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ACT.5
5.優しい気持ち
しおりを挟む「倉橋さん!」
声をかけられたのは、生徒指導室を出て少し歩いたところだった。
「――町田さん。どうしたの?」
少し息を切らしてるから、走ってきたのだろう。偶然見かけて声をかけたというより、あたしを探してたみたいに見える。
「ごめんなさい!」
あたしが首を捻るよりも早く、町田さんが頭を下げる。
「えっ、なんで?」
謝られる理由なんて、まったく思いつかない。
むしろ、刑事さんたちじゃないけど、あたしに疑いかけて怒ってても不思議じゃないのに。
「だって、倉橋さんなんにも悪くない」
顔を上げた町田さんの目に、涙が溜まっていた。
「ユアちゃんが勝手に嫉妬しただけなのに――殴りかかられたのに、手首冷やした方がいいよって言ってくれたり――なのに、仲が悪かったんだろうって変な目で見られて――」
涙声になっていて、ああ、と思わず苦笑した。
「あの、若い方の刑事さんでしょ? 感じ悪かったよね」
容疑者でもなんでもないはずなのに、睨まれたことを思い出す。
正直、無実の女子高生相手の態度ではなかった。
「それに、町田さんが謝ることでもないでしょ」
「だって……私が、言ったの。倉橋さんって葛城くんと仲がいいみたいって。だから――」
「そう言ったって、花森さんあの反応が――過剰だっただけなんだから。普通、あんなふうになるとは思わないでしょ」
あの反応は異常と言いかけて、さすがに言葉を選んだ。
あたしにとってはそんなにいい印象はないけど、町田さんは花森さんと仲がよかったんだもん。そんな言われ方、したいはずがない。
――そう、友達があんなことになって、つらいはずなのに。
「あたしは大丈夫だよ。気にしてくれてありがと」
いい子だな。
思うから、自然と労う気持ちが湧いてくる。
「あたしのことなんかより――花森さん、心配だね。早く元気になれればいいけど……」
「――うん」
我慢できなくなったのだろうか。町田さんはとうとう、両手で顔を覆った。
「ユアちゃんね……普段はあんなじゃないの。ちょっと気が強いけど、優しいとこもあって……あんな、乱暴な子じゃないの……」
もしかしたら町田さんも、あたしが花森さんを嫌ってると思ってたのかもしれない。だから彼女をかばうようなことが言えなくて、それで余計につらかったんだろうか。
「大丈夫、わかってる」
わかってるから。そう、何度か繰り返す。
これで、少しは落ち着くといいけど。
あたしはそっと、町田さんの肩に手をまわして、ぽんぽんと背中を軽く叩いた。
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