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売られるβ、売るΩ

木下陸翔(Ω)

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「彼女達を人間扱いしてほしい、彼女らはあなた達と同じ人間だ」



姜宇長は何度もそう言った。



彼の言う人間扱いとは、陸翔達にとって「金のある人間扱い」という事だと、そう理解した。

言葉の意味は理解したが、そうしなければならない、という事については理解できなかった。金の無い人間を、なぜ金のある人間と同等に扱わねばならないのか。



人権は金のある人間にのみ与えられる。陸翔はΩの私生児として産まれたαが通常のΩ以上に悲惨な境遇で生きている事を知っている。

法的に罰せられないと規定されたαは、裏社会において圧倒的多数を占めるΩから忌み嫌われるからだ。彼らは裏社会にすら居場所が無く、多くはΩの性奴隷と化している。

かといってカタギの社会に居場所があるわけでも無い。太い実家、後ろ盾、権威の無いαはカタギ社会でもゴミ同然だからだ。

特権階級と呼ばれるαであっても、金が無ければ人権は与えられない。

金の無い人間は、人間ではない。それを人間扱いしろと言うのは、無理な話である。




自分もまた、金があるから人間として扱われている。失えば、再びゴミ同然の階級だ。人間としての階級を得るため、守るために多くのゴミ共を搾取してきたが罪悪感も後悔も無い。それが当たり前であり、当然の事として生きてきた。それ以外の価値観など思いつきもしない。



『じゃあお前は、自分が同じ目に遭っても、自分が騙されてもそれが正しい行為だったと言えるのか?』



――言えるさ。



栄維に問われた時、陸翔はあっさりそう答えた。

栄維の顔は今ではすっかり思い出せなくなっているのに、どんな表情をしていたかだけはよく覚えているのが不思議だった。



栄維——人生でたった一人、友達と呼べる関係を築けた相手だった。しかしその栄維の事も、陸翔は結局食い物にした。

自分には真っ当な人間関係は築けない、陸翔は栄維を思い出す度そう確信する。

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