあなた達にも、一応注意しとかなきゃと思っただけよ。そもそも、何でそんな事も知らないのかが不思議なくらいよ。まぁ、今までの事を考えたら、知らない可能性が高いと思ったから、一応話題に出してみたんだけど」
カルラが、ティファは魔力持ちでしょう?と口にした瞬間から、三人の空気がピリッとしたものに変わる。
思わず警戒してしまったのだろうが、カルラは気にしない。寧ろ、彼等はカルラに対して警戒しなさ過ぎだと思っていたからだ。
知人だろうと家族だろうと、売る奴は売る。
カルラの住んでいた村は田舎で、主要街道沿いでも無ければ隣国と接するような場所でも無く、娯楽も無ければ名産品も無い。
魔力や機械が無くても自給自足が成り立ち、旅人からの収入が少ない故に、村人同士の結束が高い場所だったからこそ、魔力研究所等に売り渡そうとする裏切り者は直ぐに特定されるし、止むに止まれぬ事情が有るなら未だしも、ただ単に、自身の小遣い稼ぎの為だけに、カルラの情報を売った少年とその家族は、村人達に白い眼を向けられ続けた。
魔力を持たなくても、魔力研究所に情報を売る人間も居る。
彼等は子飼いと呼ばれ、お金の為なら血の繋がった我が子でも売る。
そんな世界で、素性の知れないカルラへの警戒を弛めるのがおかしいと思うのだ。
ティファが警戒しないからとの理由なら、尚更もっと、守護者達が警戒するべきだろうにとカルラが思うのは仕方の無い事だった。
と言っても、コートに隠れてチラチラとしか見えないが、そのコートも特徴的と言えるだろう。
彼等は馬で、大急ぎでこちらに向かって来るが、先を見据えている所為か、旅人達には見向きもしない。
それもそうだろう。
彼等の資金源で有る膨大な魔石が、魔力研究所の研究員に依って、全て、何の価値にもならない只の石になったとの報告があの街から入った為、他者に構う余裕が全く無いからだ。
そんな研究も指示も出して無い彼等にとっては寝耳に水だし、それが事実なら、早急に対応しなければならない。
まぁ、対応と言っても、カルラが変質させた石は、元に戻る事も、変質させる事も出来ないが。
そんな彼等がカルラ達の横を勢い良く通り過ぎるのを、カルラは冷めた目で見送る。
「ねぇ。あの制服が何を意味するか、あなた達は知ってる?」
カルラの問いに、首を傾げる三人。
どうやら魔力研究所の制服を知らないようだ。
「なら、一応忠告して置くわ。あれは魔力研究所の研究員達が着る制服よ。奴等には絶対に近付かない事ね。あいつ等、魔力持ちなら些細な能力でも捕まえたがるし、魔力持ちに対する扱いは家畜同然、その能力が実用的なら、洗脳して服従させると言われてるわ」
「あれが、魔力研究所の……」
「……」
「……おい、お前。何でそんな事まで知っている?」
エンヤが敵意剥き出しで、カルラに問うので、カルラはエンヤに冷めた視線を返す。
「あたしが住んでた村に来た事が有るのよ、あいつ等。その時に大人が話してたわ。ティファは魔力持ちでしょう?初めてあなた達と出会った時、ティファは迷い無くあなた達の居る方向に進んでいったわ。だから、世間知らずのあなた達にも、一応注意しとかなきゃと思っただけよ。そもそも、何でそんな事も知らないのかが不思議なくらいよ。まぁ、今までの事を考えたら、知らない可能性が高いと思ったから、一応話題に出してみたんだけど」
カルラが、ティファは魔力持ちでしょう?と口にした瞬間から、三人の空気がピリッとしたものに変わる。
思わず警戒してしまったのだろうが、カルラは気にしない。寧ろ、彼等はカルラに対して警戒しなさ過ぎだと思っていたからだ。
知人だろうと家族だろうと、売る奴は売る。
カルラの住んでいた村は田舎で、主要街道沿いでも無ければ隣国と接するような場所でも無く、娯楽も無ければ名産品も無い。
魔力や機械が無くても自給自足が成り立ち、旅人からの収入が少ない故に、村人同士の結束が高い場所だったからこそ、魔力研究所等に売り渡そうとする裏切り者は直ぐに特定されるし、止むに止まれぬ事情が有るなら未だしも、ただ単に、自身の小遣い稼ぎの為だけに、カルラの情報を売った少年とその家族は、村人達に白い眼を向けられ続けた。
魔力を持たなくても、魔力研究所に情報を売る人間も居る。
彼等は子飼いと呼ばれ、お金の為なら血の繋がった我が子でも売る。
そんな世界で、素性の知れないカルラへの警戒を弛めるのがおかしいと思うのだ。
ティファが警戒しないからとの理由なら、尚更もっと、守護者達が警戒するべきだろうにとカルラが思うのは仕方の無い事だった。
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