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第二章・影楼編

新たなる力

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「まったく、何やってるの?なんで喧嘩売ってるのよ」
基地へ戻ると、まずは詩音のよるお説教が始まった。
俺は玄関で、正座をさせられている。
お説教をされる、ということは、良くいえば頼もしい副団長がいる、ということなのだが、しかしこうなってしまっては俺の団長としての威厳がなくなる。
なんとかして反論したいのだが………
「だいたい、今の私たちの状況わかってるの?こんな立地の悪いところに基地を建てられて、あまり芳しくないんだよ?それなのにさぁ!」
一見、傍から見ると普通にグチグチと話しているだけに見えるだろうが、説教をされている俺からしたら全然違う。
ずっと喋りながらも、こちらを睨んできている。……逃さない、という意思の表れだろうか。とにかく怖い。
「もぉー、これで私たちが宣戦布告されて負けでもしたら………やばいじゃん!」
「え、なにが?」
思わず口を出してしまい、俺はしまったとでも言うように、口を押さえた。
しかし覆水盆に戻らず、出てしまった失言は2度と戻ってこない。
「あ、いや、ごめん、話の腰折っちゃって。つ、続けて?」
俺はなんとか取り繕おうとしたが、しかし彼女は話を続けようとしなかった。
心|做(な)しか、体がぷるぷると震えているような気がする。
「あ、えーっと………」
この状況を打破する力が俺にはないと悟り、少なくとも逃げる意志はなかった。とりあえずは黙っていよう。
「なんでって………馬鹿なの……?」
気まずい雰囲気の中、遂に詩音は口を開いた。
「馬鹿って……なんでだよ」
「いくら私らでもさ………対荒らしが全員できたら流石に勝てないんだよ?」
「……へ?」
何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
「だって、数も圧倒的に違うし、そもそも戦力がないもん」
「戦力って………俺ひとりでも潰せると思うんだけど……」
「一人ひとりの実力からしたらね?でもさ……考えても見てよ」
はい、考えました。結論勝てる考えにいたすいませんっした。
「バラバラで、一気にかかるんじゃなくて、一人ひとり来たらどう?弱いとは言っても、一斉に来るより体力は消費するでしょ?つまりさ……」
詩音は深いため息を吐いてから、言った。
「───体力切れで、そのうち負ける。それでいいの?」
「……っ!?」
考えてなかった。
一切思い浮かばなかった。そんなダサい負け方は。
しかし理にかなっている。それどころか、むしろそっちが正しいように思えてきた。いや、本当に正しいんだろうけど。
つまり俺は、自分から喧嘩売っといて、負けるようなことをしていたのだ。
───馬鹿なことしたぁぁあ!
しかしさっきもあったように、覆水盆に戻らず。前言撤回、なんてこの場で出来るわけもないし、そもそもそんなことをしたらさらにダサく感じる。………一緒か。
「謝りに行くよ!じゃないと……死ぬよ?」
「ちょっ、待て!肝心なことを忘れてないか?Gizel達神聖帝は入ってるんだぞ?俺達はどっちにしろいらないじゃないか!別に謝りに行かなくたって……」
「それで死にたいの?」
「大丈夫だって!Gizelはそれに気づかないさ。俺と同じ頭してんだし」
というか、謝りに行くなんて絶対に嫌なんだが。
俺の必死の抵抗のお陰か、詩音は納得して、俺を連れていくのをやめた。
「わかったよ………でも死んだら恨むからね?」
「うぐっ………」
詩音の容姿は、性格からして美人に思われがちだが、どちらかと言うと可愛い部類に入る。
ジトっとした目ではあるが、だいぶ可愛い。胸も……慎ましやかで可愛い。
と、そんなことを考えていたら、不意に頭に衝撃が走った。
「今失礼な事考えたでしょ」
どうやら詩音に鉄槌を食らわされたらしい。
話を戻すと、そんな可愛い詩音だ。しかも服も可愛らしい格好をしている。そんな子に、上目遣いで、「恨むからね?」っと言ってきたらどう思うか。
思わずたじろぎ、可愛い、とどきんとしてしまうだろう。つまり癒される上にどんなお願いでも聞いてあげたくなっちゃう。
だから………俺はこう言った。
「詩音は俺が守るから大丈夫!絶対に守る!」
ある種のプロポーズとも言っていいだろう。
決してそんなつもりは無いのだが。
「えっ………はっ、ちょっ………いきなりなに!?」
詩音はしかし、顔を真っ赤にしてぽかぽかと殴ってくる。
可愛い、としか言いようがなかった。
「い、いや………お前は殺させないって……」
「…………っ………!………影楼。頼むからね?」
俺は、この可愛いロリっ子参謀を絶対に守ると、公然で誓うことになった。

