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Pr.24 本当のことは誰にも分からない
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それから順調に文化祭準備は進んでいく。看板を作り、ポスターを作り、メニュー表を作り。そしてクラスの1人が家に材料があるからって調理担当全員分のエプロンと色違いのレジ担当のエプロンを作ってきた。さすがに俺たちは驚いたが、ありがたくつかわせていただくことにした。
「じゃあ残る問題は調理だな。どーするよ?」
「本当にどうやって教えるかだよね。家庭科室貸しきれたらいいんだけど、難しいだろうし。」
現時点でたこ焼きを作れるとしても、それはほんの数人だけ。調理担当全員ができる訳では無いし、味にもバラツキが出てしまう。
そんな話を俺たちはたこ焼きを焼きながらやっていた。ひとまず俺の作り方で焼き上がるまで何分くらいかかるか試してみているのだ。
「1回目は長くなりそうね。それにかたちも焼き上がりもイマイチ。」
「そりゃあ、鉄板が温まってないからな。焼くのにも時間かかる。」
俺の焼いたたこ焼きを渡月が口の中に入れる。ほふほふと言いながら丸々一個1口で食べてしまった渡月は泣きそうな目をしていた。
「口の中火傷した。」
舌をべっと出してアピールする渡月。ほんの少し赤く染まった舌が見えるも、俺はすぐに視線を外し、冷たいお茶を入れたグラスを渡した。
「ありがと。美味しいね、これ。」
「そりゃあよかった。でも、普通のたこ焼きだぞ?」
「出汁から作ってる時点で普通じゃないって。」
そう。俺のたこ焼きは出汁から自分で作っている。そうすることで味に深みが出るし、より美味しくなるのだ。
第1弾が焼き終わったので、俺は自分の分を食べる。今日も悪くない味だ。
「でも、コストちょっとやばくない?出汁とるのちょっとお金かかるでしょ?」
「出汁とったあと粉末にしといたらあとから使えるけど、それはしたことないからな。明日もたこ焼きでいいなら1回やってみるか?」
「そうしよ。」
皿に盛ったたこ焼きをとりあえず食べ終わって、第2弾を焼き始める。2回目は若干早く焼き上がるので、ここからがちゃんとしたデータになる。
「私の知ってるたこ焼きだ!」
「いわゆる揚げ焼きってやつだろ?チェーン店はこういうのが多い。明石焼になるともうちょっとベチョってしてて、それも美味いんだがたこ焼きとは認めたくない。」
「変な大阪人のプライドだ!」
たこ焼きと明石焼は全くの別物だ。そもそも食べ方が違うし、味も違う。たこ焼きという名前で出そうと言っている以上、大阪のたこ焼きにしたい。
「じゃあソースをかけて…」
「待った!次は塩にしよう。塩もなかなか乙な味がするから。」
焼きあがったたこ焼きを皿にのせるとすぐにソースをかけようとする渡月を止める。そして調味料のところから岩塩を持ってきた。
「それ使ってるの見た事ない。」
「普通の料理では使わないからな。」
たこ焼きにガリガリと削ってかける。そして渡月はさっきとは変わって半分だけ食べた。
「美味しい。美味しいよ!橘くん!」
「そりゃあよかった。俺もこっちの方が好きなんだ。」
俺も塩をかけて食べる。口の中に広がる塩味とたこ焼きの甘味がマッチしていて美味しい。やっぱりこれが1番の食べ方だ。
そして残った生地で第3弾を作り、空いているスペースで余ったタコを使った素揚げを作る。
「余ったタコってそうやるんだ。」
「今パッと思いついただけだ。だいたいいつも余らないし、余ったとしてもやることはアヒージョの中に入れるくらい。」
「アヒージョ!」
「どうした?」
アヒージョという言葉に渡月は反応する。どうも食べたそうだ。
「食べたいのか?」
「いや、別にいいけど久しく食べてないなって。」
「それなら今度作るか。」
「いいの?」
「いいぞ。」
俺は二つ返事で了承する。別にアヒージョくらい、材料さえあればいつでも作れるからいいのだ。
第3弾も塩で食べ、そしてタコの素揚げも塩をつけて食べた。
「めちゃくちゃおつまみの味がする。」
「確かにビールが欲しくなるな。」
「飲んでないよね?」
「飲んでるわけないだろ。俺ん家の冷蔵庫の中わかってるくせに。」
「想像だ想像」と付け足して、笑っている渡月に言う。
こうして2人の時間を過ごすことも増えてきた。口実としては、文化祭のことの相談だが、実際はただ単に俺ん家で一緒に飯を食ってるだけ。変な勘ぐりをされないようにお弁当だけは各々で用意しているが、晩飯はそんな心配がないので俺たちは一緒に食べているのだ。
「ねえ、本当に私お金払わなくていいの?」
「なんで?」
「だっていつも作ってもらってるし。」
食べ終わって皿を洗いながら渡月がそう言う。
「いいんだよ。渡月はそのまんまでリラックスしてたら。」
