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37 飛空艇での戦い(サナ王女視点)
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一晩寝たことでダルさもだいぶ回復した。飛空艇は宗教国家スオードを出て、帝国方面に向かっているところだった。私たちは大会議室に集まった。
もう皆には『ルーツ』と『サナ』のことは説明済のようだった。彼らの仲間であるネロとシンディという冒険者も乗船している。
ジャックとリリィが、帝国との戦争の被害調査の結果を報告してくれた。それでニーベ村の件に辿り着いたのか。
「正直言ってさ、悪いのは帝国だよ、全部。どうせろくでもない事を隠してるんだろうと思ってたけど、案の定だったな」
ブルーニーが言った。彼は帝国人でありながら、帝国のありようを容赦なく斬り捨てる。
バスティアンや帝国人たちはその調査報告を直視できずに頭を抱えていた。ニーベ村以外にも、酷い事件の報告があったから無理もない。しかし、ブルーニーは黙ってその情報を一つひとつ確認していた。
「だけど、オーデルグは、ミストロア王の陰謀とか言ってたわ。帝国だけの問題ではないのかもしれない」
リリィはルーツをオーデルグと呼ぶようになった。きっと自分の心を守るためなんだと思う。あのルーツが敵になってしまったのだから。
「けどよ……、ルーツがオーデルグだったなんて……」
「最初っから私たちを騙していたってことよね……」
「辛いなぁ……。ちょっと、色んなこと、起こりすぎだよ」
チームメンバーが次々と口にした。嘆きは当然だと思う。ルーツと仲良くしていたメンバーもいるのだから。
「何よりも事態が深刻です」
「ええ。長老、破壊神トコヨニの力は、ほぼ全てオーデルグの手中にあります」
ルーツとサナが言う。確かにそうだ。暗黒竜ラグナロクが目覚めてしまえば、もう手に負えない。
大会議室内の空気は重くなるばかりだった。しかしその時、艦内に警報が鳴り響いた。
「な、何だ!?」
「警報!?」
チームメンバーから声が上がる。
「確認します!」
ルーツはそう叫ぶと、サナとネロとシンディと共に大会議室を出ていった。
ブルーニーが続き、私も椅子から立ち上がって移動し始めた。
◇
「魔物の群れが接近中です!」
私は警戒担当の兵士からその情報を聞いた。望遠鏡で確認すると、確かにこちらに接近する影が見えた。
「マギイーターか」
「厄介な魔物に遭遇したわね!」
チームメンバーが口々に言う。
巨大なバッタのようなこの魔物は魔力を喰らうのだ。特に、飛空艇の魔力エンジンが狙われるケースは少なくなく、飛空艇事故の要因にもなる。大群で襲われることが多く、初動を間違えると対処不能になる危険な魔物だ。
状況を直接確認するため、私は甲板に出た。その時、私の視界を横切って魔法攻撃が放たれたのが見えた。私は驚いて出どころを見ると、ルーツが杖を構えていた。ルーツが魔法を撃ったのだ。
「こ、こんな遠距離から……?」
「い、いやでも、ほら!」
ジャックとリリィが驚きの声を上げた。私も双眼鏡で再度魔物の群れを見てみると、魔法は届いていた。多くの魔物が被弾し、大地に落ちていっているのが確認できる。
す、凄い……。まだ遥か遠くにいるはずの群れに大きな被害を与えた。オリジナルのルーツに違わず、このルーツもとてつもない魔道士なんだ……。甲板に上がってきたチームメンバーたちも目を丸くしていた。
「続けていきます」
「えっ……!?」
私はその声の方に顔を向けた。
サナが、ルーツと同じように杖を構えている。杖が光り輝き、私はその強大な魔力を呆然と見つめた。そしてサナが魔法を放ち、魔物の群れに大損害を与える。
私は言葉を失ってしまった。ルーツと変わらない威力のサナのその魔法に……。
強力な遠距離攻撃を喰らった群れは二つに分かれ、一方は引き続きこちらに向かってきた。しかし、ほとんどの魔物は他方のグループで逃走を選んだようだ。
「全部追っ払うわけにはいかねーか」
「ま、そう上手くはいかないわね」
ネロとシンディが武器を構え、向かってきた方の群れを迎撃した。この二人も強い、マギイーターを一撃で仕留めている。
「はっ!」
サナが魔法を撃つ声が聞こえた。サナは近接でも凄まじい動きを見せ、魔物を撃退している。私はその光景から目を離せなかった。
これが、私のコピー……? この、とんでもない強さの少女が……?
