破壊神の終末救世記

シマフジ英

文字の大きさ
上 下
18 / 53

18 謎の魔道士(サナ王女視点)

しおりを挟む
 私はバスティアン、ジャック、リリィと共に第8層を走った。召喚魔法も温存できているから、破壊神の配下ともこのまま戦えるはずだ。

「リリィは、知っていたのか?」
「うん……」
 ジャックとリリィが言った。バスティアンとのこと、ジャックにも後でちゃんと説明しないといけない。

「ごめんなさいジャック。こんな時じゃなく、もっと早く言うべきだった」
「……後でしっかりと聞かせてほしい」
「ええ」
 そこで会話を打ち切り、私たちは走り続けた。

 一本道だというのに長い通路だ。マップは頭に入れてあるからこういう道があるのは知っていたが、これだけ走っても奥が見えないとは。

 しかし、徐々に私にも闇の魔力が感じ取れるようになってきた。他の皆も同じらしく、全員で走るのを止め、歩きに切り替えて静かに近づいた。

「バスティアン、どうする?」
「先手必勝だろう。召喚魔法の準備を」
「分かったわ」
 私はいつでも召喚魔法を発動できるように右手に魔力を込めた。

「ん、誰かいるぞ?」
「破壊神の配下?」
 ジャックとリリィが呟いた。確かに私たちの目の先には、緑がかった服を着た人間がいる。体格からすると男だ。しかし、闇の魔力は彼が発生源ではない。それはもっと前方だ。

「ようやくご到着か、サナ王女とその仲間たち。待ちくたびれたぜ」
 男は低くて通る声で話しかけてきた。振り返ったその顔には、戦いでついたと思われる古傷が多数あり、左目には眼帯をしている。

「何者だ……」
 バスティアンが剣に手をかける。封鎖しているはずのダンジョン内にいた怪しげな男だ。私にも警戒心が渦巻き、ジャックとリリィも武器を手にしている。

「反帝国同盟の一人、ブラスト」
「反帝国同盟だと!?」
「そんな人がどうしてここに!?」
「あれに用があってな」
 ブラストと名乗った男は、自分の後ろを親指で指した。私の目がブラストの前方を注視する。

「あ、あれは!?」
 私は思わず叫んだ。そこには魔物が倒れている。闇の魔力が漏れ出ているところを見ると、破壊神の配下に間違いなかった。

「お前が倒したのか?」
「いかにも。この俺一人に倒されるような弱い魔物だった」
「一人で倒した……!?」
 そんなはずはない。この魔物から溢れている魔力は明らかに先日の大悪魔ジャークゼンより遥かに上だ。それをたった一人で倒しただなんて!?

「破壊神に敵対しているということは、私たちと目的は同じなの?」
 リリィが言った。

「敵対ではないさ。俺たちは破壊神トコヨニの協力者だ」
「な!?」
「お前が!?」
「俺たちの存在は知っているらしいな。この魔物を倒したのは、力を吸収するためだ」
「力を吸収……?」
「既に創造神サカズエの使徒に倒されたことのある魔物など、また敗北するのが関の山だ。利用価値はない。しかし、その力を吸収して集めれば、より有用に使うことができる」
「そ、そんなことが!?」
「そもそも、どうして破壊神の味方などしているの?」
「どうして、か。それを説明する権限は俺には無いなぁ。どうします、旦那?」
 ブラストが魔物の方を見て声を上げた。

「え!?」
 先ほどまで誰もいなかった魔物の隣に人がいる。いつの間に現れたのか! 見れば、バスティアンも私と同じように驚愕の表情を浮かべていた。

 その人物は黒い外装を羽織っていて男か女かも分からない。右手に紫色の水晶を持っており、魔物に向かってかざすと、魔物が身体ごと吸収されてしまった。

「世界の破壊が目的だから。それだけで十分じゅうぶんではないか?」
 その声は雑音まみれだ。しかし音の低さから男であることは推測できる。こちらに振り返ると、外装のフードの中に黒いモヤが渦巻いており、顔を確認することもできなかった。

「くはは、違ぇねえ!」
 ブラストが豪快に笑うと、黒い外装の男がブラストの隣まで歩いてきた。

「私は魔道士オーデルグ」
 鳥肌が立つ。オーデルグと名乗ったこの男の魔力を肌で感じる。恐らくあの黒いモヤは闇の魔力だ。視認できるほどの強大な魔力。それは、この魔道士がかつてない強敵であることを意味している。

「なぜ、世界の破壊などと?」
 バスティアンが冷静な声で言う。だけど、それは緊張している時の声だ。バスティアンも相手の強さを感じ取っているんだ。

「動機まで語る必要はないな。知りたければ我々を拘束して尋問してみてはどうだ?」
「……破壊神の協力者というなら私たちの敵だ。そうせざるを得ないようだな」
「はっはっは、やめておいた方が良いぜ! オーデルグの旦那の強さは一級品だ。返り討ちに遭うだけだぞ!」
 ブラストのその言葉は、自分は手を出す必要がないという意味合いだった。

