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Pr.23 陰キャには荷が重いことが多い

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 新学期が始まって最初にやってくるのは文化祭だ。

 最初のLHRでその委員を決めることになり、そういうのは関係ないと、俺は自習をしていた。3学期の分の予習だ。ここまで始めていると、もう授業を受けても受けなくても変わらないくらいにはなれる。

 だから気づかなかったのだ。渡月の思惑に。

「なんで俺が文化祭委員にならないといけないんだよ。」
「だって橘くんと何かするのって面白そうじゃん。じゃあやってみよっかなって。」
「俺の意見は。」
「話聞いてない人の意見なんて参考になりません!」

ぷんすかと怒ったような表情を見せながら、一度とってくれた休憩時間に渡月と話す。

 俺は文化祭委員になってしまった。文化祭委員はクラスの出し物を決めたり、作業の指揮をしたりする役目。そんな役目になってしまったのだ。

「それで次の授業で出し物決めると。」
「そゆこと。喋るのは私がやるから、黒板に書いたりするのよろしくね。」
「分かった。」

そしてまたLHRが始まる。

 どうせ学校のルールの範疇に収まったものしかできないのだから、大したことも出来ないだろう。少しくらいなら攻められるかもしれないが、それもあまり行き過ぎると弾かれる。

「じゃあやりたいものあったら手あげて!」

渡月が率先してクラスのやつらに話しかけ、それに応えるようにぞろぞろと手があがる。けど、所詮は高校生の脳みそで考えることばかり、面白くなさそうだったり、できないことだったり。どちらにしてもやりたくないことばかりだ。

「とりあえずまずできることとできないことを分けたほうがいいんじゃないか?生徒会にやりたいって言ったとて、それが学校的にアウトならできないだろ。」

俺は渡月にそう言って、黒板に向かう。実を言うと、案を聞いてからすぐに自分の中で分類をして、場所を分けて書いていたのだ。

「それなら左側のやつ全部無理じゃない?全部作るの時間かかるから。」

そんな意見がクラスの中で出始め、どんどん削られていく。そして、最終的に残ったのは3つだけ。たこせんと焼きそば、そしてたこ焼きだ。

「この3つならできないこともないか。なんかめちゃくちゃ普通。」
「これくらい他のクラスでも考えてきそうだから何か別の特徴作った方がよくない?」
「それなら、色んな味作って中身は分からないようにして出すとか?」
「それならいけるかも。」

さすがそこそこ頭のいい学校なだけあって、アイデアはすぐに出てくる。とりあえず第一希望をとることにした。

 多数決の結果、決まったのはやはりたこ焼き。別クラスと違う特徴を作りやすいものに決まった。

「じゃあ、中身決めていこっか。何がいい?」

渡月がそう呼びかけると、たこはもちろん、ウインナーとか、チーズとか、色んな味が案として出てくる。10個ほど出たところで一旦締め切り、何種類にするか聞いてみた。

「5個ぐらい?それなら混ざりやすいだろうし。」
「10作るための材料を集めるのがしんどい。」
「3ぐらいならお客さんも楽しめそう。」

とかこれにも色んな意見が出てくる。これじゃあキリがない。

「これも多数決にしたら?そしたら1番上手くまとまりそうだし。」
「そだね。じゃあ多数決とるから何個がいいか手挙げて!」

渡月が俺とクラスメイトとの仲介役のような感じになっているが、どんな形であれまとまればいい。会議とはそういうものだ。

 結局4種類作ることになり、さっき出した10個の案から4つを選ぶことに。これも多数決だ。

「1人2回手挙げて!」

1つずつ渡月が聞いていき、俺がその集計をする。決まったのは普通のたこ、ウインナー、チーズ、そして具なしだ。これが当たってしまった人は損になるかもしれないが、それなりに生地が美味しかったら成立する。つまり、生地から手作りしないといけないし、手間がかかる。

 そんな味に挑戦することになったのは、クラスに大阪出身のやつが何人かいたからだ。大阪人だからたこ焼きを作れるというのは安直な考えだが、本人たちが作れると意気込んでいたので、そんな味になった。

 ということで決まった日の放課後、俺と渡月は生徒会室に用紙の提出に向かった。

「今日はありがとね。助かった。」
「いや、俺がしたのは意見だけで、それを実行に移したのは紛れもない渡月だ。」

すっかり誰もいなくなった廊下。グラウンドから金属音と声が聞こえてくる道を歩きながら、そんなことを話す。

「あとさ、私気づいてたよ。ちょっと前に。」
「何を?」
「橘くんが大阪出身ってこと。」

この学校があるのは埼玉。それも南の方だ。東京から近いこの学校には、都内からはもちろん、地方からも多くの生徒が来ている。

「本当に、渡月はなんでも分かるんだな。」

俺はそう呟く。その声も渡月は聞き逃さなくて、俺の前にぴょんと跳ねて立つ。

「そそ。私天才だから。」

ニカッと笑ったその顔は、いつにも増して輝いて見えた。そしてどこか遠い存在のような気がした。俺からも、俺の感情からも。
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