破壊神討伐チームのメンバーも迎撃に加わっていったが、私は手を動かすことができず、サナを目で追うばかりだった。
◇
迎撃が完了し、安全確認が取られたところでチームメンバーから安堵の声が上がる。ルーツ、サナ、ネロ、シンディは4人で集まって何やら話しており、そこに声を掛けにいっているメンバーもいた。しかし、私は彼らに近づく気になれなかった。
その後、大会議室に集まり、ミーティングの続きが行われた。
目先の戦いには勝利したが、気を緩められる状況ではないのだ。
「暗黒竜ラグナロク、復活するのかな……」
「ルーツの、オーデルグの目的が世界の破壊なら、そうなるんじゃない……?」
「立ち向かうっていうなら、召喚獣タイタニアを味方につけるべきじゃないか」
チームメンバーの一人が私を見た。
「え……?」
私はその期待にたじろいでしまう。
「サナも、召喚魔法を使えるんでしょう? 私よりあなたの方が……」
「いいえ。ルーツがオーデルグの才能を引き継げなかったように、私もサナ王女と同じではないんです。タイタニアは正統な召喚士であるサナ王女にしか召喚できない」
そんなこと、言わないでほしい。どう考えたってサナの方が向いている。さっきの戦いぶりを見れば、誰だってそう思うはずじゃないか。
もう、私に頼るのはやめるべきだ。かつての幼馴染一人の絶望すら、察することができなかった愚かな私になんて……。
「タイタニアに挑戦するなら、創造神サカズエに会いに行かないといけないんじゃないか?」
「そうだな」
サカズエ。この事態をどう見る気だろう。正直、私は会いたくなかった。どうせサカズエは、負けてはならないとか、そういう具体性の無いことしか言わないのだから。
もう皆には『ルーツ』と『サナ』のことは説明済のようだった。彼らの仲間であるネロとシンディという冒険者も乗船している。
ジャックとリリィが、帝国との戦争の被害調査の結果を報告してくれた。それでニーベ村の件に辿り着いたのか。
「正直言ってさ、悪いのは帝国だよ、全部。どうせろくでもない事を隠してるんだろうと思ってたけど、案の定だったな」
ブルーニーが言った。彼は帝国人でありながら、帝国のありようを容赦なく斬り捨てる。
バスティアンや帝国人たちはその調査報告を直視できずに頭を抱えていた。ニーベ村以外にも、酷い事件の報告があったから無理もない。しかし、ブルーニーは黙ってその情報を一つひとつ確認していた。
「だけど、オーデルグは、ミストロア王の陰謀とか言ってたわ。帝国だけの問題ではないのかもしれない」
リリィはルーツをオーデルグと呼ぶようになった。きっと自分の心を守るためなんだと思う。あのルーツが敵になってしまったのだから。
「けどよ……、ルーツがオーデルグだったなんて……」
「最初っから私たちを騙していたってことよね……」
「辛いなぁ……。ちょっと、色んなこと、起こりすぎだよ」
チームメンバーが次々と口にした。嘆きは当然だと思う。ルーツと仲良くしていたメンバーもいるのだから。
「何よりも事態が深刻です」
「ええ。長老、破壊神トコヨニの力は、ほぼ全てオーデルグの手中にあります」
ルーツとサナが言う。確かにそうだ。暗黒竜ラグナロクが目覚めてしまえば、もう手に負えない。
大会議室内の空気は重くなるばかりだった。しかしその時、艦内に警報が鳴り響いた。
「な、何だ!?」
「警報!?」
チームメンバーから声が上がる。
「確認します!」
ルーツはそう叫ぶと、サナとネロとシンディと共に大会議室を出ていった。
ブルーニーが続き、私も椅子から立ち上がって移動し始めた。
◇
「魔物の群れが接近中です!」
私は警戒担当の兵士からその情報を聞いた。望遠鏡で確認すると、確かにこちらに接近する影が見えた。
「マギイーターか」
「厄介な魔物に遭遇したわね!」