 舐められたものね!
 私はまず召喚魔法を使うべく、右手を前に突き出した。

「うっ!?」
 しかし、召喚魔法は発動しなかった。オーデルグの右手から放たれた闇魔法が私の右手に当たり、まとわりついた。右手に魔力を流そうとすると吸収されてしまう。

「これで君はしばらく右手で魔法は使えぬよ」
「このぉ!」
 私は左手に杖を持ち、火魔法を仕掛けた。それを開戦の合図とばかりに、バスティアンとジャックが距離を詰める。オーデルグは火魔法を弾き飛ばしたが、バスティアンとジャックの攻撃を避けなかった。そのまま二人の攻撃が当たる。

「なに!?」
「手応えがない!」
 二人の武器が突き刺さったオーデルグの身体は霧のように消えてしまった。

「反応が鈍いぞ」
 オーデルグはバスティアンとジャックの後ろに姿を現し、二人に両手を向けた。

「危ない!」
 リリィがオーデルグに魔法攻撃をする。私も一緒に火魔法を撃った。しかし私たちの魔法はオーデルグの背中でかき消されてしまった。オーデルグは意に介さず魔法を発動し、バスティアンとジャックが吹っ飛ばされる。

「ぐあっ!!」
「うわあっ!!」
「バスティアン!?」
「ジャック!?」
 私とリリィはたまらず声を上げた。

「前衛でも魔法への備えは必要だ。君たちにはそれが全く足りていないな」
 オーデルグは余裕の声色でバスティアンたちに向けて言った。そして、私たちの方に振り返る。

「さて、君たち魔道士の肉弾攻撃への備えはどうかな?」
 オーデルグは左手の拳を握ると、その左腕全体が大きな触手に変貌した。

「なっ!?」
「一体、どうやって!?」
 人とは思えないその現象に、私たちは驚きを隠せない。オーデルグは左手を振り抜いた。触手と化したその腕が伸び、私たちの右方向から迫ってくる。

 私は風魔法による大ジャンプでそれをかろうじて避けた。しかし、リリィには直撃してしまった。

「ぅあ!!」
 リリィの身体が吹っ飛ばされ、壁に激突する。

「リリィ!?」
「残るは君だけだぞ」
「くっ!?」
 触手による薙ぎ払いを、私は風魔法を使って何とか避ける。ダメだ、こんな防戦一方では! 疲弊したら避けきれない!

 攻撃だ、攻撃に転じるしかない! 次の攻撃を避ける時にオーデルグの方へ飛ぶ。そして攻撃魔法を仕掛けるんだ!

 オーデルグは再び触手を振り抜いてきた。それに合わせ、私は風魔法を発動した。しかし、薙ぎ払いが来ない。フェイントを入れられてしまった。慌てて別方向に飛んだが、オーデルグは待っていたかのように薙ぎ払いを繰り出した。触手が私の腹部に直撃する。

「がはっ!?」
 身体がそのまま地面に投げ出された。腹部に喰らった衝撃で息ができない。私が身体をピクピクと痙攣させることしかできなくなったところで、オーデルグが左腕を元に戻したのが見えた。

「けっ。まるで話にならねえな」
 見ていただけのブラストが呟いた。

「ここで君たちを殺すつもりはない。だが、この体たらくでは、今回の大戦は創造神サカズエの敗北だな」
 オーデルグはゆっくりとブラストの方へ歩き出した。

「ま、待って……」
「決してめられぬよ、君たちには。せいぜい世界の終わりまでに何をするか考えてみることだ」
 オーデルグがブラストの隣で右手を地面に向けると、二人の足音に魔法陣が出現した。そして、二人の身体が消えてしまった。

「て、転移……。そんなことまで……」
 私は倒れ込んだ。

 完敗だ……。ルーツとブルーニーがいないとはいえ、破壊神討伐チームの上位の実力者が揃ったこのメンバーであそこまで歯が立たないなんて。

 ついに姿を現した破壊神の協力者。破壊神の配下を吸収して新しい力に変えようとするその手口。そして、オーデルグと名乗ったあの魔道士の異常な強さ。

 今この場に倒れている私たちだけではなく、後に報告を受けるチームメンバーにも衝撃を与えることになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BLバージョンでお題短編を上げていきます。

ユタカ
BL
BL小説勉強のため短編お題で書いていきたいと思います。 ドンドン指摘していただければと思います!! 基本的にはお題メーカーでやりますがお題を受付もしますのでよろしくおねがいします。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

SS・短編 オメガバース

藍白
BL
・SSメリバ企画 プロポーズ ※シネタあり

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

処理中です...