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本編

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 リラがエドワルドのエスコートを受けて歩いていると、いきなりリラに声を掛けてきた男がいた。


「リラ嬢ではありませんか!」


 馴れ馴れしい男に、エドワルドは内心腹を立てていると、声を掛けられたリラが無表情のまま口を開く。


「学習する脳は無いのかしら?わたくし、高が同期のデビューだったからと、名前で呼ぶ事を許した覚えはありませんわ」
[訳=礼儀作法を学んでいらっしゃらないのですか?わたくしと同じ同期のデビューだったからと、勝手に名前呼びで呼ばないで下さい。異性の名前呼びは友人以上ですし、貴方とは、デビュー時以来、会っていませんから]


 彼はデビュー時、リラに踊らないのかと聞いた男の中の一人だ。

 だが、男はそんなリラの言葉を、聞いていないとばかりに無視をする。


「それより、本当に公爵を射止めたんだね!僕にも紹介してよ!ああそうだ、序でに僕の姉も紹介するよ!」

「ちょっとジャック!駄目よ、そんな失礼をして!ご免なさいね弟が。それと初めましてクルルフォーン公爵様」


 姉弟揃って充分失礼な事をしているのだが、その自覚が無いようだ。


「わたくし、紹介するとは一言も言っていませんが?伯爵子息、令嬢の分際で厚かましいのではなくて?」
[訳=わたくし、紹介するとは言ってませんよ?伯爵子息、令嬢が名乗りもせずに、エドワルド様に失礼でしょう?]

「僕が伯爵で有る事を覚えてくれていたんだ?もしかして、僕にも気があったの?」


 ヘラヘラと、それでいてリラを嘲笑う男を、リラは冷めた目で見返す。


「わたくし、馬鹿と年下には興味がありませんわ」
[訳=わたくし、お兄様が理想なので、頭の弱い方と年下はちょっと……]

「僕が馬鹿だって?!さっきから言いたい放題だけど、リラ嬢、何様のつもり?そんなんじゃ、クルルフォーン公爵に振られるよ!」


 断言する男に苛立ち、エドワルドがいい加減口を挟もうとするが、それでもリラが前に出る。


「わたくし、貴方達よりも家位の高い、侯爵令嬢ですけれど?馬鹿で無ければ何だと言うのかしら?」
[訳=わたくし、これでも一応、貴方達よりも家位の高い、侯爵令嬢ですけれど?そんな事も知らずに来るなんて、本当に大丈夫なの?その頭……]


 本気で心配するリラに、カチンと来たのか、名乗りもしない伯爵令嬢は、リラに食って掛かった。


「みっ、身分を笠に着るだなんて最低よ!貴女なんかに公爵夫人は務まらないわ!!」

「馬鹿な貴女になら務まると?本気で仰っているの?貴女、わたくしよりも年が上よね?では、わたくしでも覚えている貴族名鑑を、家位の順に全員言ってご覧なさいな」
[訳=身分以前に、その頭でエドワルド様に言い寄る気ですか?本気で?ああでも、貴女はわたくしよりも年が上ですよね?それなら、わたくしが全て暗記している貴族名鑑を、家位の順に全員言えますよね?]

「そっ、そんなの、何の役に立つと言うのよ?!」


 ああ、そんな事も分からないのか。リラは姉弟を可哀想な目で眺めた。
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