本当は俺の寂しさを渡月が埋めてくれている。それだけで俺の心は少しずつ満たされていっている。それが、叶華が教えてくれた料理であっても、渡月が食べてくれることで、心が軽くなっていく。だからお代はいらないんだ。
でもそのことは絶対に渡月には言えない。だから、本当のことは誰にも分からない。
「じゃあ残る問題は調理だな。どーするよ?」
「本当にどうやって教えるかだよね。家庭科室貸しきれたらいいんだけど、難しいだろうし。」
現時点でたこ焼きを作れるとしても、それはほんの数人だけ。調理担当全員ができる訳では無いし、味にもバラツキが出てしまう。
そんな話を俺たちはたこ焼きを焼きながらやっていた。ひとまず俺の作り方で焼き上がるまで何分くらいかかるか試してみているのだ。
「1回目は長くなりそうね。それにかたちも焼き上がりもイマイチ。」
「そりゃあ、鉄板が温まってないからな。焼くのにも時間かかる。」
俺の焼いたたこ焼きを渡月が口の中に入れる。ほふほふと言いながら丸々一個1口で食べてしまった渡月は泣きそうな目をしていた。
「口の中火傷した。」
舌をべっと出してアピールする渡月。ほんの少し赤く染まった舌が見えるも、俺はすぐに視線を外し、冷たいお茶を入れたグラスを渡した。
「ありがと。美味しいね、これ。」
「そりゃあよかった。でも、普通のたこ焼きだぞ?」
「出汁から作ってる時点で普通じゃないって。」
そう。俺のたこ焼きは出汁から自分で作っている。そうすることで味に深みが出るし、より美味しくなるのだ。
第1弾が焼き終わったので、俺は自分の分を食べる。今日も悪くない味だ。
「でも、コストちょっとやばくない?出汁とるのちょっとお金かかるでしょ?」
「出汁とったあと粉末にしといたらあとから使えるけど、それはしたことないからな。明日もたこ焼きでいいなら1回やってみるか?」
「そうしよ。」
皿に盛ったたこ焼きをとりあえず食べ終わって、第2弾を焼き始める。2回目は若干早く焼き上がるので、ここからがちゃんとしたデータになる。
「私の知ってるたこ焼きだ!」
「いわゆる揚げ焼きってやつだろ?チェーン店はこういうのが多い。明石焼になるともうちょっとベチョってしてて、それも美味いんだがたこ焼きとは認めたくない。」
「変な大阪人のプライドだ!」
たこ焼きと明石焼は全くの別物だ。そもそも食べ方が違うし、味も違う。たこ焼きという名前で出そうと言っている以上、大阪のたこ焼きにしたい。
「じゃあソースをかけて…」
「待った!次は塩にしよう。塩もなかなか乙な味がするから。」
焼きあがったたこ焼きを皿にのせるとすぐにソースをかけようとする渡月を止める。そして調味料のところから岩塩を持ってきた。
「それ使ってるの見た事ない。」
「普通の料理では使わないからな。」
たこ焼きにガリガリと削ってかける。そして渡月はさっきとは変わって半分だけ食べた。
「美味しい。美味しいよ!橘くん!」
「そりゃあよかった。俺もこっちの方が好きなんだ。」
俺も塩をかけて食べる。口の中に広がる塩味とたこ焼きの甘味がマッチしていて美味しい。やっぱりこれが1番の食べ方だ。
そして残った生地で第3弾を作り、空いているスペースで余ったタコを使った素揚げを作る。
「余ったタコってそうやるんだ。」
「今パッと思いついただけだ。だいたいいつも余らないし、余ったとしてもやることはアヒージョの中に入れるくらい。」
「アヒージョ!」
「どうした?」
アヒージョという言葉に渡月は反応する。どうも食べたそうだ。
「食べたいのか?」
「いや、別にいいけど久しく食べてないなって。」
「それなら今度作るか。」
「いいの?」
「いいぞ。」
俺は二つ返事で了承する。別にアヒージョくらい、材料さえあればいつでも作れるからいいのだ。
第3弾も塩で食べ、そしてタコの素揚げも塩をつけて食べた。
「めちゃくちゃおつまみの味がする。」
「確かにビールが欲しくなるな。」
「飲んでないよね?」
「飲んでるわけないだろ。俺ん家の冷蔵庫の中わかってるくせに。」
「想像だ想像」と付け足して、笑っている渡月に言う。
こうして2人の時間を過ごすことも増えてきた。口実としては、文化祭のことの相談だが、実際はただ単に俺ん家で一緒に飯を食ってるだけ。変な勘ぐりをされないようにお弁当だけは各々で用意しているが、晩飯はそんな心配がないので俺たちは一緒に食べているのだ。
「ねえ、本当に私お金払わなくていいの?」
「なんで?」
「だっていつも作ってもらってるし。」
食べ終わって皿を洗いながら渡月がそう言う。
「いいんだよ。渡月はそのまんまでリラックスしてたら。」
本当は俺の寂しさを渡月が埋めてくれている。それだけで俺の心は少しずつ満たされていっている。それが、叶華が教えてくれた料理であっても、渡月が食べてくれることで、心が軽くなっていく。だからお代はいらないんだ。
でもそのことは絶対に渡月には言えない。だから、本当のことは誰にも分からない。
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