さて、どうしたものか。
正直いって、することがない。
訓練に行く人もいるらしいが、俺に訓練なんて必要ないとしか思えない。Gizelも、訓練なんてする気はないだろう。
となると、書類整理とかをするものだと思ったが………ほとんどない。
副団長が優秀すぎたから……というわけでもなく、詩音はついさっき出張へ行ったばかり、そんなことをする暇なんてない。
ほかの団員もダラダラと過ごしているので、やっている人なんていない。
つまりは、最初からこの団体への書類は少なかったのだ。
普段ならば、泣いて喜ぶようなことだろうが、今はそうではない。むしろ暇すぎて困るほどだ。
窓の外を見ると、街の人は、切磋琢磨と働いている。無所属の人や、充分名の知れた団体などが食物を育てて売っている、と聞いた。
するとその街の中に、あるひとりの影を見た。
Gizelだ。
「何してるんだ?あいつ………」
俺はGizelの動向を見ていた。すると、Gizelはなんだか男に捕まり、説明を受けているようだ。
話が終わったと思うと、また、進んでいた方向を向いた。
──どこへ行くつもりだ?確かあっちは…ギルドだったかな?
ギルドでは、クエストが受けられる。
そのクエストに行き、モンスターを狩ることによって、装備増強や、訓練にもなるそうだ。
Gizelや俺には無関係だと思ったが、しかしGizelにとってはそうでは無かったようだ。
Gizelはそのまま進むと、やはりギルドの中に入っていった。
しかしその後、俺はすぐにベットへ向かった。
──考えるだけ無駄だ、寝ちまおう。
そう思い、目を閉じると、だんだんと意識が薄れていった。
 
目を覚ますと、そこは見慣れた天井。
のはずが、女の子の顔が目の前にあった。
「うおぁぁっ!?」
「わっ………びっくりしたぁ……」
声の下方向を見ると、そこにはにゃおが腰を抜かしていた。
どうやら女の子と思ったそれは、にゃおだったらしい。
「なんだ、にゃおだったのか。おどかすなよ」
「ごめんごめん。ところで影たん、詩音が呼んでたよ」
「おお、そうか。ありがとう」
俺は一言礼を言うと、そのまま着替えて部屋を出た。
──にゃおって実は女の子でしたー、とかないよな?
外見だけでいえば女の子らしい容姿をしているが、ネットで話してきた様子や、俺の着替えを見ても同様しないことから男の可能性の方が高そうか。
にゃおについて考えていたからか、ずっとにゃおの方を見ていたらしく、そのにゃおは首を傾げていた。
───普通に女の子って言われても信じるわこれ。

部屋の前につくと一応ノックをした。
「はい。どうぞ」
奥からは詩音の声が聞こえる。
扉を開けると、そこには……普通に詩音がいただけだった。
「あ、団長。おはようございます」
「あ、おはようございます。………で、用があるって聞いたけど……」
「あぁ、そうそう。依頼があったんですよ」
「依頼?」
呼び出す、ということは普通の依頼じゃなさそうだが。
詩音のそばに行くと、甘い匂いがした。香水……?
「んーとね、遠征依頼みたいだよ。これは受けといて損はないかも。遠征中に出会ったモンスターの素材は貰えるし、そのモンスターが何かによって金額が上がるらしいんだ」
要はめちゃくちゃお得なんだろう。
だが、そういうのは大抵裏がありそうだが………。
「大丈夫なのか?」
「? 大丈夫だよ?遠くへ行くだから」
決して詩音を信用していない訳では無い。むしろ、うちの団体で2に信用できる相手だ。
だが、依頼内容がどうにも胡散臭すぎる。いい事が無さそうだが………。
「んー、この破格の条件、もしかしたら護衛任務かもね。しかも、結構強いモンスターが出るルートを通るのかもしれない」
そのレベルでそんな破格な条件でだすか?それに、護衛任務なら護衛って書かれているはずだ。それすらも書かれないとは………
「依頼主ってわかるか?」
「一応ね。依頼主は確か………」
詩音は、その書類に書いてある名前を読んだ。
「激ねむ……ってさ」

