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「そっか。そうだったんだ」
アイリさんがレモンスカッシュを啜りながら、納得しながら頷く。池袋の周りもカフェはいつも満席だ。百貨店の中にあるカフェは割と穴場だった。十人くらいそれでも並んでいたが回転がよく、すぐに回って来た。そこはゆったりしたソファー席で、テーブルが低く、飲んだり食べたりするのは、少々差し支える高さだった。私はトロピカルフルーツののスムージーを飲みながら、視線を降ろしていた。
「色々、辛いことがあったんだね。そんな中よく耐えて頑張った。偉いよ」
アイリさんは優しいお姉さんだ。目を伏せたあとで真剣なまま、目を細めた。
「いじめとか遭ったんだ。ひどいね」
「えぇ、まぁ……」
「もっと、早く相談してくれればよかったのに。水くさいなぁ」
何故だろう。恥ずかしかったけど全部話してしまった。自分のことを洗いざらい話すのはどうかと思っていた。アイリさんや早織さんだって大学やバイトで忙しいし、大変かもしれない。皆、自分のことでせいいっぱいだ。私だけが困難な状況にある訳ではない。年上とはいえ、まだ出会ったばかりの女性に、馴れ馴れしく身の上話をするのは申し訳ないし、甘えだと思った。距離感を間違えたら人間関係が崩れてしまうことだって、あるから。良好な関係を保ちたかった。
「そのさっきの男の子への気持ちに気がついたのは、最近なんだ?」
「はい……。でも自分の気持ちに暫く封印しようと思って」
「封印?」
アイリさんは瞳を大きく見開いた。その姿が、とても可愛らしかった。
「受験生だし、あまり余計なこと考えたくなくて。私は今、M女子大の指定校推薦をゲットしたい一心で勉強に頑張ってきたわけだし、まだまだ気が抜けないし、やっぱり夢に向かって頑張りたくて」
「そっか、その気持ちも大事だけど、自分の気持ちに無理やり封印しなくても良いと思うよ?」
「え?」
伏せていた顔を上げた。私とはまた別の意見もあり、目をパッチリと瞬きした。
「あまり自分の気持ちに無理すると、きつくなるよ。実際今、しんどいわけでしょ? 高校卒業したら、さよならなのは分かるんだけどさ。でもさ、今はまだ在学中なわけだし。大学生になったら人間関係も変わるし、そしたらその時に忘れられるもんだよ。自然な流れで」
「そっかぁ……」
当たり前のことだけど、それはそうだ。今、目の前にあることが辛くて、無理やり忘れようとしてはダメなんだ。学生時代のクラスメイトとは、卒業してからが基本的にお別れ。その自然に身を任せて良いと実感した。
「さっきのイケメン君に、新しい彼女が出来ちゃってショックはショックだけど、でもまぁ、それだって時間が経つと忘れることが出来るから」
失恋の一番の薬は『時間』だとアイリさんは教えてくれた。本当にそのとおり。このまま時間に任せるのもありだ。
「なんか話を聞いてもらったら、すっきりした。ありがとうございます」
一礼して頭をあげる。ずっと抱えていた胸の痛みや、悲しみがスッキリした。けれども今まで、刃を向けてきた池田さんと大林さんには不快を抱いたまま。
「いいのいいの。また何かあったら相談して。早織にでも良いしさ。きっとあの子だったら相談したら喜ぶと思うよ」
アイリさんはズズッとドリンクの最後を飲み干した。店の外には何人か客が待ち構えていた。私達は他のお客さんに席を譲るため、会計を済ませると、外へ出た。百貨店から外へ出ると、眩しい光がギラギラと照り付けられ、溶けそうになった。二人で一緒にJRの池袋駅へ向かい、アイリさんは東京駅方面へ。私は、渋谷方面へそれぞれ向かい、解散した。
帰り際に貰った来場者への景品は、特性オリジナルペンケース。『Yuki Miyama』のロゴが入ったピンク色の、細長い円筒形のものでファスナーには、イチゴのガラスの形のチャームがついていて、とても可愛らしい。ペンケース自体は小さなものだけど、これを学校に持っていこうと決めると、心の中のテンションが上がった。
