迷迭楼

月島 成生

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ACT.1

5.運命の出会い

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 小さい頃に会った?
 さらりと言った勇人さんの言葉に、2人の顔を見比べる。
 こんなイケメン2人、会えば忘れないと思うんだけど……

 や、でも、昨日初めて会ったはずの勇人さんの顔に、親しみというか懐かしさを感じたのも事実で。

「1回だけ、だけどね。10年くらい前かな? 法要で」

 じっと見つめるあたしが、まるっきり察してないことを知ったのだろう。苦笑しながら、勇人さんが言う。

「法要?」
「そ。血縁としてはだいぶ遠いけど――親戚だから」

 遠い親戚。
 言われてみれば、なんとなくそんな気がしないでもない。

「実はね、昨日、窓越しに見た時から末那ちゃんじゃないかなーって思ってたんだ」
「そんな最初から!?」
「印象が、小さい頃のままだから」

 いやまぁ、確かによく、変わってないとは言われるけど――それにしても、たった1回、それもずっと前に会っただけの遠縁の子を一目でわかるって、すごくない?
 でも、だからわざわざ呼び入れてくれたんだと思えば、納得もできる。

「ま、さすがにちょっと自信なかったけどね。スマホカバー見て半ば、自己紹介してもらって確信、って感じ」
「だから末那識まなしきの末那だってわかったんだ」

 親戚以外で知ってる人見たことない、とは思ったけど、なんのことはない、この人も親戚だったんだ。
 ぷぅ、と頬を膨らませて見せる。

「だったらなおさら、人が悪いと思うんだけど。昨日、言ってくれたらよかったのに」
「いやぁ雅人と感動の再会、ってヤツをしてほしかったから。知らない方が、劇的でしょ?」

 ふざけた調子で、パチンとウィンクした。

 この人――自分がイケメンなの、絶対自覚してる。見せ方がうまいというか、なんか卑怯だ。
 一方、ほぼ同じ顔の弟は、美形っぷりを効果的に使うこともなく、むすっとしたままそっぽを向いている。

「感動もなにもなかったよ。勇人さんに間違えちゃうし……そもそも、覚えてないよ」

 ねー?

 同意を求めるために顔を覗きこんでみても、冷たい視線が返ってくるだけだった。
 ――まぁ、葛城があたしがやったように、首を傾げて「ねー?」って言ってきても、たぶん気持ち悪いけど。

「――覚えてた」
「はい?」
「――おれは、覚えてた」

 おぅふ。
 ぼそりと呟かれて、内心で声を上げる。
 確かに、覚えてたからこそ、今日、あの一瞬であたしの名前を呼んだんだ。

「ま、条件も違うし仕方がないかもね」

 まるで鼻歌でも歌うような軽い調子で、勇人さんが言う。

「末那ちゃんは小学校から安曇あずみので、おれも雅人もそれを知ってる。会うだろうなってわかってたおれたちと違って、末那ちゃんにとっては奈良にいるはずの親戚が、まさか福岡にいるとは思わないだろうし」

 これって、仮に覚えてたとして、って話だよね。
 でもそれだとしても、名前を聞いて、「えー雅人ちゃんなの、懐かしいー! 元気にしてた?」みたいな反応しないといけないはずなのに、やっぱりまるっと思い出せない。
 考えて、あれ、と気づく。

「奈良? でも全然、関西弁じゃないね」
「十津川寄りだからね」

 当然のように言われるけど、よくわからない。地理的にってことかな?
 まぁ、福岡だからとみんながこてこての博多弁じゃないのと一緒か。
 納得と同時に、別の疑問が浮いてくる。

「でも、だったらなんでわざわざこっちに?」

 22歳ってことは、大学卒業してすぐってことだろう。
 就職してこちらに、とかならわかるけど、自分でお店出すのに、あえて遠くて、縁のない土地を選ぶ必要があったのかな。

「ああ、それは――」
「兄さん」

 いたずらっぽい笑みのままに口を開いた勇人さんを、葛城が遮る。
 相変わらず、怒ってるような無表情だった。
 脅しをかけてるようにしか見えない顔に、勇人さんは、はははっと楽しそうに笑う。

「そう拗ねるな。仕方がないだろう。運命の出会いが、双方にとってそうだとは限らないんだから」

 どう見ても面白がってる表情に向ける葛城の目が、正直怖い。あたしがあんな目で睨まれたらきっと、ひっ! とか悲鳴あげちゃう。
 ――や、まぁ案外平気かも、だけど。

「ね、勇人さん――」

 運命の出会いってなぁに?
 尋ねようとしたとき、カランと扉についた鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ」

 店内に入って来たのは、若い女性2人だった。
 来店の挨拶を受けて、彼女らがちょっと怯む。爽やかさ全開、完璧な笑顔はある意味破壊的な威力があった。
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