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Pr.6 友達とは何かを陽キャも知らない

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Pr.6 友達とは何かを陽キャも知らない
 橘くんを追いかけて私は教室を出る。その姿を何人もの人に見られたけど、それとこれとは話が違った。

 自慢ではないけど、私には仲のいい人が多い。が、それは友達と言えるのか、それは分からない。ただ昼ごはんを一緒に食べたり、放課後一緒に帰ったり、休みの日に一緒に遊んだり。そんなことはしょっちゅうしている。そのおかげでお金は底をつきそうだが。

 でも、その誰もが友達と言えるか分からない。明確に友達と言える人なんかいないし、言われたこともない。腹を割って話しているつもりでも、心のどこかに隠れている自分がいて、それを吐き出すことなんて出来ない。

 そもそも友達って何なのだろうか?

 私はそんなことを毎日考えながら過ごしていた。みんなと喋って、笑って、励まし合って、そんな毎日を過ごしていた。

 それでもやはり分からない。結局友達ってものは青春の1ページ、いや1つの主菜にかけるスパイスであって、それがどんな味をして、後々どう残っていくのかは分からない。だから、友達と言える存在が必要かどうかすら悩んでいた。

 本心を言い合える人が友達なのか?それとも、相手の弱い所を分かった上で、互いを分かり合える人が友達なのか?何気ないことに一喜一憂して、日々を過ごしていける仲間が友達なのか?

 本当の友達なんているのだろうか?

 そんな中で彼に出会った。橘悠人。最初の頃はパッとしないなと思っていたけど、だんだんとその生き方が私に影響し始めた。

 誰とも話さない。表情すら変えない。目立たないようにいつも真ん中ぐらいにいて、そんでもって休み時間は空気に変わっている。口を開くのは授業で当てられた時くらい。昼休みになればふらっとどこかに消え、いつの間にか戻ってきている。放課後はいつの間にか消え、教室を出て探すも、もう気配すらない。そんな男子だ。

 運が良かったのか、そんな彼は私の前の席で、少し観察出来た。その中で見つけたのだ。変わらない表情の中に色んな感情が混ざっているのを。私たちが近くで話していたら少し嫌な顔をするし、ゲームの話とかを始めたら少し反応する。

 それで分かったんだ。自分からは話しかけられないんだって。でも、誰かと話したいんだって。私と同じで弱い心を持った一人の人間なんだって。

 だから私から話しかけることにした。するとどうだ。無視してくるじゃないか。

 さすがの私も少しムカついた。いつもなら私が話しかけたら、少ししどろもどろになりながらもみんな喋ってくれるのに、この男は喋ろうともしない。ただ手元のラノベに目を向け、私の事なんか気にもしてくれない。気づいてはいるのに。

 だからだ。私は彼となら友達になれるんじゃないかと思った。何も隠さずに話せるんじゃないかと思った。

「ねぇ、橘くん。ちょっとぐらいは話聞いてよ。」

スタスタと歩く彼の影を踏みながら、駅に向かう道を歩く。本当にこいつは止まる気がないらしい。視線はずっと手元のラノベで、近づいてきた人は、その音だけを頼りに避けている。なら、私の声も聞こえているはずでは?

 つまり、彼は知らないフリをしているのだ。私に話しかけられているのは知っているのに、無視しているのだ。

「そんな態度だから、私は君に話しかけるようになったんだよ。」

彼は足を止めた。私が言ったことが本心だと分かっているからだろう。彼は本心しか知りたくないんだ。心の奥底深くに隠した闇でもなんでもいい。それを見たいんだ。

 少し共感した。私と同じなんだと。

 でも、本心だけで会話するなんて恥ずかしい。いつかはボロを出してしまうし、相手を傷つけるかもしれない。だから、本当の心を隠して、偽りの仮面を被って、『渡月ちはや』というキャラを作り上げた。

 また歩き始めた彼を呼び止めるには本心しかない。本心を言うしかない。

「私ね、君の生き方がカッコいいと思った。君のような生き方をしている人の考えていることを知りたいと思った。」

傍から見ていたらお世辞にしか聞こえないような言葉の羅列。それも全部本心だ。

 恥ずかしがりながら彼の顔を見上げる。そこには冷たい、なんの光も映していない、漆黒の瞳があった。

「それで?」

彼はそう言う。凍えるような冷たい口調。それでも私は嬉しかった。初めて自分から会話を繋いでくれたのだ。

 幸いにも周りに生徒はいない。誰にも聞かれることはないだろう。

「私は本心を見せる。だから君の本心を知りたい。それで、友達とは何かを知りたい。」

私は本心を言った。何も包み隠さず、自分の心の奥底深くで思っていることを全部言った。

「君の言う『友達』とは、その他大勢に俺を含むということか?」
「違う。みんなは『みんな』であって『友達』ではない。私は君と友達になりたい。」

まっすぐ彼を見据える。漆黒のその瞳には、何にも期待していないという意思が見え隠れしている。でも、そんな目、私が絶対に変えてみせる。友達になって、私がその目に光を宿らせる。

「好きにしろ。」

彼はそう言い捨てて、また歩き始めた。

「(今の俺に関わっていたら、君という存在の価値が下がってしまう。だから関わらないでほしい。どうか。)」

そんな彼のつぶやきは聞こえずに、私はまた話しかける。

「何か言ってた?」
「何も。」

 今日は記念日にしよう。橘くんと初めて話せた記念日。そして、私が私になる、私として生まれ変わる。そんな記念日。
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