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強盗団Ω VS 特権階級α

角田厳賀(Ω)

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角田厳賀は連れて来た尾道昇に運転させながら、スマホを取り出した。先ほど手足舌を切断したりして性奴隷用に改造した海老ケ瀬夫妻のものだ。

2人のLINEやメールをそれぞれ見ると、数名、グループLINEなどで比較的頻繁に連絡を取り合う人間がいる。

また、旅行等へ行く場合、徹も英子も義実家と実家共に連絡していた。



角田は彼らのLINEでの口調を観察し、それを真似て彼らの友人や実家へ「これからしばらく海外旅行へ行く」と伝えた。



次にスマホを探ると、双方共にインスタグラムを持っており定期的に更新している。内容はパーティーや旅行等だ。



角田達強盗団は、しばらくの間海外へ飛ぶ事にしている。これまでずっと警察に捕まらず済んでいたのは被害者がβばかりだったからだ。警察は被害者がα以外だとまともに動かない。

しかし今回はαを狙った。被害者は上手く処理したが、用心のために日本を離れた方が良いだろう。そして角田は逃亡先の海外で、あたかも海老ケ瀬夫妻が撮ったような写真を彼らのアカウントに載せて、アリバイを作るつもりだった。

海老ケ瀬夫妻のアカウントに映る写真は、どれも本人や本人の配偶者・友人・子供なんかが写っている。これを模倣するのは難しいが、4人分の食事や飲み物なんかを並べたりして誤魔化すしか無い。勘の良い人間は何か勘づくかもしれない。しかし、あの鈍い夫妻の友人、知人である。彼ら同様ボンクラばかりである事を願った。




Ωの父親と、彼がどこかで引っかけたαとの間に産まれた角田はどういう訳か人身売買や臓器密輸のために売られる事無く父の元で育った。父の顔を今では全く思い出せなくなったが、自分とよく似ていた事だけは覚えているので実の父である事は間違い無いだろう。

この国では義務教育である小中学校は無料である。そしてΩはΩ用の学校へ行く事になる。角田も小学校まではなんやかんや通っていた覚えがあるが、他の子供たち同様給食目当てであり、勉強らしい勉強をした覚えは無い。



給食費は無料ではなかったと思うが、あの父親が払っていたとは思えずまた、Ωの他の親も似たようなものだったろうと思う。

その状況は角田が大人になった現在も変わっておらず、βやαの一部がよくΩ家庭の給食費未納問題を取り上げ、Ωの学校では給食を出さないようすべきと声高に叫んでいるのだが、何しろαとβと言っても一部であり、また彼らは大規模なデモやロビー活動を行うでもなく、ただネットの匿名で文句を言っているだけなため、彼らの意見は未だ尊重される気配が無い。



角田の父親はなんの仕事をしているのかさっぱり分からない人物だった。不定期にぶらりと家を出ては何日も帰ってこないという風な事は日常茶飯事であり、その際息子が不自由無く暮らせるようにとの配慮も無く、冷蔵庫にはだいたいいつも水や酒類くらいしか無い。そのため、その頃の角田にとって給食はライフラインだった。



角田の父は息子に暴力を振るったり、暴言を吐いたりといった事はまあ無かったが、可愛がられていたわけでもなかった。父は息子に関心が無かったのだ。

二人は1LDKのアパートで暮らしていたのだが、角田は父とまともに会話した記憶が無い。食事は給食の他、万引き等で賄っており父はぶらりと出かけた先で一人済ませていたように思う。

角田は今でも、自分が赤ん坊の時に死ななかった事を不思議に思う。

それともあの父親は、息子が赤ん坊の時にはそれなりに甲斐甲斐しく世話をしたのだろうか。

そんな父はある日いつもの様にぶらりと出かけたきり、帰ってこなかった。角田が17歳の時である。



金無し、身寄り無し、学歴は小卒、未成年、おまけにΩの角田ができる仕事は限られていた。

客引きのバイトをしつつ、13歳頃から面倒を見てもらっていた先輩の部屋に居候していたのだが、その先輩からある日「割の良い仕事」の話を持ち掛けられた。強盗である。



現在この国では強盗は捕まれば5年以上、強盗致傷は6年以上、そして強盗殺人になれば無期懲役もしくは私刑である。

一般的に考えれば割に合わない方法だが、この時の角田にはそうではなかった。



やりがいの無い仕事による長時間の拘束、低い賃金、上司・先輩からの罵詈雑言や暴力――今の人生自体が牢獄に繋がれたようなものである。刑務所に一生入る事になったとして、そちらの方がマシである気がした。

因みに刑務所における待遇は、Ωもβもそしてαも変わらない。そして囚人の圧倒的多数を占めるのはΩだが、居心地の良さから軽犯罪を犯しては刑務所に舞い戻ろうとする累犯者が少なくなかった。



しかしやるからには、なるべく成功させ捕まらぬようにしたいものだ。角田は先輩に尋ねた。



「狙う相手はβですか?」



「当たり前だろ。αみたいなセキュリティ厳しい家にできるかよ。Ωは取るものが無い。」



「なら、やります。」



αと答えられていたら、かなり躊躇ったと思う。警察はα以外の被害について、まともに捜査をしない。話を聞き、形だけの捜査をして終了だ。なのでβであれば成功率は高くなる。