チームメンバーが口々に言う。
巨大なバッタのようなこの魔物は魔力を喰らうのだ。特に、飛空艇の魔力エンジンが狙われるケースは少なくなく、飛空艇事故の要因にもなる。大群で襲われることが多く、初動を間違えると対処不能になる危険な魔物だ。
状況を直接確認するため、私は甲板に出た。その時、私の視界を横切って魔法攻撃が放たれたのが見えた。私は驚いて出どころを見ると、ルーツが杖を構えていた。ルーツが魔法を撃ったのだ。
「こ、こんな遠距離から……?」
「い、いやでも、ほら!」
ジャックとリリィが驚きの声を上げた。私も双眼鏡で再度魔物の群れを見てみると、魔法は届いていた。多くの魔物が被弾し、大地に落ちていっているのが確認できる。
す、凄い……。まだ遥か遠くにいるはずの群れに大きな被害を与えた。オリジナルのルーツに違わず、このルーツもとてつもない魔道士なんだ……。甲板に上がってきたチームメンバーたちも目を丸くしていた。
「続けていきます」
「えっ……!?」
私はその声の方に顔を向けた。
サナが、ルーツと同じように杖を構えている。杖が光り輝き、私はその強大な魔力を呆然と見つめた。そしてサナが魔法を放ち、魔物の群れに大損害を与える。
私は言葉を失ってしまった。ルーツと変わらない威力のサナのその魔法に……。
強力な遠距離攻撃を喰らった群れは二つに分かれ、一方は引き続きこちらに向かってきた。しかし、ほとんどの魔物は他方のグループで逃走を選んだようだ。
「全部追っ払うわけにはいかねーか」
「ま、そう上手くはいかないわね」
ネロとシンディが武器を構え、向かってきた方の群れを迎撃した。この二人も強い、マギイーターを一撃で仕留めている。
「はっ!」
サナが魔法を撃つ声が聞こえた。サナは近接でも凄まじい動きを見せ、魔物を撃退している。私はその光景から目を離せなかった。
これが、私のコピー……? この、とんでもない強さの少女が……?
破壊神討伐チームのメンバーも迎撃に加わっていったが、私は手を動かすことができず、サナを目で追うばかりだった。
◇
迎撃が完了し、安全確認が取られたところでチームメンバーから安堵の声が上がる。ルーツ、サナ、ネロ、シンディは4人で集まって何やら話しており、そこに声を掛けにいっているメンバーもいた。しかし、私は彼らに近づく気になれなかった。
その後、大会議室に集まり、ミーティングの続きが行われた。
目先の戦いには勝利したが、気を緩められる状況ではないのだ。
「暗黒竜ラグナロク、復活するのかな……」
「ルーツの、オーデルグの目的が世界の破壊なら、そうなるんじゃない……?」
「立ち向かうっていうなら、召喚獣タイタニアを味方につけるべきじゃないか」
チームメンバーの一人が私を見た。
「え……?」
私はその期待にたじろいでしまう。
「サナも、召喚魔法を使えるんでしょう? 私よりあなたの方が……」
「いいえ。ルーツがオーデルグの才能を引き継げなかったように、私もサナ王女と同じではないんです。タイタニアは正統な召喚士であるサナ王女にしか召喚できない」
そんなこと、言わないでほしい。どう考えたってサナの方が向いている。さっきの戦いぶりを見れば、誰だってそう思うはずじゃないか。
もう、私に頼るのはやめるべきだ。かつての幼馴染一人の絶望すら、察することができなかった愚かな私になんて……。
「タイタニアに挑戦するなら、創造神サカズエに会いに行かないといけないんじゃないか?」
「そうだな」
サカズエ。この事態をどう見る気だろう。正直、私は会いたくなかった。どうせサカズエは、負けてはならないとか、そういう具体性の無いことしか言わないのだから。
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