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後日談

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 下位の貴族令嬢達の大半は、現実主義が多い。

 物語のように、家格の高い相手と結ばれる……なんて夢見る夢想家は極僅かだ。

 家位に差が有る婚姻は、覚える事や量が違い過ぎて、その上環境も変わる。

 他家に嫁ぐと言う事は、今居る環境や立場、人付き合いも変わると言う事で、それだけでも苦労はするだろうが、家位が違えば尚更苦労も増える。

 例えば、食事の時に使うナイフやフォークカトラリーの数が違ったり、正装する回数が違ったり、邸の部屋数が違ったりと、衣食住だけでも数が違えばそれだけで覚える量が違ってくるのだ。

 そこに義務や責任の重みが加わり、妬み嫉みと言った悪意を向けられ、周囲から値踏みされる為、余程の覚悟と努力が必要になってくる。

 だからこそ、身の丈に合った相手と結ばれるのが一番だと思ってる彼女達は、なるべく高位の令嬢達の反感を買わないように、ひっそりと暮らしていたのだが、家位が上だからと威張り、好き放題する高位の令嬢も居た。

 ただ、その様な令嬢は、大概とある一人の令嬢……今では公爵夫人となった一人の女性に惨敗し、社交界から姿を消して行ったのだった。

 その女性の名はリラ=クルルフォーン公爵夫人。元エヴァンス侯爵家の令嬢だった女性だ。

 氷結の毒華だと言われていた彼女の行動は、一見悪女や酷い女と捉られる事が多い。

 だが、その場の状況や周囲の言動、一部始終を詳しく精査すれば、別の面が見えてくる。

 例えば、令嬢時代の頃、リラはある日の夜会で、一人の下位令嬢のドレスに、態と飲み物を掛け、透き通るような声でこう言った『目障りだわ、下がりなさい』と。

 その場面だけを見た他の貴族達は、真っ青になっていた下位令嬢に対して同情し、憐れんだ。

 リラに飲み物を掛けられた令嬢は、そのままパーティー会場を去ろうと扉に向かうと、一人の女の使用人に声を掛けられた。

 驚いていると、別室へと連れて行かれ、ドレスを脱がされる。

 そこで令嬢は驚いた。

 令嬢が着ていたドレスに飲み物の染みが二色有ったからだ。

 一つは勿論、リラが掛けた薄い色の飲み物の染み。だが、もう一つは濃い色の染みで、令嬢には見に覚えの無い物だった。

 どういう事かと頭を悩ませていると、この部屋に令嬢を連れて来た女の使用人が、意外な事を教えてくれた。


「他の貴族令嬢が、貴女に気付かれないよう貴女のドレスに飲み物を溢していたのを見たエヴァンス侯爵令嬢が、貴女を下がらせるから、私にドレスの染み抜きをするようにと、指示を下さったのですわ。こういった物は、時間が経てば経つ程、染みを落とすのが難しくなりますからね」


 その時、令嬢はリラの賢さと優しさに気付いた。

 リラが飲み物を掛けなかった場合、彼女は気付かずに汚れたドレスでそのままあの場に居た筈だ。

 汚れたまま彷徨けば、それこそ周囲の笑い者になっていただろう。

 令嬢は帰る時にそのドレスを着て帰ったが、飲み物の染みは薄く目立たず、友人達からは災難だったねと気を遣われるだけで済んだ。

 そして後日、リラから弁償として、新しいドレスが届く。汚した事に変わりはないからと。

 ドレスを届けてくれたエヴァンス家の使用人に、返礼の手紙を渡したものの、下位から高位に話し掛ける事は緊急時以外してはいけない事。

 なので、リラには極力近付かず、遠巻きで同じくリラに助けられた令嬢同士がこっそりリラを崇拝していたのだった。
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