強盗実行役のメンバーは、角田と先輩を入れて4人。4人は実行数日前に顔を合わせた。

指示役とは、先輩も誰も顔を見た事が無いという。指示役はターゲットになる家の間取り図や金の在りか、家族構成、家人のスケジュール、予想される性格等を把握しており、実行役に電話で指示を出す。



指示役におんぶにだっこでは心もとない。何しろ計画が失敗した時、リスクを負うのは基本的に実行役のみである。実行役は誰も指示役の素性を知らないのだから、平気でトカゲの尻尾切りをするだろう。

その様な訳で、実行役メンバーは話し合い、とりあえず証拠を残さぬ様全員スキンヘッドにし体中の体毛を剃り上げた。薄手のゴム手袋を購入し、当日はこれを着用する。他、体調不良や汗などの体液を残さぬため実行前の飲食は厳禁とする。

そして発情期管理であるが、実行役メンバーは皆Ωであるため、珍しく抑制剤を飲む事とした。

また、指示役の情報を確かめるため水道点検などを装い現地を調査し、企業のアンケートを装った電話で情報を確かめた。



幸いというより、それ故にターゲットとされたのか、ターゲットの家はすぐ近くにコインパーキングがある。念には念を入れ、未だ発情期の来ていないメンバーを車で待機させ、残る三人で家へ向かった。



ターゲットの家は住宅街にあるように見えるが、実際は周囲に事務所や早くに閉まる店などが並んでいる。夜の9時、人通りは無く狭い通りなので車通りも無い。

ホームセキュリティに登録しておらず、監視カメラも置いていない事は確認済であった。



キャップを被り、マスクと眼鏡をかけたメンバーの一人がインターフォンを押した。

「○○急便ですけどー、お荷物お届けにあがりましたー」と宅配業者を装う。

間も無く足音が近づき、ガラガラと戸を開けた老女が顔を上げ驚く間も与えず目出し帽を被ったメンバー3人が中へ入り、戸を閉める。

角田は手袋をした手で老女の口を塞ぎ、両手を後ろ手に拘束した。先輩が用意していた猿轡を老女に装着し、両手を縛る。

拘束され、怯える様子の老女を連れて玄関を上がり部屋に顔を出すと、呑気にテレビを見ていた老女の夫らしき人物が振り返って角田達強盗団と拘束された妻を目にし、飛び上がらんばかりに驚愕した。



老女を拘束する角田以外の二人が彼女の夫を同じ様に拘束し、夫妻で並べる。テレビは点けたままだ。



その後は簡単なものだった。タンス預金を鞄に詰め、銀行の暗証番号を聞き出すと通帳・カードを奪い逃走。

収益の40%を実行役で山分けした。警察はろくに捜査しなかった様で、ニュースにもなっていない。



何度か繰り返し慣れてくると、指示役無しの自分達だけで計画し実行する事を考えるようになった。その方が取り分も多くなるからだ。そして何かを企画し、計画を練る作業というのは楽しく遣り甲斐もある。



4人が始めたのはいわゆるアポ電強盗である。まずターゲットの家に電話をかけ、息子なり役所の職員なりを装い金を用意させる。

その後、家に押しかけて金を強奪するのだ。云わばオレオレ詐欺の強盗版であり、これならターゲットを振り込みに誘導したり、受け子を雇ったりする手間が省けるのだ。

βの被害者に警察は見向きもしない。なので相変わらずニュースにもならず、捜査の手が伸びる事は無かった。

それでもβらが警察を反感を抱く事はまあ無い。βは往々にして奴隷根性が染みついており、権威に弱いからだ。国家権力である警察に反感を抱く事はあり得ないのである。

しかしもちろんターゲットの家族構成や家族仲、家族の職業、セキュリティ面のチェックは怠らなかった。



ある日、メンバーの一人が「αの家を強盗しないか」と持ち掛けた。

αの家はセキュリティが厳しく、また被害に遭った場合警察は甲斐甲斐しく動くものだから成功率が低くなる。

しかしそのメンバーには考えがあるらしかった。以前、オレオレ詐欺をしていた頃の同僚に松原というΩがおり彼は今闇金をやっている。

その松原によって1億の負債を抱えたαがいるのだ。その負債を返させるため、松原は彼に強盗させる事を思いついた。

その借金男のα――尾道昇というらしい――は旧財閥の御曹司であるが、財布の紐は妻に握られている。松原が昇の妻に詰め寄るか、強盗するかの選択を迫られ、昇は後者を選んだ。



「待てよ、αのそれも旧財閥の息子なら優秀な弁護士雇うだろうし、警察に訴えれば一発だろ。」



「松原は担保を握ってたんだよ、これだ。」



そう言って彼はスマホを取り出し、動画を流し始めた。その中では全裸の男が糞尿まみれになり、恍惚としながら喘いでいる。

この糞尿塗れの男が尾道昇だという。成る程、と納得した。



――α御曹司の協力者がいるなら上手くいくかもしれない。面白そうだ。



挑戦心、冒険心をくすぐられ一同は乗り気になり計画を立て始めた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『何だ』



一回のコール音で電話に出た中里は平坦な声で、相変わらず感情が読めない。



「買っていただきたいものがあるのですが…今から構いませんか?」




角田は電話を切ると満面の笑みを浮かべ、フロントガラスの向こうを見た。夜だというのに、街中は店や看板の光で煌々と活気立っている。横を見ると、昇はやつれた無表情で真っ直ぐ前を見、運転に集中する事で全てを忘れようとするかの如くだった。




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