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~トルク領域~

知識は時に生死を分ける

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   ※後半に虫を食べて悲惨な死に方をした、といった記述があります。苦手な方はご注意下さい。



 宿屋を見付けて取り敢えず1ディルム(※1週間。ただしこの世界での10日間)の滞在費を先に纏めて払う。日払いも出来るけど、面倒臭いし暫く図書館に入り浸りになるだろうから、1ディルムぐらいは滞在すると思うしね。まぁ、滞在がもっと長引いても急ぐ旅でもないから問題はないし、その時に追加料金を払えばいいだけの話だ。
 スオウは王都だけあって、夜になっても賑やかだ。図書館もそこそこ遅くまで開いてるし、光石があちこちに配置されているから夜でも綺麗な夜景が見る事が出来る。
 光石は比較的手に入りやすい魔石で、街灯や家の中でよく使われている。
 僕が村を出る時、ライトフォーマーは雪が積もり初めてたから、雪で真っ白になってる筈だ。光石がその雪で一際明るく幻想的な夜景を産み出している事だろう。
 ライトフォーマーも昼夜や季節を問わず大好きだけど、知らない事を知るのはとっても楽しくて面白いから、まだ見ぬ景色や体験をいっぱい経験したいんだよね~♪

「今日はもうゆっくり休んで、明日図書館に行けば良いよ。砂漠での旅って、結構身体に負担が掛かったりする事多いんだよね、本人が気付かないだけで。それと、ここの図書館は膨大な量の本が保管されてるけど、基本貸し出し禁止で図書館内のみ閲覧可能。持ち出せば捕まっちゃうから気を付けてね。写本する分には問題ないから、自身で写しても良いよ。因みに写本が売ってる店もあるし、図書館の本以外の本も売ってたりするから、本屋巡りもお薦めかな。それと、図書館内で閲覧禁止の場所もあるけど、一部は申請すれば見れるから。ただし、他の閲覧禁止は、王族や領主の許可が必要だったりするよ」

 まぁ僕の場合、アル兄に頼めばすんなり許可証くれる気がするけどね。それと閲覧可能な場所はラファス兄が8割ぐらいは制覇してそう。残り2割は新刊とかの新たに入った分とかだけどね。

「ラファール、君、イファデラ出身だよね?何でそんなに詳しいのさ……」
「長期滞在はしてないけど、何度か利用してるからね。ってか、兄さんこそ何でスオウに来なかったのさ。ここは色んな知識があるから冒険者や旅人の殆どが一度は訪れる場所だってのに」

 僕の言葉に兄さんが動揺したのか、目があちこちに泳ぐ。

「あー、僕は本にそんな興味なかったから、別に行かなくても良いかなって……」

 ……この兄さん、どっかに捨てちゃ駄目かな。捨ててもいいよね?こんな自殺願望者。

「僕、自殺願望者に付き合う気はないんだけど?」

 僕が兄さんをジト目で見る。

「僕は自殺願望なんかないよ!」
「兄さんが死ななかったのは、単に運が良すぎただけだからね?旅する人は、自身の大陸の図書館に一度は足を向けて、魔物図鑑とか特殊フィールドとか、向かう先の情報集めとかしてから旅するのが基本中の基本だよ。セスは急遽きゅうきょ旅する事になったし、旅慣れた僕がいるから問題ないけど、兄さんは一人で旅してたよね。これを自殺願望と言わずに何て言うの?」
「いや、その……」

 僕の言葉に気まずそうにするけど、この世界はちょっとした事で生死を分ける。その最たる物は情報だ。それをないがしろにする奴はいない。まともな人なら絶対だ。
 というのにこの兄さんはないがしろにしまくってるんだよなぁ……。まともじゃない奴の面倒なんて見たくないんだけど。下手すりゃこっちまで影響食らうし、手間が増える。いったいどういう育ち方したのか、親の顔が見てみたいよ。
 ラファス兄は、自他共に認める兄バカだけど、旅は生死に関わるから、持ちうる知識や全てを使って分け与え、どんな事が起きても対処出来るように色々叩き込んでくれた。
 勿論、僕自身それを望んだからという事もあるけど、どうでもいい相手なら、ラファス兄は相手にしないからね。

「知識はどんな宝にも勝る宝だってのに、これだから甘ったれた奴は……」
「ちょっ、ラファールってば酷くない?!そりゃあ僕は、本とか得意じゃないけど、知識がどんな宝にも勝るなんてそれこそ言い過ぎじゃない?」

 解ってないなこの兄さん……。

「じゃあ、山で迷って遭難した場合、兄さんはその辺の物を適当に食べる訳?猛毒性の物とかあるのに、間違えて食べたらどうするの?」
「あっ、怪しそうな物なんて食べないよ!」

 本当に解ってないよ。

「僕の大陸、東に伝わる昔話があるけど、他の大陸から来た旅人が、道中にとっても美味しそうな甘い匂いのする赤い木の実を見て、あまりにも美味しそうだからってそれが何か知らずに食べたんだよ」
「?美味しそうなら食べるよね?」

 ……へえ~、そう。確実に死ぬな、この兄さん。

「それ、木の実に擬態した虫で、動物とかに食べられる事によって、その動物の中で増えるんだよ。それを食べた動物は、体内で繁殖されて狂暴化し、死に至る。勿論人間も例外じゃない。食べた虫に身体を食い尽くされるけど、虫に身体を食われてても虫の出す体液が痛みを麻痺させる。最悪なのは狂暴化から。狂暴化するのは虫の食べるえさがたくさんある場所で、動物なら群れ、人間なら集落で狂暴化する。怪我を負い動けなくなった動物や人間の口や傷口、体内に入れる場所から入り込み、数を増やし、狂暴化させるを繰り返す」

 僕の話を聞く兄さんの顔色がどんどん悪くなっていく。

「東の人は知識としてその虫を知ってるから、本来見付けた時点で始末するけど、旅人は他の大陸出身だから知らずに食べた。その時の被害は相当酷かったって伝えられてるよ」

 この話は東大陸ではあまりにも有名で、東の子供なら誰だって知ってる。勿論アーヤもセスも。

 因みに、この事件の収束に赤の血族が関与したし、僕の村近辺では精霊がよく彷徨うろついてる為、見付け次第始末か報告をしてくれるけどね。

「そんな話、僕聞いてないよ!?」
「時期が違うからね。でも、言われた筈だよ?道中知らない木の実や植物を食べるなって」
「えっ……あれって、冗談混じりのからかいじゃ、ない……の?」

 兄さんの言葉に、僕だけでなくアーヤは勿論セスまでも、呆れた視線を兄さんに注いだのは当然だと思う。
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