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ACT.2
3.変わった子
しおりを挟む「倉橋さん倉橋さん倉橋さーんっ」
授業と授業の間、10分休みのとき、連続で名前を呼ばれる不思議な現象が起きた。
え、何事!?
思う間もなく、1人の女子に、ガッ! と手を掴まれる。
かと思うと、こっちこっちと手を引かれ、気がつくと廊下にまで出ていた。
そこには、なにやらキラッキラした目の女の子が2人。
計3人の女子に囲まれて、思わず怯む。
「えっと、なに……かな?」
まだ名前は覚えてないけど、あたしの手を引っぱって連れ出したのは同じクラスの子だった。他の2人はたぶん違うクラスで、正直、まったく覚えてない。
呼び出しを食らう……にしては、雰囲気がおかしい。むしろ、ちょっぴり頬が赤かったり、興奮してる感じがあった。
「ねぇ、あの葛城くんと親戚、なんだよね?」
「情報、いろいろ教えて!」
「っていうか、紹介して!」
いや、紹介もなにもそもそも君、誰。
呆れるも、同時に納得もする。
葛城は新入生代表で挨拶なんてしてたから、まぁ目立ってた。しかもあの容姿で、すぐにファンがついたのだろう。
で、同じクラスの子が、あたしと葛城の会話を聞いてた。
将を射んとすればなんとやら。
や、そこまで考えてないのかもしれない。
葛城がむすっとしてて話しかけにくいから、ワンクッションがほしい、くらいな感じなのかも。
あたしと葛城、どちらに女子が話しかけやすいかは、考えるまでもない。
「うーん……親戚は親戚だけど、なんかすごい遠縁みたい。小さい頃に1回会っただけで――しかもあたし、そのときのことあんまり覚えてなくて」
要望に応えてあげたいのはやまやまだけど、情報なんてほぼもってない。お母さんとか勇人さんとかに聞いたりすることはできるけど、それ以外の条件は、彼女たちと変わらなかった。
「ってか、直接話しかけてみなよ。別に怖くないよ、あの子」
口数は多くない方だと思う。愛嬌もないし、表情もむすっとして見えるけど、悪い子じゃなさそうなのはわかる。
なんのかんの、あたしの質問にはきっちり答えてくれるし。別にあたしが特別なんじゃなく、気安く声をかけてるのがあたしだけって話なんだと思う。
「えー、でも恥ずかしいし」
「なに話せばいいかわかんないし」
ねー? と3人で顔を見合わせる様子は、いかにも女子な感じで可愛かった。
まぁ、話しかけるきっかけが欲しくて、事前に情報が欲しいってことかもだけど。
「うーん、でもあたしも、ホントよく知らないんだよね……あ、ハーブには詳しいみたい!」
ふと思い出したのは、昨日お店でした会話だった。
「ローズマリーの説明聞いたよ。淹れてもらったお茶もおいしかった!」
「お茶淹れてもらったって……え、家に行ったの!?」
やっぱり仲いいんじゃ……みたいな空気になったので、慌てて両手を胸の前で振った。
「違う違う! お家じゃなくてお店――」
「倉橋」
近くでお兄さんが喫茶店してて――って、説明するつもりだった。
けど、突然後ろから声をかけられ、ビクッと振り返る。
立っていたのは、ものすごい不機嫌そうな顔であたしを見下ろす、葛城だった。
怖い顔してるだけじゃなく、その上、チッとか舌打ちまでする。
――えぇっと、なんか怒ってる……?
「そうだちょうどよかった、葛城、この子たちが――」
紹介して、とか言ってたんだから、実はいいタイミングかもしれない。
気まずさも手伝って、早口で話しかけたあたしの口に、葛城がぽいっとアメ玉を入れる。
朝、くれたのと同じアメだった。
話してる途中だったのと、まるっきり油断していたせいで、びっくりして危うくアメを飲みこんでしまうとこだった。
なんとか口の中に押しとどめたあたしの肩を、葛城はぺしっと払う。
え、なに――なに?
葛城の行動が謎すぎて、あたしも、女の子たちも、ただただ唖然と彼を見上げる。
「――ゴミが、ついてた」
4人から向けられる怪訝な視線に気づいたか、目を横にそらしながらぼそりと呟く。
いやいやいや、どう見てもウソっぽすぎるんですけど!?
あたしが不平を口にするよりも早く、葛城は背中を向けてさっさと立ち去った。
残されたのは、訳のわからない言動を見させられた、4人。
「あー……まぁたしかに、話しかけにくいのはわかるな。ちょっと……だいぶ変わってるな、あの子」
みんなで呆然としてても仕方ない。空気を変えようと、軽く苦笑しながら言ったのはあたしだった。
「本当。かっこいいけど、近寄りがたいっていうか……」
「今のも、よくわかんなかったよね……」
困惑気味に顔を見合わせる女子に、だよねぇと同意せざるを得なかった。
そんな中、でもでも、と気を取り直したように、1人の女の子が眉をハの字に歪める。
「倉橋さん、やっぱり葛城くんと仲いいよね? わざわざ肩についたゴミ払いに、近寄って来たりしないでしょ?」
まぁ、しないだろうねぇ。話してて、たまたま気づいたから払った、とかならあり得るだろうけど、さっきの状況はちょっと、普通じゃない。
「それに、はいあーん、なんてやらないし」
ぷぅ、と頬を膨らませて見せる仕草は可愛いけど――たしかに「現象」だけみればそう見えなくもないけど――
あたしはあえて、真顔を作ってみせる。
「さっきの、そんなほのぼのした様子に見えた?」
はいあーん、なんて言うと、どうしたってらぶらぶな印象を抱きがちだけど、さっきのはむしろ、口の中に突っ込まれた感じだった。
3人はあたしの顔を見て、それからまたお互いの顔を見て、「だねぇ」と苦く笑った。
「――あ、やだ、休み時間終わっちゃう!」
「ホントだ! 急いで戻らないと……じゃあね!」
慌てて走ってく2人を、手を振って見送る。残った同じクラスの子と、「あたしたちも戻ろうか」と肩を竦めて笑い合った。
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