素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

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状況が変わる時

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 翌日。やっぱり休んでしまった。生徒の間で勝手な想像を捲かれることだろう。けれどもすぐにきっと忘れるだろう。周りの人も、そんなことに構っている暇はないだろう。

「昨日は、タルトなんて食べちゃって、太っちゃっただろうな」

 ベッドの上で横たわりながら、思った。しかし昨日は、精神的疲労がすぎて甘い物でも食べないと、過ごせなかった。昨日誘ってくれた姉には、大きく感謝だ。姉も今日は、仕事へ行った。家の中では私一人。
 今日は運動をする気力もないから、お休みしようと決めた。そう。今日は何もかも、休みだ。

「あの子達、そんなに久保田君が好きだったのか」

 大林さんも池田さんも必死に話しかけてはいるけれど、同じクラスとはいえ、あまり相手にはされていなかった。なのによくそこまでに思いつめることが出来るなと、感心はしていた。意地悪な考えだけど、この一件で、彼女らの恋はもう実らないだろう。久保田君に軽蔑されただろうから。
 心が折れると何も出来なくなるものだ。それでも受験生。明日からはちゃんとしっかり勉強しよう。

(こういう時は、好きなものを見て、心を潤わせよう)

 深山ゆきさんのSNSを開く。今は大好きなものや綺麗なもので、嫌なことを忘れたかった。例の大人気のデニムスカートを穿いてSNSに載っていた。白と薄紫色のチェックの半袖のブラウスがお洒落だ。もうすぐ夏がやってくるから、もう夏物商品が出始める時期だ。胸元や首元にはレースが施されて女性らしくて、また可愛い。華奢だから似合うのだろう。やっぱりこんな体型になりたいと思ったし、こんな服を作りたいと思った。昨日甘いものを食べてしまったことに大きな罪悪感を覚えた。昨日は嫌なことがあったし、すっかりSNSを見るのを忘れていた。今度は別のプチプラのブランドから、コラボ商品を出すらしい。半袖のランタン袖のカットソーに、セルフカットが出来るナロースカート。カットソーは黒、白、ピンク。スカートも、黒、白、ピンクの色展開だった。セットアップで着られるように、作ったのだろう。

「いいなー、これ」

 思わずため息が出た。カットソーもスカートもそれぞれ、二千円。手が出せない値段ではなかった。けど上下揃えるのはちょっと勇気がいるかもしれない。

「服を揃えるのって結構、お金がかかるな」

 当たり前のことだけど、つくづく思った。安い服でも高く見える不思議。高校生のお小遣いじゃ難しい。お洒落な子達は親に買ってもらってるのだろうか。笹村さん、岩田さんの顔が浮かんだ。あの二人のことを思い出すと、昨日の出来事がリフレインせざるを得なかった。あの子達は池田さんと大林さんによる、同調圧力で私の陰口をこっそり言っていたってことか。それはそれで不愉快だけど、まぁ良い。

けれども、池田さんと大林さんは生理的にもう受け付けられなくて無理だった。一生の付き合いではないと言い聞かせて、過ごすしかない。スマホを閉じた。他のことをして気を紛らわそうとしているのに、結局昨日のことが思い出された。
 昼食は近くのコンビニで買い、食べ終わるとまたベッドに横たわった。あまりやってはいけないことだ。明るい平日の日中がこんなにざわざわと気持ちが落ち着かないものだとは、思ってもいなかった。世間一般の社会人は会社へ行き、学生は学校へ行く。自分は何もしていない時間。罪悪感を感じながらも睡魔には勝てなかった。
 窓から入って来る傾いてきた薄いオレンジの光が顔に当たり、目が覚めた。時計を確認する。針は十六時を示していた。

「え、三時間も昼寝しちゃったんだ」

 学校を休んでこんなに眠ってしまったことに、大きな罪悪感がこみ上げる。私は何をやっているのだろう。

(明日こそは、絶対学校へ行こう)

 家にいても罪悪感が心を襲うだけ。そんなの嫌だ。風邪を惹いている訳でもないのに休んだ、落ち着かない日中は私には合わなかった。喉の渇きを覚え、下へ降りる。冷蔵庫から麦茶が入っているピッチャーを取り出して、グラスへ注いだ。それを飲み干すと、玄関のチャイムが響いた。

(居留守使っちゃおうかな。やだな)

 最近は私の学校関係者の人が、来ることが多かった。インターホンに出ないまま、私は仕方なく、玄関へ向かった。誰が来たのだろうか。玄関のドアを引くと、笹村さんと岩田さんが立っていた。その隣には久保田君がいた。

「和田さん、本当、色々ごめんねぇ!」

 笹村さんがいきなり私に抱き着いた。家の前を通る通行人が奇異な目で通り過ぎる。最近は色々あり得ないことが多すぎて、自分に何が起こっているか分からなくなっていた。岩田さんが笹村さんの方を見て微笑してから、私のほうに視線を移し替える。

「本当に色々ごめんね」

 彼女は深々と頭を下げ、なかなか頭を上げてくれない。

「あの、頭を上げて」

 昨日から謝罪してくる人が多すぎだ。今更、何よ。なんて言えない状況だ。それを言うと私は心が狭い人になってしまう。それに胸の辺りをぎゅっと締め付けられるように、痛い。泣いているということはずっと思い悩んでいたのだ。そう思うと気の毒で、不憫になった。久保田君が二人を一瞥してから、シュークリーム屋の箱を軽く上に上げる。

「差し入れだ」

「え? 本当? ありがとう」

 きょとんとしながら、私は半泣き状態の笹村さんを軽く抱きしめた。そして久保田君から差し出された、色んなことが節々に引っかかりながら、シュークリームの箱を受け取る。また通行人がこちらを見て行く。

「あの、とりあえず中へどうぞ」

 三人には家に上がってもらうことに決めた。
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