素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

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新学期

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 あっという間の新学期。昨日入学式を終えた新入生が糊の張った制服を着て、初々しく希望に満ち溢れた顔で輝いていた。一応、進学校なので、それなりに学力がある子が入って来る。うちの学年には多少派手な子もいるが、そういう子は今チラっと見た限りはいなかった。桜は既に散っており、木には新緑の葉が顔を覗かせていた。

(今日から運動があまり出来ないな)

 春休み中は朝食後と、昼食後、少しいつも時間を置いてから、ジョギングを三十分頑張っていた。こんなに頑張れる自分も驚きだ。元陸上部だったから出来たかもしれない。中学の時いじめられて陸上部をやめたけど、今になってダイエットに役立つなんて思ってもいなかった。お陰でまた一キロ減量出来て、かれこれマイナス三キロの減量。目標まであと四キロ。短時間で三キロ痩せられたのは、水分が抜けたとも考えられる。これからが正念場だ。これからは、学校から帰ったら、室内ジョギングで頑張るつもりだ。室内ジョギングのやり方は布団を敷き、その場で走る。幅は小さくても良い。布団の上で前へ五歩走ったら、後ろへ五歩走る。これの繰り返し。室内ジョギングの動画を見つけたので、それを見つつこれからも頑張って行く。
 受験勉強も頑張っていた。別の問題集も購入し、受験対策にこれからも力を入れて行く。学校でも今後は、テストが多くなってくるだろう。
 重い足取りで校門をくぐる。玄関前では新二年生がクラス替えの発表の掲示板を見て、わぁ! とか、きゃぁとか黄色い声をあげていた。うちの高校はクラス替えは二年生になる時、一度しかしない。担任も変わらない。三年生は延長のような感じで真顔で校舎へ入って行く。新学期の校庭は賑やかだった。

(憂鬱だけど、それもあと一年……)

 今までみたいな面倒くさい人間関係とも、受験を理由に距離を置ける時期。一年や二年の頃よりは気が楽になる。靴箱の前で新品の上靴に履き替える。ローファーを入れてから、三年生の教室へ向かう。三年A組と書かれた部屋へ向かった。皆、楽しそうに挨拶を交わしながら、楽しそうだった。私はこれまでと変わらず、一番後ろの席へ腰かけた。出席番号順だから一番最後になる。

(当分この席か)

 少し安心したような気がした。周りの子達は特に私にちょっかいを出したりしない子だ。私はコミュ障だから他愛ない話には応じたりは出来ないけれど、それでも気にせずに普通に過ごしてくれるのがありがたかった。どうせなら、一年この席で過ごさせてほしいくらいだ。教室の中が喧騒に包まれた頃、先生が入って来た。五十代の痩躯の体育教師井口先生だった。

「はーい、静かに」

 先生は教壇の前に立つなり、窘めた。ちらりと久保田君のほうを見る。隣の席の男子と軽い雑談をしていた。

(春休みにうちに来たことは、なかったようなもんだ)

 教室に入ってから特に挨拶を交わしたりしないし、目も合わなかった。励ましの言葉は全て忘れよう。あの時は感謝の気持ちがこみ上げていた。けれども二週間経った今、特に会話も交わさなかったから今は普通のクラスメイトだ。これからも今までも変わりなく、過ごす。鼻筋が通ったアイドルみたいな顔立ちの彼は、朝から女子何名家に囲まれていたし、やっぱり私とは別の人生を歩いて行く人だ。やっぱり、陰キャと陽キャの区別はあるものだと、認識した。彼はピラミッドの頂点のほうの人間だ。皆の注目や憧れの的。私とは違う。

(私も高校卒業したら、変われるかな……)

 ダイエットも頑張っている。最近はお洒落にも目覚めた。深山ゆきさんがSNSを更新する度、チェックするようになった。近いうちに、また深山ゆきさんは新作のスカートが発売になる。けれども発売の日は買いに行けない上、お金もないから諦める。今度は少し高めのブランドから発売されるみたいで、七千円近くもする。私には手が届かない値段だった。
うちの親の方針としては、高校卒業するまでは化粧を許さない。そこは守ろうと思っている。大学生になったら早織さんやアイリさんみたいにバイトをして、そのお金で服を買って楽しもう。今は産まれ変わる準備をする時期だ。ピラミッドの頂点の人達のように、性格は急に変わることは出来ないけれど、外見だけは変えられる。
 一人で悶々と考え事をしていると、早速新学期の提出物を出すことになった。宿題は薄めの問題集程度だけど、早速、提出する。

