フロイドの鍵

守 秀斗

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第22話:リリアンの栽培した花を品評会の会場に持って行く

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 ミルドレッドとアレックスの二人は北棟の部屋に戻ることにした。四階の部屋の前まで来て、扉を開けようとしたが開かない。アレックスが扉を叩いて、大声で叫ぶ。

「おい、ポーラ! 俺だよ、アレックスだ!」

 すると物を動かす音がする。扉をふさいでいたタンスを動かしているようだ。扉が開くと、ポーラがニコニコ顔でこちらを見上げた。

「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「何か、変な奴とか来なかったか」
「うん、誰も来なかったよ」

 リリアンも起きている。少し顔色がいいとミルドレッドは思った。

「誰も来なかったし、特に変な物音とかもしなかったわ。あんまり気にする必要はないんじゃないの」
「そうかあ。じゃあ、あれはただの追いはぎみたいな奴だったのかなあ」

 ミルドレッド本人も、そうかもしれないと思ったが、まだ油断は出来ないとも思った。そして、机の上にはお花が花瓶にいくつも飾られているのを見て、リリアンに言った。

「これはもしかして、明日の『お花品評会』に出品するものですか」
「そうよ、けっこうきれいに咲いたのよ」
「優勝できるといいですね」
「うん、実はけっこう自信があるの」

 そして、リリアンがアレックスに声をかけた。

「今から中庭のテントに持っていくのを手伝ってくれないかしら」
「ああ、いいよ」

 それを聞いたミルドレッドも花瓶運びを手伝うことにした。

「リリアンさん、私も手伝います」

 すると、ポーラもぴょんぴょん飛び跳ねてリリアンに言った。

「あたしも手伝う、仲間外れにしないで!」
「別に仲間外れにしないわ。じゃあ、全員で行きましょう」

 結局、四人でゼラニウムが咲いている花瓶を運んでいくことにした。部屋を出て、階段を下りて中庭に設営されたテントに持って行く。テントの中に入ると、すでに他の出品者の花もいくつか置いてあった。リリアンが申し込んだ番号の机の上にゼラニウムの花瓶を置く。すでに『リリアン・レイノルズ』と書かれた紙が貼ってあった。ミルドレッドは、正直に言うと、どのゼラニウムの花も似たような感じだなあと思った。そこで、リリアンに聞いた。

「お花の審査って、どんな感じで行われるんですか」
「専門家が行うのよ。地元の庭師さんね」
「あの、何だか他の方が持ってきたのを含めて、私には全部のお花がきれいに見えるんですけど。リリアンさんにはどれが優れていて、どれがダメってわかるんですか」

 ミルドレッドの疑問にリリアンがクスクスと笑う。

「私にもよく分からないわ。まあ、全体のバランスとかじゃないかしら。花と茎、葉がそれぞれきれいに育っていて、キズとかシミのないものが選ばれるんじゃないかしらね」

 そう言われて、リリアンの栽培したゼラニウムを見るとなんとなく一番きれいに見える。

「もしかしたら、リリアンさんのゼラニウムは優勝狙えるんじゃないでしょうか」
「そうなったら、嬉しいけど」

 ニコニコとしているリリアンを見て、やはりお花とか植物を育てている時が一番楽しそうだなとミルドレッドは思った。すると、そこに背の高い白髪頭の初老の男性が近づいてきた。さきほどのスプリングフィールド教授だ。

「アレックス君。君も花を出品するのか」
「ええ、リリアン姉さんが栽培したものですけど」

 リリアンが会釈する。スプリングフィールド教授がリリアンの栽培した花を見て言った。

「なかなかきれいに出来ているね。素晴らしいじゃないか」
「ありがとうございます」
「まあ、私は専門家じゃないので、実は花の事は全然わからないんだけどね」

 するとポーラがスプリングフィールド教授に向かって言った。

「なんだあ、わからないのに褒めるなんてお世辞ですか、教授」
「おい、ポーラ、失礼だろ。すみません、教授、妹が変な事を言って」

 アレックスが慌てて、ポーラを叱るが、しかし、スプリングフィールド教授は穏やかに笑っている。

「いや、これはまいったな。専門家でもないのに勝手に判断してはいけないよな。アレックス君の妹さんの言う通りだよ。すまん、すまん。まあ、私としては貧しい人たちが草花に対して愛情を注いで、それを慈しみ育てることは健康的な娯楽になるとも思っているんだ。それに、植物が部屋の空気の清浄化になるのは事実のようだし、地域の環境改善にもなる。そして、それがこの街の人々に健康や社会的な事に対する興味を持つことの重要性を喚起できると思ってるんだよ。まあ、ここに住んでいる人たちの心が少しでも癒されれば成功かなと思っているんだ」

 ミルドレッドはスプリングフィールド教授の言葉を聞いて、この先生は本気でこのスラム街を改善することを考えているんだなあと思った。そんなスプリングフィールド教授にアレックスが聞いている。

