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本編

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 エドワルドは、ジーンに付いていき、ジーンの執務室に入る。

 執務机でジーンに言われた通りに手紙を書く為、その間だけはその部屋のソファーにリラを置いた。


「ジーン兄様、あのっ、お茶だけ入れても良いですか?」

「ああ、勿論。夜中にエドワルド殿と、仕事の話もするから、眠気覚ましのお茶も選別しておいてくれるかな?」

「分かりましたわ。でも……お二人共、無理はなさらないで下さいね?」

「その言葉だけで充分やる気が湧いてきたよ。有難うリラ」

「わっ、わたくしなんて大した力にはなれませんもの。でも、兄様にそう言って頂けると、とても嬉しいです」


 リラが本当に嬉しそうに笑うから、エドワルドは少しジーンに嫉妬する。

 その視線に気付いたジーンは羨ましいだろうと言わんばかりの顔を見せるが、その後に小声でエドワルドに呟く。


「あれにとって僕は兄なんだから、それ程悔しそうにしなくても大丈夫だよ。リラが異性として見ているのはエドワルド殿だけだし、僕もリラを妹としか見ていないからね」


 それはまさしく兄としての顔だろう。


「……ジーン殿が兄で、本当に良かったと思っていますよ」


 エドワルドは書いた手紙をジーンに手渡す。


「御者を待たせているから、これだけ渡して来るよ。直ぐ戻るからお茶だけは付き合って下さいね」


 そう言ってジーンは少しだけ席を外し、リラはその間にお茶の用意を整える。

 すると、直ぐにジーンが戻って来て、和やかな茶会が開かれる。


「リラのお茶は最高だろう?」

「ええ、本当に。王宮で出されるお茶よりも美味しいですよ」

「そっ、そんなに褒め過ぎないで下さいまし!わたくし、自惚れてしまうではありませんか!わたくしなんてまだまだですわ!」


(自惚れても良いレベルなのだけれどね。彼女は一体どこを目指しているのかな?)


「わたくしはただ、兄様やお父様、お母様によく働いてくれる皆が、少しでも元気になれば、それだけで嬉しいのですから」

「皆?」

「使用人達の事ですわ!わたくしにとって使用人の皆は、家族同然ですもの」


 本当に嬉しそうに笑うリラが、使用人達をとても大事にしている事が充分に伝わった。

(クルルフォーン邸には男の使用人しかいないが、これはこれで心配だな。数名リラの侍女達を雇う事は出来るだろうか?何事にもリラを優先して、私に言い寄らない者なら雇い入れるのだが)

 これまで数回侍女を雇った事もあるが、エドワルドのプライベート空間の部屋に入るなと言う言葉も、仕事を確りすると言う基本的な事も出来なかったのだ。

 その為ずっと、クルルフォーン邸には女性の使用人は一人もいない。仕事のしないような者を雇う意味がなかったからだ。

(その事もジーン殿に相談してみようか)

 どうせ後でいくらでも話す時間があるのだから、その時に相談してみようと思うエドワルドだった。
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