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第4話:留置場から逃げる
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天井から聞こえてきたのは、アレックスの声だ。ミルドレッドはそっと留置場の鉄格子から廊下をのぞく。留置場が並んでいる前の廊下。その薄暗い廊下の端っこに鉄柵の扉があり、その外側に太った牢番が椅子に座っているが頭を下に向けて全く動かない。どうも居眠りをしているようだ。ミルドレッドはアレックスに小声で教えた。
「牢番の人、眠っちゃっているみたい」
「わかった。ちょっと待ってろ」
ノコギリが少しずつ排気口の周囲を切っていく。ある程度切るとゆっくりと排気口の蓋が外れた。すると、蓋が下に落下する。思わず、ミルドレッドがそれを床に落ちる前に手でつかんだが、倒れこんで少し音を立ててしまった。
気づかれたかとミルドレッドは再び鉄格子から廊下の端っこの牢番を見た。しかし、依然として居眠りをしている。他の留置場にいる連中も特に騒ぎ立てたりはしない。ミルドレッドがほっとしていると、天井の穴からロープが降りてきたが、所々結んである。アレックスが、またミルドレッドに囁いた。
「ミルドレッド、そのロープの結び目に掴まるんだ」
ミルドレッドがロープに必死でしがみつくと、ゆっくりと体が上がって行った。アレックスがロープを引っ張ってる。アレックスはかなりの力持ちだなとミルドレッドは感心した。煙突掃除を生業にしているからかなとも思った。どうにか、天井に開いた穴から留置場の天井裏に出るとけっこう広い空間があった。アレックスは帽子を被り、マフラーを首に巻いている。
「アレックス、助けてくれてありがとう」
「静かに! お礼は後でいいよ。今は逃げるのが先だ」
アレックスは小さい携帯ランプを点けて、小声で言った。
「あっちに俺が入ってきた排気口の出口があるんだ」
「ここって、留置場にしてはなんか妙な建物ね。やたら天井が高くて、おまけに排気口もついてるし」
「そうなんだよ。どうも本来は留置場じゃないみたいなんだよ」
留置場の上を音を立てないように、携帯ランプで足元を照らしながら慎重に歩いていく。縦長の建物だとミルドレッドは思った。そして、かいばの匂いがしてきた。何となく馬がいるような雰囲気がしてくる。
「ここの建物って馬車の倉庫も兼ねているのかしら」
「そうみたいだね。留置場と壁を仕切って、警察専用の馬車が置いてあるようだ」
しばらく歩くと、側面に点検口みたいな四角い扉があった。そこを開けて、アレックスがロープを柱に巻いて外に垂らした。先にアレックスがロープを掴みながらスルスルと降りる。ミルドレッドも続いて、ロープの結び目を頼りになんとか地上へ降りた。
留置場の建物から出られたが、外は寒い。ミルドレッドはコートも警察に取り上げられて、上着はジャケットだけだ。路上はガス灯の光が所々灯っている。この国は大気汚染がひどく、工場からの排煙と入り交じった黒い霧のせいで昼間なのに明かりをつけなければ歩けない日もあるというのに、今夜はけっこう先の方まで見通しがきく。もし、逃げ出したのがバレたらすぐに捕まるかもしれない。ミルドレッドはアレックスから帽子とマフラーを渡された。
「お前は顔が目立つから、それで隠せ……あ、ごめん……」
ミルドレッドにそう言った後、アレックスが少し気まずい顔をした。アザのことかなとミルドレッドは思ったが、今は助けてくれただけでもありがたい。
「ううん、別に全然、気にしないでいいわ」
留置場の建物の側の路上を二人で走る。警察署から送られる時に渡った橋の方へ向かう。その橋の下の川岸に降りると下水道の排水口があり、そこにアレックスが入った。排水口の横に側道が両側に設置されている。
「アレックス、下水道に入ってどうするの」
「俺の住んでいる貧民街まで下水道がつながっているんだよ。下水道の中へ鉄くずとか探しに入ってうろうろしているうちに、この周辺の内部に詳しくなったんだ」
アレックスが照らす携帯ランプを頼りに下水道の側道を歩く。マフラーで顔を覆ってもひどい臭いだ。ただ、下水道の中は外の寒さよりはやや温かい。
「それにしても、どうやってあたしのいる留置場の場所がわかったの」
「あの牢番からうまく聞き出したんだよ。差し入れする時にね。それで、ミルドレッドは一番奥の部屋に一人で居るってわかったんだ。それに、俺もあの留置場に入ったことがあるんだよ。酔っ払いの男と足を踏んだ踏まないってつまらないケンカでさ。結局、一晩であの留置場から追い出されたけどね」
アレックスが携帯ランプで先を照らした。レンガ造りの道が続いているが、下水道の壁が所々崩れている。崩れたレンガが下水溝に落ちたせいで下水が溜まって、流れが悪いような場所もあった。アレックスがミルドレッドの方に振り返って注意を促した。
「この下水道、あちこち崩れているところがあるから注意してくれよ。上から落ちてきたレンガが当たってケガした人もいるぞ」