「教授も品評会に参加するんですよね」
「そうだな。私は審査はしないけどね。私の役目は主催者として、優勝者に賞状と賞金を渡すことなんだよ」
「午後の『お掃除コンテスト』はどうなんですか」
「そちらにも参加するよ。市長や何人かの市議会議員も連れてね。一応、貧民街について関心があるらしいな。市会議員が審査するんだよ。ちなみに、こちらは私も審査員なんだ」

 すると、ポーラが教授に聞いた。

「教授は掃除の専門家なんですか」
「おい、ポーラ、また失礼なことを言うなよ」

 アレックスが焦っているが、スプリングフィールド教授はにこやかに笑っている。

「あはは、いやあ、掃除の方も専門家じゃないな。でも、こちらは簡単だよ。きれいに清掃されて整理整頓されているか、してないかってこと。これなら、お花と違って私でも審査できるからね」

……………………………………………………

 お花を出品する作業が終わり、家に戻ったミルドレッドたちは、あらためて自分たちの家の掃除をすることにした。

「この前、ミルドレッドがけっこうきれいにしてくれたけど、もっときれいにして優勝を狙おうぜ」

 アレックスの呼びかけで、全員で部屋の掃除をする。そして、邪魔な物は例の時計塔の部屋に入れることにした。しかし、適当に入れているのでごちゃごちゃだ。

 そんな作業をしているアレックスにミルドレッドは聞いた。

「でも、もしこの時計塔の部屋が見られたら、まずいんじゃないかしら」
「いや、大丈夫じゃないかな。それに失格になっても、賞金がもらえないだけだから、そんだけの話だよ」

 だいぶ部屋がきれいになり、かなり整理整頓されてた。すっきりとした部屋になって、これなら優勝も狙えるのではともミルドレッドは思った。

 夕食は、フィッシュフライとポテト、それに野菜のスープ。四人で食べながら、リリアンが聞いてきた。

「結局、警察では、その『フロイドの鍵』についてはどう言ってたの、ミルドレッド」
「それが全然、興味持たないんですよ。意味無かったです」

 オブライエン警官とのやり取りをミルドレッドはリリアンに教えた。すると、リリアンが少し考えている。

「その犯罪組織を潰した頃に、フロイドが金塊を盗みだしたって、言われたのよね。確か、新聞にも載ったはず。そして、しばらくして、その『フロイドの鍵』の噂が広まったのよ。変よね。一応、怪盗フロイドさんはこの鍵については秘密にしていたと思うんだけど、なんで世間の人たちが知ったのかしら」

 リリアンの疑問にアレックスが答えた。

「新聞に載ったんで、想像たくましい人が勝手に捏造したかもしれないなあ」

 アレックスの言葉にそうかもしれないとミルドレッドは思った。しかし、では、なぜ自分は襲われたり、あのお婆さんが殺されたりしたんだろう。橋の上で殺された女性についても気になった。そして、思い付いた。

「あの、フロイドって人は、この貧民街のよくしたいと思ってたんじゃないかと思うんです。でも、金塊を配ったとしてもみんなが自分のために使うだけで終わってしまうから、どこかに隠したんじゃないかと思うんです。ただ、それがどこにあるかのヒントは残したいと思ったんじゃないかしら」
「それが、その『フロイドの鍵』なの? 泥棒がこの貧民街の改革したいって思うかしら」
「でも、今までのフロイドのしたことって、この貧民街を少しでもよくしたいって感じがするんですけど」

 リリアンがまた少し考えて言った。

「なんだか、怪盗フロイドさんって、スプリングフィールド教授の考えに似てるわ」

 すると、ポーラがびっくりする。

「え、スプリングフィールド教授って怪盗なの」
「違うわよ。もう、ポーラ、教授の前ではそのことを言わないでね」

 リリアンがやさしくポーラの頭を撫でながら諭しているが、実際のところ、フロイドのしたかったことはスプリングフィールド教授と同じではないかとミルドレッドは思った。

 夜になって、時計塔の部屋に登って中に入ると、ミルドレッドは横になる。時計塔の部屋は荷物でごちゃごちゃだが、部屋が狭くなった分、なんとなくいつもより暖かい感じがするとも思った。

 そして、今日のオブライエン警官の態度を思い出して嫌な気分になるとともに、あの記念写真が気になった。顔にキズのある男。オブライエンはあの男を首都の警官と言っていた。そうすると、自分を襲った人物と関係があるとは思えない。そして、犯罪組織から押収した金塊がなくなってしまったことは確からしい。ただ、フロイド一人ではとても金の延べ板を何百本も盗めないだろうとも言っていた。オブライエンが言っていた通り犯罪組織が盗んだことになる。フロイドは関係ない。そうすると、この『フロイドの鍵』とはいったいなんなんだろうとまたミルドレッドは思ってしまった。
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