破壊神の終末救世記

シマフジ英

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35 密かに芽生える新しい願い(ルーツ視点)

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 思わぬ敵の出現に、俺は困惑していた。まさか破壊神トコヨニが俺とサナ王女のコピーを創っていたとは。

「はぁ!」
 もう一人の俺の攻撃のスキを突き、闇魔法を繰り出す。しかし、すぐにコピーのサナがフォローしてきて、攻撃は一向に当たらない。凄まじいコンビネーションだ。

 コピーの俺は、正直、魔法だけなら勝てる。しかし、それを補うかのような剣技。長年の研鑽けんさんが見て取れる。

 コピーのサナもとんでもない動きだ。サナ王女と決定的に違うのは身体能力。風魔法でブーストしているせいもあるだろうが、捉え切れない。左手を触手と化して攻撃しても、打撃も当たらなければ、捕縛するなど不可能だった。むしろ、右手でしか魔法を使えなくなる分、こっちが不利になる。

 そもそも、この二人には深い絆が感じられる。ちょっとしたアイコンタクトだけで驚くほど意思疎通が取れている。『ルーツ』と『サナ』に、これほどの可能性が……?

「ぬん!!」
 闇魔法だけでなく、複数属性の魔法を放つが、向こうも応戦してきた。魔法の連打に魔法の連打が返ってくる。合間に、ルーツが魔力の剣で斬りかかってくる。あの剣も謎だ。あんな武器が存在するとは。

 二人は背中合わせに立ち、片手を俺の方に突き出すと、それぞれの手から火魔法と氷魔法が渦を巻いて俺の方に飛んできた。

「何だ、それは!?」
 火と氷など、お互いを打ち消してしまう性質なのに、渦を巻いたそれらはお互いを干渉せず、威力を弱めずに向かってきた。着弾した場所は温度差の影響で、効果が倍増してしまうだろう。

 そこまで読んだ俺は、風魔法で跳び、彼らのふたりがけ魔法を避けた。追撃も予想し、さらにサイドステップでその場所を跳ぶ。予想通り、ルーツの一閃がその場所を襲っていた。

 強い! これまで闘ってきた誰よりも!

「うおお!」
 俺は叫びで自分を鼓舞し、サナの魔法を撃ち落とし、ルーツの剣戟をかわした。

 だが、それにしても苦戦しすぎだ。先ほどからの連戦で、俺が疲労しているのか?

 横目にバスティアンがサナ王女を抱えたのが見えた。正直、彼らが二人で何をしていたとしても、俺の最終目的とは全くの無関係だったのだ。だから、黙殺しても良いはずだった。何なら、最近はサナ王女の勘違いを利用してさえもいた。

 それなのに、サナ王女の言動に俺の心があれほど憤ったのは予想外だった。自分でも狂っていると思う俺の心にも、人間らしい部分が残っていたということだ。

 そうか、だからだ……。だから目の前の二人を攻撃する手に迷いが生じているんだ。この二人は否定できない! この二人を引き裂くような真似をしたら、俺もサナ王女やバスティアンと同じになってしまうではないか!

 実力が拮抗している以上、迷いは致命的だ。このままでは、負ける!

「オーデルグ!」
「旦那!」
 ヒルデとブラストが上空から飛び降りてきた。同志たちが用意した飛空艇から跳んだようだ。

「苦戦しているようね!」
「けど、こいつぁ一体どういうことだ? 旦那とサナ王女がもう一人いるぞ?」
「説明は後だ! 奴らを足止めしてくれ!」
「了解だ!」
「任せて!」
 頭が混乱している俺より、彼らが戦ってくれた方が万全だろう。俺はラグナロクの封印石の元に走り出した。

「待て!」
「おっと、行かせないぜ!」
 ルーツの声にブラストが反応したのが聞こえた。戦況は分からないが、彼らを信じるしかない。

 上空では飛空艇が何かを攻撃しているのが見えた。その先にはドラゴンが飛び回っている。あれも彼らの仲間か!

 急がねばならない。直感的にそう思い、俺は風魔法による高速移動を併用して祭壇に跳んだ。聖火に守られ、封印石が眠っていた。俺は左手を入れようとしたが、聖火の魔力で弾かれる。

「なめるなよ」
 左手に闇の魔力を帯びさせ、俺は左手を力でねじ込んだ。轟音と共に、聖火の守りが破れていく。そして最後には封印石に到達し、左手で掴んで取り出した。

「ヒルデ! ブラスト!」
 同志たちの名前を呼び、俺は武舞台の方を振り返る。見れば、ヒルデが転倒させられていた。ダメージを負ったようで、立ち上がれていない。

 ヒルデをもそこまで追い詰めるとは。俺は素直にコピー人間の二人を称賛する。そして、脱出のため、武舞台めがけて特大の闇魔法を放った。ルーツとサナが跳んで避ける中、ブラストがヒルデを担いで構わずにこちらに向かって走ってくる。彼らはこの魔法でダメージを負わないように、事前に呪文を刻んであるのだ。

 俺とヒルデ、ブラストの位置と、ルーツとサナの位置が明確に分かれる。俺は転移魔法陣を展開した。もう彼らの攻撃は間に合わない。

「これで全ての準備が整った! もうお前たちが何をしようと手遅れだ!」
 俺はルーツとサナに向けて叫んだ。

「オーデルグ!」
「待ちなさい!!」
 彼らの声を無視し、俺は転移魔法を発動させた。次に俺たちが立っていた場所は、飛空艇の甲板だった。

「離脱だ! 急げ!!」
「了解!!」
 俺は飛空艇の同志に声をかける。上空を飛んでいたあのドラゴンへの警戒も忘れない。ドラゴンには、二人、男女が乗っていた。しかし、こちらを深追いすることはなく、コロシアムに降りていった。

「……ふぅぅ。巻いたか」
「はぁ、はぁ。おい、旦那。そろそろ説明しろ」
「はぁ、はぁ。そうよ。もう一人いたオーデルグとサナ王女。普通の強さじゃなかったわよ」
 ブラストとヒルデが息を切らしたまま尋ねてきた。

「彼らは、破壊神トコヨニが創った、俺とサナ王女のコピー人間らしい」
「な、なんだそりゃ!?」
「そ、そんなことが!」
 俺はため息をついた。予想していなかった事態に驚いたのも影響しているだろうが、頭を整理しないといけない。

 しかし、この時の俺にはまだ、コピー人間の二人に抱いた感情の正体が分かっていなかった。
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