俺達は依頼通り、遠征に来ていた。
特にする必要もなさそうだったが、それでもサボるわけにはいかなかった。
うちの団体はお金がある、というわけでもないので、こういうことでお金を稼ぐしかない。
依頼人からして、それほど鬼畜ではないだろうと予想していた。
激ねむとは……荒らしの中でもよく話す、俺を対荒らしと知っていても他の荒らしと変わらないかのように話してくる、言わばいいやつであった。
もちろん、俺はまだあったことないので、どんな奴かはまだはっきりとは分からないが。 
しかし、まだ信用のおける人物であることには変わりがなかった。
「とは言ってもね……意外と楽すぎる気がする」
「そう?モンスターを狩らないとあまりお金もらえないよ?」
モンスターが来ることは必ずしもいいことではないが、しかし来なかったら仕事にならないので、できればきてほしいと願うばかりだった。
だが、当然のことながら、強いモンスターはそうそう来ない。俺は同行人である行商人と一緒に歩いていた。
平和であれば平和が続くほうがいいし、来るのであればなかなかの強さのものに来て欲しい。
そんな欲望を尻目に、どんどんと進んでいく。

どれだけ進んでもモンスターは一向に現れなかった。
一体も、という訳でもなく、現れたのは一応現れたのだが、ものすごく小さかった。
「これじゃ戦いがいがねぇな……それに、金にもならないか」
素材はもらっていいとのことだったので、剥ぎ取りながらそう言った。
そんなことが何度も続き、しかし大きなモンスターに出会わないことをずっと嘆いていた。
「仕方ないんだろうけど、やっぱり大型モンスターはそんなにいないね……たまに見かけても、どっか行っちゃう」
「え、たまに見かけるんだ。でもまぁ、こっから離れるわけにもいかねぇしな。こっちに来るのを待つばかり……か」
しかしその発言は、ただの発言ではなかった。
それは……モンスター襲来の、フラグとなったのであった。

小さいモンスターを狩っている時だった。
「ぐぎゃぁぁぁあ!……ぐぉぉぉぉぉぉぉお!」
そんな咆哮が耳を劈いた。
その咆哮の主は……一体の、大きな龍だった。
龍……と言うよりは、竜か。
赤い翼を持ち、炎を纏う……紅炎の火竜だった。
「──っ!来やがったな……!」
すぐさま行商人を逃がし、火竜に向き直った。
一人で相手するのは骨が折れそうだ、と考えている時だった。
「──珍しいな、ここに火竜とは……そして、お前がいるとはな」
不意に、声が聞こえた。
この声は……我が団体の副団長であり、俺のリア友。
──山淵啓太……アマミヤだった。
「──へっ……お前もやっぱ来てたか……アマミヤ。さぁっ、一緒にやろうぜ?」
詩音に避難を任せ、火竜をアマミヤと2人で討伐することになった。

アマミヤは太刀を持っていた。
ロングソードのようなものではなく、普通の刀のようなものだった。
刀身は蒼く光り輝き、固く鋭い刃を持っていた。
「それがお前の獲物か……?」
俺がそう聞くと、アマミヤは太刀を見て答えた。
「そうだ。蒼刀・水月……切れ味も強度も文句無しの一品だ」
「へぇ……すげぇな。俺武器ねぇからなぁ……」 
こちらに来たばかりで武器を持っていないので、戦う手段としては拳ということになる。
特殊能力で戦おうにも、特殊能力が効くかどうかわからない以上、拳で殴った方が確実だった。
「アマミヤ、俺がまず仕掛ける。その後に頼むぜ」
「分かった。先制は頼むぞ」
二人して頼み合い、しかし作戦としても、チームとしても成り立っていた。
これが、10年以上一緒に過ごしてきた友達との、コンビネーションのなせる技だった。
まず俺が踏み込み、火竜に突撃した。
拳を突き出すと、クリーンヒットした。が、さほど効いた様子もなく、火竜はこちらを睨んできた。
しかし、こちらに気を取られた火竜は、次の攻撃をよけられなかった。
アマミヤの斬撃が、体に当たる。
だが……
「ぐぉぁぁあ!がぉぉぅう!」
火竜が叫ぶと同時に、火の玉が飛んできた。
この距離では……避けられない。
「ぐぁあっ!」
「ぐぅっ……!」
二人共火の玉に吹き飛ばされてしまった。
その時ふと周りを見ると、詩音たちの影がだいぶ遠くへと行っているのが見えた。
よかった、無事遠くへ逃げられたようだ。
それを確認して、俺は目を閉じ、意識が薄れていった。

