上 下
21 / 24

Pr.21 陰キャの友達は心配する

しおりを挟む
 これは元から決まっていたことだ。だからしょうがない。しょうがないとは分かっているが、やはりどこか落ち着かなくて。

「橘くん、どうしたの?」
「元から決まってたことだからいいんだけどさ、まさか被るとはな。」

今日はトモとオフで会うことになっている。俺の家で。

「別に外でも良かったんだけどよ、トモが俺ん家来たいって言うから。」
「私隠れてよっか?」
「いやいい。」

多分「どこだー!」って叫びやがるから。

 なんて考えているとインターホンが鳴った。

「はいはい。」

こうして顔を合わせるのは初めてになる。俺はドアを開いて、その顔を見た。そこには原野航と瓜二つな青年が立っていた。

「よっ、トモでいいんだよな?」
「こうして会うのは初めてだな。悠人。」

トモは俺に笑いかけた。

 トモを中に入れると、その光景に驚愕していた。

 渡月はまぁ、可愛い部類に入ると思う。そんな奴が俺の部屋のリビングで、ダボダボのTシャツとショートパンツだけで、パタパタと足を動かしているのだ。

「悠人。集合。」
「うーい。」

集合がかけられて、俺は部屋の中に案内する。パソコンと勉強道具に溢れた部屋で男2人。向かい合って座った。

「どこから聞いたらいいんだ?」
「どこでも。」

困ったような表情を見せながらトモは腕を組む。こうなることは予測していたが、トモならいいかと思っていた。

「じゃ、まず。お前ら付き合ってるのか?」
「いや。普通のクラスメイトだ。」
「普通の…じゃない気もするが、そこは置いておこう。あの格好、完全にここに住んでるよな?そのことに関して教えてくれ。」
「それは私から話すわ。」

渡月は俺の部屋に入ってきた。バンと扉を開け、少しいつもよりも真剣な顔つきになる。

 その瞬間、トモは俺の後ろに隠れた。忘れていたが、こいつは陰キャでコミュ障なのだ。

「渡月。トモが怖がってるから、もうちょっと抑えろ。」
「それはごめん。それで、原野くん。だよね?」

渡月はさっきとはうってかわって、柔らかい口調に変わり、トモに話しかける。苗字が「原野」と認識したのは、うちの学校のトップ、原野航と瓜二つだからだろう。

「そ、そうです。」

トモは俺の後ろで完全に縮こまっている。こいつは絶対人と話せないタイプの陰キャだなと確信した。

「私がこの家にいるのはね、エアコンが壊れたからなの。」
「…なるほど、そういう事でしたか。じゃあこいつを頼るのは納得ですね。」

渡月のその言葉だけで状況を全て察したトモ。全国模試でも上位に入ってくる脳は、こんなところでも発揮されるようだ。

「そうそう。絶対に手出してこないって自信あるから。」
「ヘタレだし。」
「偏屈だし。」
「そんでもって理屈っぽいし。」

2人は俺をディスりながら少しずつ仲良くなっていく。そして握手した。

「渡月さんだっけ?学校ではこのバカの手網をよろしくお願いします。」
「任されました。」
「おーい渡月?授業ノート誰が見せてやってるか忘れるなよ。」
「すみません。それに関しては本当にありがとうございます。」

渡月が頭を下げるから、緩い胸元からその中が見えそうになって、俺たちは目を逸らす。

「なあなあ、渡月さんってずっとこんな感じ?」
「あぁ、そうだ。」
「お疲れ様です。」
「それはどーも。」

トモと俺は笑いあって、そして部屋を出た。

 時間は12時前。もうすぐ昼飯だ。

「昼作るけど、トモ食いたいものあるか?」
「特になし。なんでもいいよ。」
「OK。」

俺はキッチンに立ち、冷蔵庫に残っている冷凍餃子を焼き始める。その間も渡月とトモは俺の保護者トークで盛り上がっていた。

「渡月。」
「あ、はい。すみません。今日の夜は精一杯お手伝いさせていただきます。」
「よろしい。」

どうせ若干喋りすぎているであろう渡月に釘を刺し、焼きあがった餃子を綺麗に盛り付ける。そしてタレとかを準備してテーブルに置いた。

「はーい、出来たどー。」
「ありがと。」
「お前料理できるんだな。すげーや。」
「いや、これくらい焼くだけだから簡単だぞ。若干1名これでも失敗するやつはいるけど。」

誰とは言わないが、俺はそいつの方を見る。向こうも誰のことを言っているのか分かっているので、こっちを睨んでいた。

「へぇー、イメージと違うな。」

トモははっきり言ってしまい、渡月からの恨みの籠った視線がそっちに移動する。こればかりは俺も擁護しきれない。

 4人前近く焼いた餃子は、食べ盛りの俺たちの腹に吸い込まれ、お皿が綺麗になった。

「「「ごちそうさまでした!」」」

 その後も3人で談笑して、気づけばもう夕方。元々俺たちはオフで会ってゲームしかする気がなかったが、渡月のおかげだろうか、ずっと喋っていた。

「んじゃ、俺帰るわ。」
「そうか。」

トモは持ってきたショルダーバッグを肩にかけ、そして玄関の方に歩いていく。渡月と2人でついて行き、トモは玄関を開けた。

「あっ、そうだ。」

トモは何かを思い出したように俺の方に来る。

「(ちゃんとつけるんだぞ。)」

耳元でそう囁き、トモは笑って出ていった。

 俺は、次の試合でボコボコにしてやろうと決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...