上 下
36 / 804
SS置き場

お気に入り5000人突破記念♪ ~覚めない悪夢~

しおりを挟む
「わたくし、親兄弟を除き、王族か公爵以外の相手と、踊る必要性は全く感じませんが」


 リラと同期デビューの男は、リラをダンスに誘おうとして、この言葉を聞き、生意気でいけ好かない高飛車女だと認識した。

 そして、周囲と同様、王族や公爵狙いの可哀想な女と蔑んだ。

 何故なら、王族や公爵で独身と言えば、女嫌いで難攻不落な王弟公爵か、まだ、子供の王太子殿下ぐらいしか思い当たらず、他の公爵は殆どが既婚者で、公爵子息達も、婚約者が決まっている者達ばかりだったからだ。

 そんな事も知らず、知っていたとしても、それを狙うと言う事は、どれだけ自分に自信が有るのかと、呆れるばかりだった。

 しかも、事もあろうに、エヴァンス家の次期当主である兄のジーンに対しても、態度を変える事無く毒舌を言い放ち、公の場で舌戦を繰り広げる事が多々ある。

 きっと家でもああなのだろう、自分にあんな妹が居なくて良かったと心底思っていた。

 そんなリラが女嫌いの難攻不落な王弟公爵を落としたと聴いて、公爵は趣味が悪かったのかと思った。他に幾らでも美女が居たと言うのに。

(あんな女を選ぶなんて、余程の物好きだ。まぁ、あの傲慢毒吐き高飛車女の思い通りに事が進むのは気に食わないが、どうせ公爵もあの見掛けに騙されたか、ああ言う女を蹂躙してみたくなったか、そんな所だろう)

 あんな女、狙う価値も無ければ、関わり合いにもなりたくない。

 そう信じて疑わなかったのだ。あの、結婚式に参加するまでは……。

 花嫁が乗る馬車から、ゆっくりと降りて来るリラを見て、心臓が止まるような、時間が物凄く遅く、ゆっくりと流れるような、そんな思いをした。

 そこから出てくる花嫁は、自分の知るあの高飛車女じゃない。

 別人かと疑いたくなるような、キツさの欠片も見当たら無い、可憐で清楚な、極上としか言い様の無い、物凄い美女が居た。

(これは悪夢に違いない。あの女がこんな風に化けるなんて……)

 しかし、それは悪夢の始まりでしか無かったのだ。

 リラが思わず嬉しそうに微笑んだのだ。

(あの、鉄面皮が……心すらも氷結していると言われていた、あの氷結の毒華がっっ……微笑んだ、だとおぉぉ?!!?)

 そして、それを目撃した自分を含む貴族連中は全員、思考回路が破壊されたのだろう。何も喋れず、何も考えられない状態に陥ったが、それを上回る、更に強烈な、悪夢としか言い様の無い言葉の衝撃波による追撃で、自分を絞め殺してやりたい程の後悔と敗北を、この先ずっと脳裏に刻み込まれてしまうのだ。

 そう、リラの可愛すぎる本質の言葉の数々と、その態度によって。

 しかも、悪夢はこれだけでは終わらない。

 式が始まる前に、国王陛下と大司祭と呼ばれるこの国の教会最高責任者に依る、王命に歯向かった不届き者達の処遇や、大聖堂で執り行った王族や公爵の花嫁に、手を出す事がどういう事なのかと言う、怒りの説教が行われたのだ。

 この場にいる、自分を含む貴族男性の殆どは、自分の見る目の無さと、噂や見掛けだけで判断した自身を呪いたくなった事だろう。

 それ程に、逃した魚は大きくも貴重で、毒華だと思い込んでいた華は、稀少な、価値が高く値の付けられない程に、最上最高級品の華だったのだ。

 出来る事ならデビュー時の、あの頃に戻りたい……。

 時折遠くで見掛ける、幸せそうなクルルフォーン夫婦を見て、散々貶して蔑んだ自分を呪い、何もかもを手中に収めるエドワルドが、心底羨ましく思った。



*****

 ※いつも有難う御座います~♪
 今回は来夢♪さんによる、リラの結婚式の時に、驚愕していた貴族視点、と言うリクを頂きましたので、リラの同期デビューの男性貴族を書いてみましたが、如何でしょうか?
 リラの結婚式は、彼にとっての覚めない悪夢の始まりです(笑)
 来夢♪さん、リクを有難う御座いました~♪♪♪
 急激に寒くなったりしましたが、皆様お身体を大事になさって下さいね!
 少しでも楽しんで頂ければ幸いです!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。

待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。 しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。 ※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
*第13回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。ありがとうございました。* レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

ヨメペット幼児園

桜羽根ねね
BL
その園には、幼児退行した青年達が通っていた──。 毎度おなじみ常識改変世界のとんでもネタです! 美形×平凡を中心に複数カプが出てきます。ふたなりくんやカントくんもいるよ。 全員いちゃいちゃらぶざまハピエンです! 何でも美味しく食べる方向けです!

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

イケメンな幼馴染と婚約したのですが、美人な妹に略奪されてしまいました。

ほったげな
恋愛
私はイケメン幼馴染のヴィルと婚約した。しかし、妹のライラがヴィルとの子を妊娠。私とヴィルの婚約は破棄となった。その後、私は伯爵のエウリコと出会い…。

処理中です...