素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

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 お金を払い、チューリップの可愛い柄が沢山ついたショッパーに商品を入れてもらった。これだけで、気分が弾んだ。昨日に引き続き、心がスキップした。浮き立ったまま、飛んで行きそうだ。自分でも、驚喜に近い表情になっている意識があった。

(いやいや、浮かれてはいけない)

 自分に言い聞かせる。昨日に引き続き、楽しいことが続いたけれど、毎日こういう訳にはいかない。明日からは通常、家で過ごすことになる。受験に向けてきっちり勉強をすることも大事だ。

(そうだ。せっかく来たんだから)

 自然と足はもう一つ上の階のエレベーターへ向かっていた。本屋へ行き、大学受験用の資料を探してみようと思った。高三間近でこんなことをするのは、遅すぎるかもしれない。今まで進路と言ってもピンと来なかった。今、目的が決まったらすぐに行動し、勉強するのもアリだと思う。三階のフロアも、いくつかアパレルショップのテナントがあった。奥はレストラン街になっている。三階の方が何故か二階よりもテナントが少なく、開放感があるように感じられた。その一角に割と大き目の本屋があった。ショッピングモールによくありがちな構図だ。客入りはまばらだった。平日に来ると、こんなに空いていることが不思議だ。
 奥にある、参考書や受験のコーナーへ行く。そこの中に全国大学案内というものを発見した。全国にどんな大学があるのかネットで調べたほうが早いけれど、こういう本を見るのも大事だ。割と分厚めの本だ。ここは東京都内と行っても西の端の方だ。渋谷へは電車一本で行けるが、神奈川県を横切って行く。都内の中心の大学へ行くよりも、横浜近辺の大学へ通うほうが近いだろう。

(神奈川県内の大学も、調べてみるか)

 その本は都道府県別になっていて、探しやすかった。神奈川県のところをチェックする。服飾系の大学はあるだろうか。東京まで出れば必ずあるだろうけれど、自宅から通学することを考慮すると、近い方が良い。ペラペラと流すように目を通すが、今のところ分からなかった。
(女子大とかでも良いんだけどな)
 今度は女子大を中心に探してみる。一つのページが目に入った。

『M女子大』

 その大学は一応、名の知れた名門の女子大だった。総合大学で、色んな学部がある。文学系の学科から、理系、薬学部まであった。神奈川や東京、千葉のほうにもキャンパスがある。

「家政学部、服飾学科……」

 誰の耳にも聞こえないように、ポツリと独り言を呟いた。女子大には家政学部があるところもある。ここの大学の家政学部には栄養士を目指す、栄養管理学科、そして服飾学科があった。被服を理解するために、服の素材、デザイン、服飾造形表現に必要とされる技術を学べると書かれている。
 更にここの大学を卒業した卒業生の著名人も掲載されていた。作家や、アナウンサーの名が書かれてあり、その次の名前に目を瞠った。

『金崎路子』

 私でも知っている、有名デザイナーだった。東京と大阪に金崎さんが作った洋服のショップがあることは、私でも知っている。東京の有名なお嬢様学校の、中学高校の制服のデザインも、金崎さんであることはよく知られている。制服が可愛いと人気で、受験の倍率も高い。
 体と胸が熱くなった。そうか、あの方の母校だったのか。私はその大学案内の本をそっと置き、次に大学入試シリーズで有名な本を探す。各、志望校の大学の過去の入試問題をまとめた本だ。志望大学の出題形式や傾向が分かり、本番のシミュレーションもできることで、受験するなら是非買っておきたい。大学別になっており、国公立大や私立の一流大学の名前がズラリと並んでいた。その中で『M女子大』と書かれた本を見つけた。家政学部の主な入試科目は、国語と英語、生物だった。パラパラとめくってみる。入試問題だけあり、難しそうな問題もむろんあるが、頑張れば解けそうだ。

「よし」

 志望校決定。その本を握りしめ、レジへ向かった。姉がくれたお小遣いの中から、千五百円を支払った。緑のビニール袋に入れてもらった本を店員から受け取り、本屋を後にした。
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