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第12話:スパイの件
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ポール様は私の部屋に入ると、アラン様からいただいた鏡を見て驚いている。
「おいおい、これ俺の家に代々伝わる貴重な鏡だぞ、何でフランソワーズの部屋にあるの」
「あの、私がアラン様に鏡が欲しいと言ったら、この部屋に運ばれてきたんです」
そして、私はさきほどの恥ずかしい姿をまた思い浮かべてしまう。
全裸でオナニー。
まったくもって、みっともなく恥ずかしいところを見られてしまった。
ヴァネッサ様の前でオナニーをやらされたことはあるけど、あれはアラン様のご命令だし、夜のご奉仕の一環として、私としては仕方なくしたってことだけどなあ。
けど、今回の鏡に自分の全裸を映してオナニーしてたこと。
アラン様がいないので、我慢できなくなり、自ら気持ち良くなりたくてしてしまった。
はしたない女、いやらしい女だなあ。
それを見られてしまった、ポール様に。
私は落ち込んでしまった。
情けないったら、ありゃしないわ。
「これ、かなり貴重な鏡なんだけどなあ。と言うかこれはすごい鏡だぞ。この前、君に教えたじゃないか。この鏡に映ったら人間でも何を考えているのか分かるんだよ、俺のようなそういう能力を持っている吸血鬼には」
そんなに貴重な鏡だったの。
そんな鏡を、私のような者がいただいていいのかしら。
「ほら、この前、言ったじゃん。俺が相手の吸血鬼が何を考えているのかわかるのは俺より低位の吸血鬼だけってさあ。人間についてはどんな奴でも何を考えているか全く読めないって。けど、この鏡に映っている間は、その人間が何を考えているのかわかるんだなあ。但し、一瞬の間くらいだけど。兄貴はそのことを忘れたのかなあ」
え、じゃあ、今、私、鏡に映っているけど、今し方、思い浮かべた全裸でオナニーをしていたことは、ポール様に筒抜けなわけなの。
すると、ポール様が鏡の下の方を見る。
私のあそこから噴き出した、はしたない液で濡れている。
再び、顔を真っ赤にする私。
私はもう恥ずかしくて、目を瞑って頭を下げて言った。
「……あの、本当にとんでもなくはしたないところを見せてしまって申し訳ありません……すみませんでした。それに貴重な鏡を汚してしまいました……本当に申し訳ありません、お許しくださいませ、ポール様」
「いやあ、気にしないでいいんじゃない、これは兄貴が君にあげたんだからさ。兄貴は、この鏡は大して役に立たないと思ったんじゃないのかなあ、あはは」
気にするなって言われても、女がこそこそと秘かに鏡に自分の裸を映して、オナニーしているのを見られちゃった。
こんなに恥ずかしくて、みっともなくて、情けない姿もないわ。
「あ、あの、申し訳ありません、ポール様。私、すごく恥ずかしくて、その、どうか、このことは誰にも言わないでください……お願いいたします……」
「ああ、わかってる、誰にも言わないよ。と言うか、もう忘れたよ、すっかり俺の記憶からは消えたよ、あはは! 気にすんな、フランソワーズ!」
しかし、何とも気まずくなる私、ああ、恥ずかしい!
