上 下
608 / 739
インタイ

いんたい⑰

しおりを挟む
 3日間の戦いが終わった。結果として俺たちは学校単位での表彰はなかったが、それでもいい結果になった。

「終わったな。」
「うん。終わった。」

家に帰ってきて、いつものように楓も一緒で、そして、ソファーにダイブする。クラブバッグから取り出したのはメッセージが書かれたセーム。全員から一言ずつって考えていたけど、思ったよりもみんな書いてくれている。

「なぁ、俺ってさ、この水泳部に何か残せたよな。」
「それって、記録?記憶?」
「もちろん記憶。」
「ん~、記憶ならいっぱい残ってるんちゃう?キャラ濃いし。誰よりも応援してたし。」

セームを握りしめながら、俺は仰向けになった。

「俺ってさ、水泳選手としてはめっちゃ弱くて、それでもこうやって3年間続けてきた。けど、いつまで経っても速くなんかならんくて、何度も折れそうになった。でも…」

みんなの一言一言、全く違うメッセージが心に刺さる。

「こうやって俺を励ましてくれるみんながいたから、やってこれた。その恩返しってできたんかな?」

引退して、水泳選手じゃなくなった俺だから思うこと。

 そんな俺の上に、楓は座った。

「少なくともさ、私の記憶には残ってるよ。奏が頑張ってきた姿。最後こそベストは出なかったけど、ゴールデンウィークから7秒も伸ばしてんで。それは、奏の頑張りや。」
「うん。そうだな。」

俺はセームをローテーブルの上に置き、上半身を起こそうとする。そして楓と向かい合った。

「楓もお疲れ様。楓がずっと支えてくれたからここまでやってこれた。」
「うん。ありがと。」

楓は笑って、俺を包んでくれる。それに応えるように、俺も楓の背中に腕を回した。

 しばらく時間が経って、俺たちは腕を解いた。

「晩ご飯作ろっか。」
「手伝うわ。」
「ありがと。何作る?」
「今まで制限してきたから食ってこんかったけど、揚げ物食いたいな。ある?」
「ん~、チキン南蛮やったら作れそうやな。」
「ほんならそうしよ。」

2人並んでキッチンに立つ。これからはきっとこんな日々が増えていくのだろう。楓と目を合わせて、笑い合う。

「晩飯食ったら勉強な。期末も近いし。」
「いきなり現実見せてくんな。今はとりあえずご飯や。」
「ニシシシシ。なぁ楓。」
「ん?」
「これからもよろしくな。」
「うん。これからもよろしくね、奏。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

漫才部っ!!

育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。 正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。 部員数は二名。 部長 超絶美少女系ぼっち、南郷楓 副部長 超絶美少年系ぼっち、北城多々良 これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

陰キャには陽キャの彼女はできないと仮定する

136君
青春
高校2年理系コースに進んだ主人公、橘悠人は根っからの陰キャだ。休み時間はカバーの被ったラノベを読み、学校が終わったら一人で帰る。昼飯も一人で食べ、学校で口を開くのは授業で当たったときくらいだ。 そんな悠人の隣に座っているのは渡月ちはや。クラスの一軍女子に位置する陽キャで、ファンクラブもある。悠人はそんなちはやに話しかけられるようになった。 「陰キャ」と「陽キャ」の世界は2分されていると考える悠人。そんな悠人とちはやの時間がゆっくりと進み始める。

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

処理中です...