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ミカヅキ
冷たいベッド①
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俺はノートを開いて、あのページを見ていた。
「今の状況でこの曲が書けるかな?」
膝にブランケットをかけて、真横ではストーブを焚いている。暑くないと言えば嘘になるが、どうせもうすぐ気温も落ちてくるはずだ。
昼間に聴いたあの曲を思い出す。久しぶりに感じた、身体の奥底から音を求めたくなるようなメロディー。あの音を一発で出してくるなんて。
でも、俺はこの感覚を知っている。桜の音は毎回そんな感じだった。これ以上ないメロディーを毎秒脳に響かせてくる。それが、知識とか狙いとか、そんなの関係なしに創られているからこそ、ストンと落ちてくるのだ。
そんな音に応え続けるのは疲れた。だって、負けない歌詞を書かないといけないから。でも、身体は正直だからそんな音を欲しくて、書いてしまう。そして思うのだ。「やっぱ凄い」って。
もう一度ノートを見る。俺たちはここから始まった。まだ未完成のこの曲から。だから俺にとって、この曲以上に大切な曲はない。できれば、この思い出が汚れないようにこのままにしておきたかった。けど、いずれは完成させないといけないから、今回のこの舞台なら、汚れないままで納得がいくって信じた。
だから、書かないといけない。桜と俺が再び通じ合えるように。
俺はペンを持つ。この曲を書く時に頭に流していたリズムは覚えている。どこにもメモってないけど、絶対に忘れないだろう。きっとこれからも。
俺は想像する。いや、思い出すの間違いか。桜が近くにいるのが普通じゃなかった頃の感覚を。結局は見かねて下界に降りてきてくれていると考えていたあの頃の申し訳なさを。そんなことも知らずに入り込んでくる桜に対する緊張を。何も信じられなかった頃の自分を。
結局は人は間違え続ける生き物で、その間違えた世界の延長に生き続けているのが俺たち。だからすれ違いもするし、モヤモヤする。そんな自分の間違いを許してしまったグループと、自分の間違いを許せなかったグループに次第に別れていって、格差社会が形成される。これがこの世界の普通だ。上の者は下の者を上手く使って壊れないように調整しているが、下の者はそれを吐き出せずに溜め込んで溢れてしまう。溢れて、壊れて、逃げる。
そんな間違いばかりの世界に生きているからこそ、その音は美しく響く。
「出来上がった。」
そして現実に戻ってきて気がつくのだろう。俺はどんな間違いを積み重ねてきたのだろうと。そして目を背けるのだろう。
「今の状況でこの曲が書けるかな?」
膝にブランケットをかけて、真横ではストーブを焚いている。暑くないと言えば嘘になるが、どうせもうすぐ気温も落ちてくるはずだ。
昼間に聴いたあの曲を思い出す。久しぶりに感じた、身体の奥底から音を求めたくなるようなメロディー。あの音を一発で出してくるなんて。
でも、俺はこの感覚を知っている。桜の音は毎回そんな感じだった。これ以上ないメロディーを毎秒脳に響かせてくる。それが、知識とか狙いとか、そんなの関係なしに創られているからこそ、ストンと落ちてくるのだ。
そんな音に応え続けるのは疲れた。だって、負けない歌詞を書かないといけないから。でも、身体は正直だからそんな音を欲しくて、書いてしまう。そして思うのだ。「やっぱ凄い」って。
もう一度ノートを見る。俺たちはここから始まった。まだ未完成のこの曲から。だから俺にとって、この曲以上に大切な曲はない。できれば、この思い出が汚れないようにこのままにしておきたかった。けど、いずれは完成させないといけないから、今回のこの舞台なら、汚れないままで納得がいくって信じた。
だから、書かないといけない。桜と俺が再び通じ合えるように。
俺はペンを持つ。この曲を書く時に頭に流していたリズムは覚えている。どこにもメモってないけど、絶対に忘れないだろう。きっとこれからも。
俺は想像する。いや、思い出すの間違いか。桜が近くにいるのが普通じゃなかった頃の感覚を。結局は見かねて下界に降りてきてくれていると考えていたあの頃の申し訳なさを。そんなことも知らずに入り込んでくる桜に対する緊張を。何も信じられなかった頃の自分を。
結局は人は間違え続ける生き物で、その間違えた世界の延長に生き続けているのが俺たち。だからすれ違いもするし、モヤモヤする。そんな自分の間違いを許してしまったグループと、自分の間違いを許せなかったグループに次第に別れていって、格差社会が形成される。これがこの世界の普通だ。上の者は下の者を上手く使って壊れないように調整しているが、下の者はそれを吐き出せずに溜め込んで溢れてしまう。溢れて、壊れて、逃げる。
そんな間違いばかりの世界に生きているからこそ、その音は美しく響く。
「出来上がった。」
そして現実に戻ってきて気がつくのだろう。俺はどんな間違いを積み重ねてきたのだろうと。そして目を背けるのだろう。
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