私はさりげなく鏡に映らない場所に移動する。
そして、またポール様が気づかれた。
私の小机の上の薔薇の花を眺めている。
「あれ、この薔薇の花って見たことあるぞ。確か、兄貴がお妃様のヴァネッサ姉貴に贈ったものじゃないか、これもなんでフランソワーズの部屋にあるの」
どうしよう、本当のことを言おうかしら。
ポール様なら大丈夫かな。
「あの、秘密にしてくれますでしょうか」
「ああ、いいけど」
「薔薇が余っていると理由でいただいたんですけど、本当はアラン様がヴァネッサ様に、その薔薇の花を私に譲るようご命令したようなんです」
「余ってるどころか、これ大変貴重なもんだけどなあ。貴族しか持てないものだけど。それをフランソワーズに譲れって、兄貴は本当に君にぞっこんなんだ。相当、惚れているんだなあ」
ポール様の言葉を聞いて、やはりアラン様は私のことが好きなのかしらと思って胸がドキドキしてきた。ああ、本人に聞いてみたいけど、それは出来ない。けど、本当に嬉しくなってしまう私。浮かれてしまいそうになるのを我慢する。
「おっと、鏡や薔薇の話じゃないや。フランソワーズ、聞きたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょうか」
「例の別荘での事件のことさ。兄貴の暗殺未遂の時の話だよ。ちょっと報告書を再度読んでみたら気になるところがあってさあ」
急にまた、私の心から嬉しさとかそういう感情が薄れてしまった。
私が思い出すのは、吊り橋から落ちていくクロードの絶叫。
一生、忘れることのない悲鳴。
幼馴染の仲間を見捨てた卑怯な女。
「あの時、兄貴はコンスタンツァ海岸近くの別荘にいたんだけどさ、それを知っていたのはごくわずかな者だけなんだ。俺も知らなかったよ。仕事中毒の兄貴をなんとか休ませようと別荘で休養を取るよう周りの者たちがうるさくいったらしい。それで兄貴は仕方なく別荘に行ったんだけど、現地の領主とかの接待が嫌でお忍びで行ったんだ。それもほんの二泊三日の予定だったらしい。周りはせめて一週間は休んでほしかったようだけどね。そのわずかな期間に君たち人間の暗殺部隊が襲撃に来たんだけど」
アラン様暗殺計画か。
あの頃の私は正義感に燃えていた。
極悪非道の吸血鬼王によって、支配された国。
人間たちは毎日、全身の血を吸われたり、遊び半分で拷問にかけられて虫けらのように殺されてひどい目に遭っていると教えられていた。
その吸血鬼を倒すという使命感に私は気持ちを高ぶらせてもいた。
しかし、そんなことは全くなく、この国の人間たちは平和に暮らしていた。
実際に、捕まった後、私をこの国の隅々まで自由に見学させてくれた。
自分は騙されていたということに、私はすっかり意気消沈してしまった。
そんな私に対して、アラン様は非常にやさしくしてくれたなあ。
そして、今はすっかりアラン様の虜になった。
もう、アラン様のためなら死んでもいい。
何かあったら、アラン様の盾になっても守るつもり。
けど、そんな勇気が、今の私に残っているだろうか。
いざとなったら、また真っ先に逃げ出すんじゃないだろうか。
この卑怯者の女は。
仲間のクロードを見捨てた最低女のくせに。
ぼんやりとそんなことを考えていると、ポール様に聞かれた。
「おい、どうしたんだよ、フランソワーズ。調子悪いのかい」
「あ、いえ、すみません、大丈夫です。それで私に聞きたい事とは何でしょうか」
「うん、それで、君たち人間の暗殺部隊はどうやってそのことを知ったんだよ。兄貴が別荘に滞在してるなんて」
「はい、確か最初は国内を視察している途中か、吸血鬼城に帰る時を狙うって話でした。ただ、隊長から急に作戦が変更になったと連絡がきました」
「それ、兄貴を襲撃するどれくらい前なんだ」
「二日前です。アラン様はわずかな護衛しかついてないって情報もありました」
ポール様が首を捻っている。
「うーん、こっちのほとんどの者が知らないことを、君たちは誰かに知らされた。要するにこの城にはスパイがいるってことなんだよなあ。実は今夜もなんでわざわざ、こっそりと君の部屋に来たのは、そのスパイには知られたくなかったからさ」
「けど、お忍びとは言え、アラン様のお顔は誰でも知っているので、地元の人はすぐにわかったんじゃないでしょうか」
「そうなんだよなあ。なんせ例の国王が乗る馬車で別荘の近くまで向かったらしいから、誰にもわかると言えばわかっちゃうんだよなあ。兄貴もお忍びなら、もっと普通の馬車で行けよなあ」
「あの、ところで誰がアラン様が別荘にいくのをご存知だったんでしょうか」
「嫁さんのヴァネッサ様と国王警備隊長のマクシミリアンだよ。マクシミリアンは一緒に別荘にも行ったんだ」
ヴァネッサ様かあ、確かにかなりアラン様とは仲が悪そうだけど、さすがに人間を使って暗殺なんてしないだろうなあと私は思った。マクシミリアン様も警備隊長がアラン様を狙う必要はないだろうなあと考えていたら、ポール様が妙なことを言い出した。
「マクシミリアンがちょっと怪しいんだよなあ」
「え、マクシミリアン様が」
「君はマクシミリアンに捕まったんだよなあ」
「は、はい、そうです……」