────立て。立つんだ、影楼。お前はこの世界に革命を起こす。そのためにここで死んでもらってはいけない。武器を授けよう。立って、戦うんだ。火竜と──この、世界と!────

聞き覚えのない声が頭に響いた。
目を開けると、手には武器が握られていた。
それは……銃だった。

黒く光り輝く銃身。
大きい銃口に、手のひらのサイズにあったグリップ。
銃身からマガジンを抜いてみて見ると、。それは、撃てないというわけではない。
おそらくだが、弾が無限なのだ。
八ミリ経口ハンドガン──『アラミタ』。
そう、銃身に刻まれていた。
どうやらセミオートらしい。
「これ……強くないか?」
撃ってみないとわからないが、弾は一種類だけだろうか。
しかしそんなことを考えていると、火竜がこちらに気づき、近づいてくる。
その瞬間、俺の頭は一瞬で悟った。
──ここで、撃つべきだ。と。
俺は銃を構え狙いを──定める前に撃った。
パーンと音が鳴り響き、銃口からは煙が出ていた。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
火竜の方を見ると──右目のあたりから、血が出ていた。
命中したらしい。
しかしそこで攻撃をやめなかった。
アマミヤも起き上がり、強襲していた。その後で、今度は狙いを定めて、撃った。

すると、今度は足のあたりで爆発が起こった。
──徹甲弾になったのだ。
「これ……弾を念じるだけで自動的に変換してくれる……強いぞ、これ!」
そういいながら、しかし油断をせず、撃ち続けた。
アマミヤも、ずっと切り裂き続けた。
しかしそこは火竜、飛んできたのだからまた飛ぶことも出来る。
火竜は飛んでどこかへ行った。

「──ふぅ……やったな。追い返した」
「少しピンチにはなったが……その銃、なんだ?いきなり現れてたが」
「これは……」
俺は続きを言おうと口を開いたが、一瞬噤んでしまった。
とんでもないものを目にしてしまったからだ。
「そんなこと言ってる暇じゃねぇみてぇだ。──火竜の雄のお出ましだ」
目の前には、火竜がやってきていた。

どうやら、追い返したと思われた火竜は実は、撤退したのではなく救援を呼びに行ったらしい。
火竜の雌だったらしく、つがいの相手の竜を連れてきたようだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉお!」
叫ぶように放ったその咆哮は、地面すらも轟かすほどだった。
今目に見えている中にある、アイコンのようなものにはこう表示されていた。
『──破壊の蒼龍・アガルナイト』
と。

詩音はその頃、行商人の避難を終わらせ、戻ろうとしていた。
しかし、火竜の戦闘を見て、足でまといになるだろうと思い、影に隠れて見ていた。
影楼達が紅炎の火竜・プロミネンスを追い返したと思うと、そのつがいの相手の、アガルナイトを呼んで戻ってきた。
しかし、援護に回ることはしなかった。プロミネンス戦の時よりも、遥かに強いアガルナイトを目の前に、詩音の足は立ち竦むばかりだった。
そうして、影楼&アマミヤと、プロミネンス&アガルナイトの戦いの火蓋が、切って落とされた。

これはやばい。直感がそう悟るが、しかし体は逃げようにも動かなかった。
いや、動かなかった訳では無い。相手とは逆方向には動かなかったのだ。つまりどういうことかと言うと。
立ち向かう方向にしか、動かなかったのだ。
戦うしかない、そう、心の底から決めた。
アマミヤも同じらしく、アガルナイトに向けて剣を構えていた。
その剣はしっかりとアガルナイトの頭を捉えていた。
「──やるしかねぇよな……行くぞ!アマミヤ!」
「あぁ!」
そう言って、俺達は動き出した。
素材の為でも、お金の為でもない。自分が強くなるために、アガルナイトと戦いを始めた。