ミルドレッドはアレックスの後に続きながら、恐る恐る天井も気をつけて見ながら歩く。貧民街へ向かうにしたがって、下水道がどんどん狭くなっていくような気がしてきた。すると側道を猫のような動物が走ってきた。
「キャ!」
思わず悲鳴をあげるミルドレッド。その動物はあっという間に通り過ぎて行った。
「牢番の人、眠っちゃっているみたい」
「わかった。ちょっと待ってろ」
ノコギリが少しずつ排気口の周囲を切っていく。ある程度切るとゆっくりと排気口の蓋が外れた。すると、蓋が下に落下する。思わず、ミルドレッドがそれを床に落ちる前に手でつかんだが、倒れこんで少し音を立ててしまった。
気づかれたかとミルドレッドは再び鉄格子から廊下の端っこの牢番を見た。しかし、依然として居眠りをしている。他の留置場にいる連中も特に騒ぎ立てたりはしない。ミルドレッドがほっとしていると、天井の穴からロープが降りてきたが、所々結んである。アレックスが、またミルドレッドに囁いた。
「ミルドレッド、そのロープの結び目に掴まるんだ」
ミルドレッドがロープに必死でしがみつくと、ゆっくりと体が上がって行った。アレックスがロープを引っ張ってる。アレックスはかなりの力持ちだなとミルドレッドは感心した。煙突掃除を生業にしているからかなとも思った。どうにか、天井に開いた穴から留置場の天井裏に出るとけっこう広い空間があった。アレックスは帽子を被り、マフラーを首に巻いている。
「アレックス、助けてくれてありがとう」
「静かに! お礼は後でいいよ。今は逃げるのが先だ」
アレックスは小さい携帯ランプを点けて、小声で言った。
「あっちに俺が入ってきた排気口の出口があるんだ」
「ここって、留置場にしてはなんか妙な建物ね。やたら天井が高くて、おまけに排気口もついてるし」
「そうなんだよ。どうも本来は留置場じゃないみたいなんだよ」
留置場の上を音を立てないように、携帯ランプで足元を照らしながら慎重に歩いていく。縦長の建物だとミルドレッドは思った。そして、かいばの匂いがしてきた。何となく馬がいるような雰囲気がしてくる。
「ここの建物って馬車の倉庫も兼ねているのかしら」
「そうみたいだね。留置場と壁を仕切って、警察専用の馬車が置いてあるようだ」
しばらく歩くと、側面に点検口みたいな四角い扉があった。そこを開けて、アレックスがロープを柱に巻いて外に垂らした。先にアレックスがロープを掴みながらスルスルと降りる。ミルドレッドも続いて、ロープの結び目を頼りになんとか地上へ降りた。
留置場の建物から出られたが、外は寒い。ミルドレッドはコートも警察に取り上げられて、上着はジャケットだけだ。路上はガス灯の光が所々灯っている。この国は大気汚染がひどく、工場からの排煙と入り交じった黒い霧のせいで昼間なのに明かりをつけなければ歩けない日もあるというのに、今夜はけっこう先の方まで見通しがきく。もし、逃げ出したのがバレたらすぐに捕まるかもしれない。ミルドレッドはアレックスから帽子とマフラーを渡された。
「お前は顔が目立つから、それで隠せ……あ、ごめん……」
ミルドレッドにそう言った後、アレックスが少し気まずい顔をした。アザのことかなとミルドレッドは思ったが、今は助けてくれただけでもありがたい。
「ううん、別に全然、気にしないでいいわ」
留置場の建物の側の路上を二人で走る。警察署から送られる時に渡った橋の方へ向かう。その橋の下の川岸に降りると下水道の排水口があり、そこにアレックスが入った。排水口の横に側道が両側に設置されている。
「アレックス、下水道に入ってどうするの」
「俺の住んでいる貧民街まで下水道がつながっているんだよ。下水道の中へ鉄くずとか探しに入ってうろうろしているうちに、この周辺の内部に詳しくなったんだ」
アレックスが照らす携帯ランプを頼りに下水道の側道を歩く。マフラーで顔を覆ってもひどい臭いだ。ただ、下水道の中は外の寒さよりはやや温かい。
「それにしても、どうやってあたしのいる留置場の場所がわかったの」
「あの牢番からうまく聞き出したんだよ。差し入れする時にね。それで、ミルドレッドは一番奥の部屋に一人で居るってわかったんだ。それに、俺もあの留置場に入ったことがあるんだよ。酔っ払いの男と足を踏んだ踏まないってつまらないケンカでさ。結局、一晩であの留置場から追い出されたけどね」
アレックスが携帯ランプで先を照らした。レンガ造りの道が続いているが、下水道の壁が所々崩れている。崩れたレンガが下水溝に落ちたせいで下水が溜まって、流れが悪いような場所もあった。アレックスがミルドレッドの方に振り返って注意を促した。
「この下水道、あちこち崩れているところがあるから注意してくれよ。上から落ちてきたレンガが当たってケガした人もいるぞ」
ミルドレッドはアレックスの後に続きながら、恐る恐る天井も気をつけて見ながら歩く。貧民街へ向かうにしたがって、下水道がどんどん狭くなっていくような気がしてきた。すると側道を猫のような動物が走ってきた。
「キャ!」
思わず悲鳴をあげるミルドレッド。その動物はあっという間に通り過ぎて行った。
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