そして、捕まった後、恐怖のあまりアラン様や吸血鬼の警備隊員たちの前で盛大に失禁。
その場で、さんざん笑い者にされた。
いまだに思い出すと情けなくなる。
「君は別荘から脱出して、吊り橋を渡り切ったはずって聞いているけど。そしたらマクシミリアンが目の前にいたようだが」
「はい、そして剣を交えたんですが、あっさりと負けて捕まりました」
「何で、常に国王の側にいなきゃいけない警備隊長が別荘から離れた場所にいるんだよ」
「さあ、私にはわかりません……」
「それに君を殺さなかったね」
「あの、私を捕まえて暗殺部隊の情報を知りたかったようです。ただ、私は下っ端だったんで、いろいろと尋問を受けたんですが、何もお教えできることがなかったんです。マクシミリアン様はがっかりされてました」
「じゃあ、君が知っている情報は二日前に急に兄貴暗殺の指令が下されたってことだけかな」
「そうですね」
「そうか、わかった。悪かったね、フランソワーズ、こんな夜遅くに」
そう言って、ポール様は部屋の扉を開ける。
そして、私に振り返って言った。
「実は君を疑っていた時もあったんだけどね。けど、疑いは今夜晴れたよ」
「え、どうしてですか」
「てっきり、この吸血鬼城の情報を知るためのスパイとして、兄貴好みの女性をどうにかして調べて送り込んだ可能性もあるなあと思ってなあ」
そうか、やたら私に話しかけてくると思っていたんだけど、スパイじゃないかと疑いを持っておられたのか、ポール様は。ヘラヘラといい加減な振りしてけっこう切れ者かもしれないなあと私は思った。
「あの、それでなんで今夜、私の疑いが晴れたんですか」
「そりゃ、スパイが兄貴の名前を呼びながら、『愛してる!』って叫んで鏡の前で裸でオナニーなんてしないじゃない。それにその鏡に映っていたから、演技とかじゃなくて君が心底、兄貴の事を愛しているっていう思いが、一瞬、俺の頭に伝わってきたのさって……えーと、あはは、いや、このことはもう忘れるからさ。じゃあね、フランソワーズ」
そそくさと部屋を出るポール様。
ああ、忘れるっておっしゃったけど、絶対に忘れないだろうなあ。
暗くて狭い部屋で鏡で自分の裸を見ながら、寂しくオナニーをしていた情けない女。
やっぱり恥ずかしい!
「おいおい、これ俺の家に代々伝わる貴重な鏡だぞ、何でフランソワーズの部屋にあるの」
「あの、私がアラン様に鏡が欲しいと言ったら、この部屋に運ばれてきたんです」
そして、私はさきほどの恥ずかしい姿をまた思い浮かべてしまう。
全裸でオナニー。
まったくもって、みっともなく恥ずかしいところを見られてしまった。
ヴァネッサ様の前でオナニーをやらされたことはあるけど、あれはアラン様のご命令だし、夜のご奉仕の一環として、私としては仕方なくしたってことだけどなあ。
けど、今回の鏡に自分の全裸を映してオナニーしてたこと。
アラン様がいないので、我慢できなくなり、自ら気持ち良くなりたくてしてしまった。
はしたない女、いやらしい女だなあ。
それを見られてしまった、ポール様に。
私は落ち込んでしまった。
情けないったら、ありゃしないわ。
「これ、かなり貴重な鏡なんだけどなあ。と言うかこれはすごい鏡だぞ。この前、君に教えたじゃないか。この鏡に映ったら人間でも何を考えているのか分かるんだよ、俺のようなそういう能力を持っている吸血鬼には」
そんなに貴重な鏡だったの。
そんな鏡を、私のような者がいただいていいのかしら。
「ほら、この前、言ったじゃん。俺が相手の吸血鬼が何を考えているのかわかるのは俺より低位の吸血鬼だけってさあ。人間についてはどんな奴でも何を考えているか全く読めないって。けど、この鏡に映っている間は、その人間が何を考えているのかわかるんだなあ。但し、一瞬の間くらいだけど。兄貴はそのことを忘れたのかなあ」
え、じゃあ、今、私、鏡に映っているけど、今し方、思い浮かべた全裸でオナニーをしていたことは、ポール様に筒抜けなわけなの。
すると、ポール様が鏡の下の方を見る。
私のあそこから噴き出した、はしたない液で濡れている。
再び、顔を真っ赤にする私。
私はもう恥ずかしくて、目を瞑って頭を下げて言った。
「……あの、本当にとんでもなくはしたないところを見せてしまって申し訳ありません……すみませんでした。それに貴重な鏡を汚してしまいました……本当に申し訳ありません、お許しくださいませ、ポール様」
「いやあ、気にしないでいいんじゃない、これは兄貴が君にあげたんだからさ。兄貴は、この鏡は大して役に立たないと思ったんじゃないのかなあ、あはは」
気にするなって言われても、女がこそこそと秘かに鏡に自分の裸を映して、オナニーしているのを見られちゃった。
こんなに恥ずかしくて、みっともなくて、情けない姿もないわ。
「あ、あの、申し訳ありません、ポール様。私、すごく恥ずかしくて、その、どうか、このことは誰にも言わないでください……お願いいたします……」
「ああ、わかってる、誰にも言わないよ。と言うか、もう忘れたよ、すっかり俺の記憶からは消えたよ、あはは! 気にすんな、フランソワーズ!」
しかし、何とも気まずくなる私、ああ、恥ずかしい!