アガルナイトはプロミネンスの上位互換のようなもので、火炎弾だけでなく、火炎放射や、尻尾についた毒針で攻撃をしたりした。
俺達は避けるしかできなかったが、しかし隙あらば攻撃もしていた。
基本的に翼を狙うが、翼に付く爪が切ろうとしたり、撃ち抜くのを防ぐ。
を狙うのは意味が無いようだ。
すると俺たちは、狙いを変更して、攻撃を再開した。
狙うのは翼自身ではなく──翼の付け根だ。
アマミヤが大きく振りかぶり突っ込む後ろで、俺はアガルナイトの気をそらすために、を撃ち続けた。
アマミヤが剣を振り下ろすと……アガルナイトから翼が片翼だけ消えた。
切断に成功したらしい。
「ぐぉぁぁあ!」
アガルナイトの、悲鳴にも似た咆哮が鳴り響く。
だが、そんなものに怯んでいるわけでもなく、俺達はその間も突っ込んで攻撃を続けた。
足に徹甲弾を撃ち込み、バランスを崩したところで、尻尾を切り落とした。
そして、次に、残っている片翼を切った。
残る頭部は、徹甲弾を相手の顔に撃って、怯んだところをアマミヤが切り落とした。
こうして、アガルナイトを討伐した。
そして、プロミネンスは……いつの間にか死んでいた。
「やっと……勝てた……!」
その言葉は、心の叫びでもあり、安堵を含まれた、希望の言葉でもあった。
そうして、戦いは終わった。

その後も、何度か魔物の襲撃があったが、難なく倒してきた。
目的地まで行商人を連れてくると、行商人に金をもらった。俺は行商人に礼を言い、拠点へ戻ることにした。

道を歩いていると、急におかしなことが起こった。
俺の体が、女の子になっていったのだ。
装備などは変わらないが、明らかに女とわかった。
「なん……で……?」
「さ、さぁ……アマミヤは、分かる?」
「いや、わからん。そもそも女体化なんて……普通なるもんじゃねぇだろ」
たしかに、女体化している人を見ることもなかったように思える。
そもそも、そんなことが出来るのかどうか、ということすら不明である。
実験でやるにしては相手が悪い上に、一向に戻る気配もなかった。
となると、本当に不明だが……。
「もしかして、この状態で過ごせと?」
「仕方ないんじゃない?いいじゃん、可愛いよ」
詩音がおどけたようにそう言うが、しかし性別転換なんて、慣れてもいないし、生活も難しくなる。
そんな考え事をしている俺を横目に、話を続けて、詩音。
「大丈夫だって!いざとなったら手伝うからさ!」
手伝うって何をだよ、と思ったが、おそらくお手洗いやお風呂のことだろう。
仕方なくここは甘んじることにした。
だが、ずっとこの状態でも仕方が無い。
俺はいち早く元に戻るために、情報集めることにした。まずはそのために早く本拠地に戻らないといけない。
そこからはペースを上げて歩いた。

街に戻ると、やはり活気づいた様子は変わらなかった。
本拠地に戻ると、俺はすぐに資料のある部屋へ駆け込んだ。
そして、様々な文献を読んだところ、おそらくこうではないか、ということが書いてあった。
『この世界では、女性用装備と男性用装備がある。異性の装備を着けると、性転換するという、特殊な効果もある。お風呂などでは装備は外せるが、しかし性別も戻らない。また、通常は外すことが出来ない』
誰かが意図的に特殊能力で念じたにしても、さすがに戻らないのがおかしすぎる。
となると、これしか考えようがなかった。
しかし、俺が身につけているものは男女兼用の装備。これも違うのか?と思うと、一つの考えが浮かんだ。
「なぁ……もしかして、Gizelと繋がってる……とかないよな……?」
「え、どうだろう。Gizelが女の子なら確実に繋がってるね。これはGizelのせいなのかな?」
詩音が答えた。
Gizelと繋がっているのであれば、この状況もおかしくない。
とりあえず俺は、Gizelを理不尽に、容赦なく恨むことにした。
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