「何、宿題をやらなかっただと?」

 井口先生が強い口調で荒げる。宿題を出そうとしている私の前で、何人か宿題をやっていない者もいた。岩田さんや笹村さんがその中にいた。この子達はきっと春休みの間、遊んでいたのだろう。あまり大学受験に興味がなさそうな感じだ。他に『チャラい系男子』が宿題をやってこなかった。

「お前ら、そんなので大学なんか受からないぞ」

 厳しく叱責してから、彼らに告げた。

「明日までにやってこい! 良いな!」

(それはなかなか、無理があるんじゃないかな)

 薄手の問題集とはいえ、丁寧にやると時間がかかった。どうにかして一週間でやり遂げたが。
 宿題を出し終わった後、席に着いた。提出してなかった生徒らは、ブーブーと文句を言ったがそれを遮るように、井口先生は話を変えた。

「今から進路の調査票を配る。明後日までに行きたい大学の名を書いて提出するように」
 そう言って一番前の席の者に、後ろまでの人数分の紙を置いて行く。一番最後に配られた用紙に視線を移した。第二希望まで志望校の大学名を書くようになっていた。

「それと、皆、知ってるように、三年から文系と理系と別れるからな」

 先生はざっくばらんに説明した。その話は去年から出ていたので、知っている。理系を選択した者は隣のクラスで理系科目を中心にやり、文系選択者は、うちのクラスでやる。隣のクラスからも文系を選択した者はうちのクラスに、来ることになっている。

(それならクラス替えをして、文系と理系を分けてくれればいいのに)

 心の中で不満を呟いた。こういう要領が悪いやり方はどうにかならないものかと思う。そうすれば、池田さんや大林さんと同じクラスにならずに済んだ。彼女らは、理系を選択しているから。けれども彼女らとは受ける授業も違ってくるから、接点が減ってくる件に関しては、胸を撫で降ろす。

 今日は始業式が終わると、帰宅となった。お腹を空かせて家路を辿る。先月よりも春らしさは増して、気温が更に上がっており、制服のジャケットを脱ぎたくなったくらいだった。久保田君は、何人かの女子に囲まれながら歩いていた。面倒なので、そのグループを抜かして早歩きで、いつもの通学路を歩く。そんな時、スマホの着信音が響いた。手に取ると、アイリさんからだった。

『新学期始まったね。学校はどうかな? もうすぐ深山ゆきさんのスカートの発売日だけど、買う?』

 それに対して返信をする。可もなく不可もなく、これから受験勉強にも本腰を入れるこを伝え、スカートは買うお金も今のところない上に、発売日は学校なので買いに行けないことを告げた。
 するとすぐにアイリさんから返信が来た。アイリさんは購入予定らしい。しかし三回生になると就職活動が始まり、就職セミナーに参加したりバタバタする日が続くそうだ。

『どこの大学受けるの?』

 まだまだ話題は続く。M女子大とラインで答えると、難関大学じゃん。凄いねーと返信が来た。アイリさんや早織さんが通っている大学のほうが、おそらくレベルは高い筈。けれども、地方の人でも知っている女子大だと改めて理解した。しかも服飾学科に行きたいというと、ハートとか驚いた顔の顔文字が沢山飛んできた。

『嬉しいな! デザイナー目指すんだね! 是非デザイナーになって私の服も作ってほしいな(*^-^*)』

 またラインの嬉しそうな顔のアイコンも続けざまに、送ってきた。嬉しいと言ってくれたことが私にとっても嬉しかった。アイリさんはイベントのとき、言っていたっけ。ぽっちゃりだから、なかなか服がないと。痩せすぎても困るそうだ。そんな消費者に望む服も私は作っていきたい。

(けれども、私は綺麗になりたいから痩せる!)

 勿論、その気持ちは忘れない。アイリさんのラインが励みになり、胸を熱くしながら歩いて行く。今の私にとっては夢が心の支えだ。
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