私はさりげなく鏡に映らない場所に移動する。
そして、またポール様が気づかれた。
私の小机の上の薔薇の花を眺めている。
「あれ、この薔薇の花って見たことあるぞ。確か、兄貴がお妃様のヴァネッサ姉貴に贈ったものじゃないか、これもなんでフランソワーズの部屋にあるの」
どうしよう、本当のことを言おうかしら。
ポール様なら大丈夫かな。
「あの、秘密にしてくれますでしょうか」
「ああ、いいけど」
「薔薇が余っていると理由でいただいたんですけど、本当はアラン様がヴァネッサ様に、その薔薇の花を私に譲るようご命令したようなんです」
「余ってるどころか、これ大変貴重なもんだけどなあ。貴族しか持てないものだけど。それをフランソワーズに譲れって、兄貴は本当に君にぞっこんなんだ。相当、惚れているんだなあ」
ポール様の言葉を聞いて、やはりアラン様は私のことが好きなのかしらと思って胸がドキドキしてきた。ああ、本人に聞いてみたいけど、それは出来ない。けど、本当に嬉しくなってしまう私。浮かれてしまいそうになるのを我慢する。
「おっと、鏡や薔薇の話じゃないや。フランソワーズ、聞きたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょうか」
「例の別荘での事件のことさ。兄貴の暗殺未遂の時の話だよ。ちょっと報告書を再度読んでみたら気になるところがあってさあ」
急にまた、私の心から嬉しさとかそういう感情が薄れてしまった。
私が思い出すのは、吊り橋から落ちていくクロードの絶叫。
一生、忘れることのない悲鳴。
幼馴染の仲間を見捨てた卑怯な女。
「あの時、兄貴はコンスタンツァ海岸近くの別荘にいたんだけどさ、それを知っていたのはごくわずかな者だけなんだ。俺も知らなかったよ。仕事中毒の兄貴をなんとか休ませようと別荘で休養を取るよう周りの者たちがうるさくいったらしい。それで兄貴は仕方なく別荘に行ったんだけど、現地の領主とかの接待が嫌でお忍びで行ったんだ。それもほんの二泊三日の予定だったらしい。周りはせめて一週間は休んでほしかったようだけどね。そのわずかな期間に君たち人間の暗殺部隊が襲撃に来たんだけど」
アラン様暗殺計画か。
あの頃の私は正義感に燃えていた。
極悪非道の吸血鬼王によって、支配された国。
人間たちは毎日、全身の血を吸われたり、遊び半分で拷問にかけられて虫けらのように殺されてひどい目に遭っていると教えられていた。
その吸血鬼を倒すという使命感に私は気持ちを高ぶらせてもいた。
しかし、そんなことは全くなく、この国の人間たちは平和に暮らしていた。
実際に、捕まった後、私をこの国の隅々まで自由に見学させてくれた。
自分は騙されていたということに、私はすっかり意気消沈してしまった。
そんな私に対して、アラン様は非常にやさしくしてくれたなあ。
そして、今はすっかりアラン様の虜になった。
もう、アラン様のためなら死んでもいい。
何かあったら、アラン様の盾になっても守るつもり。
けど、そんな勇気が、今の私に残っているだろうか。
いざとなったら、また真っ先に逃げ出すんじゃないだろうか。
この卑怯者の女は。
仲間のクロードを見捨てた最低女のくせに。
ぼんやりとそんなことを考えていると、ポール様に聞かれた。
「おい、どうしたんだよ、フランソワーズ。調子悪いのかい」
「あ、いえ、すみません、大丈夫です。それで私に聞きたい事とは何でしょうか」
「うん、それで、君たち人間の暗殺部隊はどうやってそのことを知ったんだよ。兄貴が別荘に滞在してるなんて」
「はい、確か最初は国内を視察している途中か、吸血鬼城に帰る時を狙うって話でした。ただ、隊長から急に作戦が変更になったと連絡がきました」
「それ、兄貴を襲撃するどれくらい前なんだ」
