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 シエロの部屋のソファに優しくおろされる。シエロは何も言わずにキッチンに向かった。
 歩いている時も、シエロは僕を部屋に連れて行くと話したきり何も話さなくなって、ますます心配になる。やっぱり何かあったのだろうか。

 戻ってきたシエロの手の中にはティーカップがあり、僕に渡してくれた。それを受け取って、僕の隣に腰かけたシエロに声をかけた。

「シエロ、今日何かあったの?」
「…どうして?」
「なんだか、悲しい、ような顔をしているから」

 悲しい、だけじゃなくて、悔しいとか、心配とか、いろんな感情が混ざったような、うまく言葉で表現できないけれど、そんな顔をしている。

「…何かあるのは、テオでしょ?」
「僕?」
「そうだよ」

 シエロは僕に向き直り、話を始めた。

「どうして、僕の心配ばかりするの?テオでしょ、何かあるのは。ずっと顔色もよくなくて、目の下の隈も、濃くなって、ご飯も最初より、食べる量増えたのに、減ってきて」
「シ、シエロっ」
「どうしたのか、聞いても、答えてくれない」
「―ご、ごめんね」
「謝らないで。…どうして話してくれないのか、どうしたら話してくれるのか、考えてもわからなくて。テオのことが、心配で。…僕は、そんなに頼りないかな」
「そんなことないっ」

 そうやって話すシエロは今にも泣きだしそうで、悲しそうで。そんな顔してほしくない、そんな気持ちになってほしくないのに。シエロには笑っていて欲しいのに。

「テオが、たくさんつらいことを抱えてるってわかってるよ」
「…っ」
「今まで、どんなことがあっても、側に居られなかった。側で、大丈夫だよって言ってあげられなかった。…でも、今は、側に居るよ」
「…うんっ」
「僕は、テオの抱えているつらいことを、僕にも分けてほしい」
「……っ…ふっ…」
「それで、テオの笑顔が増えたら、僕はそれ以上に嬉しいことなんて、ないんだよ。テオがつらいなら、何がつらいのか、悲しいなら、何が悲しいのか。知らないままでいるのは、僕もつらいし、悲しい。だから、話して?何があったのか。悲しいことも、つらいことも、怖いことも。もちろん、嬉しいことも。いっぱい、何でも話してほしい」

 涙があふれて止まらなかった。
 シエロをこんな顔にしたのは、悲しい気持ちにさせたのは、僕だ。
 すごく、楽しくて、嬉しいでいっぱいの日々を送っているのに、苦しい、痛い記憶にとらわれて、苦しくなっているのをシエロが知ったら嫌なんじゃないかって、思っていた。でも、言わないことでシエロをそんな気持ちにさせるのは、そんな顔をさせてしまうのはいやだ。胸がはちきれそうになる。

 話して、いいんだ。僕はもう一人じゃないんだ。シエロが、側に居るんだ。
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