55 / 62
第五十五話 溢れるのは魔力と絶望と
しおりを挟むオレスティアから魔力が溢れている。
さも当然のようにルシアは言ってのけたけれど――と、オレスティアを見た。
彼女もやはりオレステス同様、いや、それ以上の狼狽を乗せた瞳を左右に揺らしている。
顔を見合わせ動揺している二人に気づかないのか、ルシアは淡々と続けた。
「オレスティアさんがあたしに向かって、魔術が使えるのが凄い、羨ましい、なんて言ってたからまったく使えないのかと思ってたけど、すごい魔力の保有量じゃないの」
「――え?」
「なんならあたしの比じゃないくらいあるのに――って、あ、それともうまく魔力を使いこなせないとかそういう話? だったらあたしが役に立てるかもしれないわね」
「いやいやいやちょっと待ってくれルシア」
ぺらぺらと並べられる高説に、我に返ったのはオレスティアよりもオレステスの方が早かった。
「オレスティアには魔力があるのか?」
「あるわよ。まぁ魔力感知能力のない人にはわからないかもだけど」
ルシアの言葉を受けて改めてオレスティアを見ると、慌てた仕草で頭を振った。
「そのようなはずがありません。だって魔術師の方に鑑定していただいて、一般人以下だと」
「それって子供の頃の話じゃない? 成長とともに現れることもあるけど」
「いえ、見て頂いたのは一度や二度ではなく――定期的に、鑑定は行われていました」
成長と共に魔力が現れることもあると侯爵も知っていたのなら、ずっと悪あがきを続けていたということか。
ほとほと嫌になる。ましてそうやって鑑定を受ける度にオレスティアが悲嘆に暮れていたかと思うと、ムナクソ悪い。
「ちなみに訊くけど、直近ではいつだったの?」
「半年ほど前です」
「そのときには片鱗も見えなかったってことよね?」
問いかけに、オレスティアが素直に頷く。
おかしいわね、とっぽつりと呟いたのはルシアだった。
「なんらかの原因で突発的に目覚めることはあるらしいけど、基本的には徐々に育つはずなのよね」
「あ」
ぶつぶつと、語るのと独り言の中間のようなルシアの声に、オレスティアとオレステス、二人が同時に声を上げた。
おそらく、同じ事柄に思い至ったのだろう。
「――急に目覚めたんだろうな、たぶん」
「ええ、きっと……」
オレスティアは両手で顔を覆い、オレステスは片手を口元に当てる。
二人の反応に、ルシアがかたんと首を傾げた。
「なにか心当たりがあるの?」
ちらりと向けられた視線に、オレステスは苦笑して見せた。
「婚約がそれほど嫌だったってことか」
タイミングとしては、おそらくそうなのだろう。
婚約の話自体は、前からあったのだろうと思う。だが相手に会うためのドレスを新調する段階で、いよいよ現実味を帯びてきた。
実感したが故に絶望感も増し――そして逃げたい、助けてほしいと、今までの比ではないほどに強く願ったのか。
ルシアとオレステスが視線を向ける先で、オレスティアはますます項垂れた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
レイシア王妃とチェンジリングの悪役令嬢だった者
toyjoy11
ファンタジー
悪役令嬢予定のアイリスは6歳の誕生日に人間を辞め、精霊界に行ってしまった。
そして、王国は10年後、人間の居ない精霊国になった。
夢で見たお話。
【R18】兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
季邑 えり
恋愛
幼くして両親を亡くした雪乃は、遠縁で幼馴染の清隆と結婚する。だが、貧しさ故に清隆は兵士となって村を出てしまう。
待っていろと言われて三年。ようやく帰って来る彼は、旧藩主の娘に気に入られ、村のために彼女と祝言を挙げることになったという。
雪乃は村長から別れるように説得されるが、諦めきれず機織りをしながら待っていた。ようやく決心して村を出ようとすると村長の息子に襲われかけ――
*和風、ほんわり大正時代をイメージした作品です。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【短編】最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「ディアンナ、ごめん。本当に!」
「……しょうがないですわ。アルフレッド様は神獣様に選ばれた世話役。あの方の機嫌を損ねてはいけないのでしょう? 行って差し上げて」
「ごめん、愛しているよ」
婚約者のアルフレッド様は侯爵家次男として、本来ならディアンナ・アルドリッジ子爵家の婿入りをして、幸福な家庭を築くはずだった。
しかしルナ様に気に入られたがため、四六時中、ルナの世話役として付きっきりとなり、ディアンナとの回数は減り、あって数分で仕事に戻るなどが増えていった。
さらにディアンナは神獣に警戒されたことが曲解して『神獣に嫌われた令嬢』と噂が広まってしまう。子爵家は四大貴族の次に古くからある名家として王家から厚く遇されていたが、それをよく思わない者たちがディアンナを落としめ、心も体も疲弊した時にアルフレッドから『婚約解消』を告げられ──
これは次期当主であり『神獣に嫌われた子爵令嬢』ディアンナ×婿入り予定の『神獣に選ばれた侯爵家次男』アルフレッドが結ばれるまでの物語。
最終的にはハッピーエンドになります。
※保険でR15つけています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる