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ノンビリ

one flame⑮

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「どうしたん?」
「ん?」

気付けば久志のペンを動かす手が止まっていた。ぼーっとしていて、やっている英語も頭に入ってきていない感じだ。

「熱?」
「それはないと思う。寒気もせーへんし。」
「じゃあなんか心配事?」
「まあ、そんなところかな。」

やっている英文を見せてくる。その内容は『人が死んだとき』って内容だ。

 英文をやっているとたまにある話だ。普段は自分から遠い話ばかりなのに、いきなり自分のすぐ隣にやってくる、そんな英文。

「死んだらって思うとなんかな。そんなに物残せたかなって。」
「逆に何か残せる人って少ないやろ。」

私だって何か残せる気がしない。なんの気なくのほほんと生きていて、そしていつか死んでいく。

 人生の意義ってなんなんだろう。夢を叶えること?そんなのほんのひと握りの人しか掴めないことだ。私の周りにも何人かいるけど、その幸せそうな姿は羨ましい。

「でも、確かなことならあるで。」
「何?」
「今、めっちゃ幸せ。」

目の前の久志を見てそう言う。こんな生活ができるのもほんのひと握りの人だけなんだろう。高校生の頃から好きな人と生活できるなんて、私自身二次元でしか見たことがなかった。

 けど、現実に起こった。私の身に。

「死ぬときとかそんなん考えずにさ、目の前の幸せを一つ一つ積み重ねていったらそれでいいんちゃう?」
「そうか、そうやな。」

久志は何かに気づいたように、またペンを動かし始める。その顔はちょっとかっこよくて、ほんのちょっとだけ頼りない。

「ねぇ、久志。今、幸せ?」

私はそう聞いてみた。単純にその言葉が聞きたかっただけなのかもしれない。でも、それくらいの我儘たまにはいいよね。

「もちろん、桜といれて幸せやで。」

そう言って久志は優しく笑う。

 いつかは一緒にいられなくなる相手。

 近づきたくても近づきすぎちゃいけない相手。

 気づいたらそばにいる相手。

 まるで夢みたいだけどこれは現実で、もう二度と感じられないような感覚をくれた相手。

 んじゃ、他の人はどう?って聞かれたらきっと答えるだろう。

 あの人以外ありえないと。

 理由はない。ただ、

 学校に行く理由をくれた人。それだけ。

 ともに生きたいと思える人。それだけ。

 上手くは言えない。けど、簡潔にまとめるなら。好きな人。それだけ。
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