アイリさんがレモンスカッシュを啜りながら、納得しながら頷く。池袋の周りもカフェはいつも満席だ。百貨店の中にあるカフェは割と穴場だった。十人くらいそれでも並んでいたが回転がよく、すぐに回って来た。そこはゆったりしたソファー席で、テーブルが低く、飲んだり食べたりするのは、少々差し支える高さだった。私はトロピカルフルーツののスムージーを飲みながら、視線を降ろしていた。
「色々、辛いことがあったんだね。そんな中よく耐えて頑張った。偉いよ」
アイリさんは優しいお姉さんだ。目を伏せたあとで真剣なまま、目を細めた。
「いじめとか遭ったんだ。ひどいね」
「えぇ、まぁ……」
「もっと、早く相談してくれればよかったのに。水くさいなぁ」
何故だろう。恥ずかしかったけど全部話してしまった。自分のことを洗いざらい話すのはどうかと思っていた。アイリさんや早織さんだって大学やバイトで忙しいし、大変かもしれない。皆、自分のことでせいいっぱいだ。私だけが困難な状況にある訳ではない。年上とはいえ、まだ出会ったばかりの女性に、馴れ馴れしく身の上話をするのは申し訳ないし、甘えだと思った。距離感を間違えたら人間関係が崩れてしまうことだって、あるから。良好な関係を保ちたかった。
「そのさっきの男の子への気持ちに気がついたのは、最近なんだ?」
「はい……。でも自分の気持ちに暫く封印しようと思って」
「封印?」
アイリさんは瞳を大きく見開いた。その姿が、とても可愛らしかった。
「受験生だし、あまり余計なこと考えたくなくて。私は今、M女子大の指定校推薦をゲットしたい一心で勉強に頑張ってきたわけだし、まだまだ気が抜けないし、やっぱり夢に向かって頑張りたくて」
「そっか、その気持ちも大事だけど、自分の気持ちに無理やり封印しなくても良いと思うよ?」
「え?」
伏せていた顔を上げた。私とはまた別の意見もあり、目をパッチリと瞬きした。
「あまり自分の気持ちに無理すると、きつくなるよ。実際今、しんどいわけでしょ? 高校卒業したら、さよならなのは分かるんだけどさ。でもさ、今はまだ在学中なわけだし。大学生になったら人間関係も変わるし、そしたらその時に忘れられるもんだよ。自然な流れで」
「そっかぁ……」
当たり前のことだけど、それはそうだ。今、目の前にあることが辛くて、無理やり忘れようとしてはダメなんだ。学生時代のクラスメイトとは、卒業してからが基本的にお別れ。その自然に身を任せて良いと実感した。
「さっきのイケメン君に、新しい彼女が出来ちゃってショックはショックだけど、でもまぁ、それだって時間が経つと忘れることが出来るから」
失恋の一番の薬は『時間』だとアイリさんは教えてくれた。本当にそのとおり。このまま時間に任せるのもありだ。
「なんか話を聞いてもらったら、すっきりした。ありがとうございます」
一礼して頭をあげる。ずっと抱えていた胸の痛みや、悲しみがスッキリした。けれども今まで、刃を向けてきた池田さんと大林さんには不快を抱いたまま。
「いいのいいの。また何かあったら相談して。早織にでも良いしさ。きっとあの子だったら相談したら喜ぶと思うよ」
アイリさんはズズッとドリンクの最後を飲み干した。店の外には何人か客が待ち構えていた。私達は他のお客さんに席を譲るため、会計を済ませると、外へ出た。百貨店から外へ出ると、眩しい光がギラギラと照り付けられ、溶けそうになった。二人で一緒にJRの池袋駅へ向かい、アイリさんは東京駅方面へ。私は、渋谷方面へそれぞれ向かい、解散した。
帰り際に貰った来場者への景品は、特性オリジナルペンケース。『Yuki Miyama』のロゴが入ったピンク色の、細長い円筒形のものでファスナーには、イチゴのガラスの形のチャームがついていて、とても可愛らしい。ペンケース自体は小さなものだけど、これを学校に持っていこうと決めると、心の中のテンションが上がった。
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