「二日前です。アラン様はわずかな護衛しかついてないって情報もありました」
ポール様が首を捻っている。
「うーん、こっちのほとんどの者が知らないことを、君たちは誰かに知らされた。要するにこの城にはスパイがいるってことなんだよなあ。実は今夜もなんでわざわざ、こっそりと君の部屋に来たのは、そのスパイには知られたくなかったからさ」
「けど、お忍びとは言え、アラン様のお顔は誰でも知っているので、地元の人はすぐにわかったんじゃないでしょうか」
「そうなんだよなあ。なんせ例の国王が乗る馬車で別荘の近くまで向かったらしいから、誰にもわかると言えばわかっちゃうんだよなあ。兄貴もお忍びなら、もっと普通の馬車で行けよなあ」
「あの、ところで誰がアラン様が別荘にいくのをご存知だったんでしょうか」
「嫁さんのヴァネッサ様と国王警備隊長のマクシミリアンだよ。マクシミリアンは一緒に別荘にも行ったんだ」
ヴァネッサ様かあ、確かにかなりアラン様とは仲が悪そうだけど、さすがに人間を使って暗殺なんてしないだろうなあと私は思った。マクシミリアン様も警備隊長がアラン様を狙う必要はないだろうなあと考えていたら、ポール様が妙なことを言い出した。
「マクシミリアンがちょっと怪しいんだよなあ」
「え、マクシミリアン様が」
「君はマクシミリアンに捕まったんだよなあ」
「は、はい、そうです……」
そして、捕まった後、恐怖のあまりアラン様や吸血鬼の警備隊員たちの前で盛大に失禁。
その場で、さんざん笑い者にされた。
いまだに思い出すと情けなくなる。
「君は別荘から脱出して、吊り橋を渡り切ったはずって聞いているけど。そしたらマクシミリアンが目の前にいたようだが」
「はい、そして剣を交えたんですが、あっさりと負けて捕まりました」
「何で、常に国王の側にいなきゃいけない警備隊長が別荘から離れた場所にいるんだよ」
「さあ、私にはわかりません……」
「それに君を殺さなかったね」
「あの、私を捕まえて暗殺部隊の情報を知りたかったようです。ただ、私は下っ端だったんで、いろいろと尋問を受けたんですが、何もお教えできることがなかったんです。マクシミリアン様はがっかりされてました」
「じゃあ、君が知っている情報は二日前に急に兄貴暗殺の指令が下されたってことだけかな」
「そうですね」
「そうか、わかった。悪かったね、フランソワーズ、こんな夜遅くに」
そう言って、ポール様は部屋の扉を開ける。
そして、私に振り返って言った。
「実は君を疑っていた時もあったんだけどね。けど、疑いは今夜晴れたよ」
「え、どうしてですか」
「てっきり、この吸血鬼城の情報を知るためのスパイとして、兄貴好みの女性をどうにかして調べて送り込んだ可能性もあるなあと思ってなあ」
そうか、やたら私に話しかけてくると思っていたんだけど、スパイじゃないかと疑いを持っておられたのか、ポール様は。ヘラヘラといい加減な振りしてけっこう切れ者かもしれないなあと私は思った。
「あの、それでなんで今夜、私の疑いが晴れたんですか」
「そりゃ、スパイが兄貴の名前を呼びながら、『愛してる!』って叫んで鏡の前で裸でオナニーなんてしないじゃない。それにその鏡に映っていたから、演技とかじゃなくて君が心底、兄貴の事を愛しているっていう思いが、一瞬、俺の頭に伝わってきたのさって……えーと、あはは、いや、このことはもう忘れるからさ。じゃあね、フランソワーズ」
そそくさと部屋を出るポール様。
ああ、忘れるっておっしゃったけど、絶対に忘れないだろうなあ。
暗くて狭い部屋で鏡で自分の裸を見ながら、寂しくオナニーをしていた情けない女。
やっぱり恥ずかしい!
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