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ムカシハ
最強の闘い⑥
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やったことは無い。でも見たことはある。そして、
「なんかできそうな感じがする。」
ここに楓がいたら「えぇ~」とか言われてそうだが、今はいない。待機場所からずっと観戦している。
昔はそんなチャレンジャーやなかった。いつも普通を普通にこなすそんな奴だった。だから俺は楓を密かに尊敬していた。「私にはそれしかないから」って言わせたとき、本当に自分が何でそんなことを聞いたのか悔やんだ。
だから、変わろうと思った。変わって、一緒のところから見てみたいと思った。それは楓と付き合い始めてからもそう。ずっと変わらない俺のスタンスだ。
助走に入る。多分握って投げるだけ。少し抜けたなって感じでいいと思う。
投げる。その瞬間に失敗したとわかった。ヒュルヒュルと高く上がったボールはそのまま落ちる。
「やっぱ無理か~。」
笑うしか無かった。
〇〇〇〇〇
昔は笑わなかった。昔と言えど小6くらいの頃だけやけど。そして、別れる時の笑顔もなんかぎこちなかった。それに比べて今は…
「おぉ~!」
上手く笑えてる。その視線の先にあるのは作詞家くん。どうして君はさくちゃんのこの笑顔を戻せたんかな?私だけなら多分出来んかった。だから悔しい。
「ゆーちゃん!今見た?今ギュンって!」
「はいはい、楽しそうやな、さくちゃん。」
「うん!めっちゃ楽しい!」
ほんと、感謝しないとな。
〇〇〇〇〇
ソフトバレーボールが入ってからと言うものの、こっちのチームは調子がいい。1人、奏に当てられて人数が減ったが、8対9とこちらが優勢だ。
「あと1種類残ってるやろ。」
「やけど、とりあえず残してるだけ。もしもの時用で。」
そんなことを言っているが、肘が少し痛み始めてきた。ちょっと無茶しているからな。
「あと1分でーす!」
放送部のアナウンスが聞こえる。微妙に長いな。
―ボコン
―ピーッ
誰かが当てた音と、ホイッスルの音が聞こえる。
「ッシ」
外野でガッツポーズをしているのは御浜君だ。何やら俺の方を見ている。
(働きすぎや。ちょっと休んでろ。)
そう言っているような気がした。
そして避けて、避けて、避けて、30秒前。8対10でリードしていた俺たちだったが、
「ごめん!」
外野から1人当てられて、9対9となる。そして、そのボールは俺たちのコート内で止まる。外野に回して、時間稼ぎをする。
(まだか?)
(あとちょっとで落ち着く。)
フライボールを投げるのすらキツい。ズキッと痛みが走り、思わず肘を押さえる。
ふぅーっと息を吐いて残り15秒。痛みが若干引いた。
「持ってこぉぉぉぉぉぉい!」
外野に向かってそう叫ぶ。モブ男子でいるのはもうやめた。俺は俺なりに目立つ。たとえそれがどんなにカッコ悪くても、どんなに変でも。俺は俺だ。
ニヒヒと笑った御浜君がボールを回してくれる。それを受け取り、掌の中で1回転させる。すぅーーっと細く息を吐いて集中する。もう1つのボールは、後ろか。なら、ノールックで避けれそうやな。
半歩左にズレると、太腿あたりをボールが通り過ぎていくのがわかった。そして、そのボールはそのまま奏の目の前へ。
取り際を狙うのが普通かもしれない。けど、俺はそこに選択の余地を与える。
捕った瞬間に投げる。無回転やなくて、縦回転。ボールは奏の顔の高さをキープして飛んでいく。
奏は捕ったボールを捨てた。負けず嫌いな奏なら当然か。今は俺が勝ち越している。なら、せめて最後くらい勝っとかないと、メンツが立たねぇもんな。
奏は少し飛ぶ。このボールに対する正攻法はこれだ。でも、甘い。
ボールは浮く。ほんの少し。飛んだ胸の高さから、顎、いや、口の高さまで。こうなれば、オーバーハンドで捕るしかない。
奏はボールに触れる。そして、落ちた。
「なんかできそうな感じがする。」
ここに楓がいたら「えぇ~」とか言われてそうだが、今はいない。待機場所からずっと観戦している。
昔はそんなチャレンジャーやなかった。いつも普通を普通にこなすそんな奴だった。だから俺は楓を密かに尊敬していた。「私にはそれしかないから」って言わせたとき、本当に自分が何でそんなことを聞いたのか悔やんだ。
だから、変わろうと思った。変わって、一緒のところから見てみたいと思った。それは楓と付き合い始めてからもそう。ずっと変わらない俺のスタンスだ。
助走に入る。多分握って投げるだけ。少し抜けたなって感じでいいと思う。
投げる。その瞬間に失敗したとわかった。ヒュルヒュルと高く上がったボールはそのまま落ちる。
「やっぱ無理か~。」
笑うしか無かった。
〇〇〇〇〇
昔は笑わなかった。昔と言えど小6くらいの頃だけやけど。そして、別れる時の笑顔もなんかぎこちなかった。それに比べて今は…
「おぉ~!」
上手く笑えてる。その視線の先にあるのは作詞家くん。どうして君はさくちゃんのこの笑顔を戻せたんかな?私だけなら多分出来んかった。だから悔しい。
「ゆーちゃん!今見た?今ギュンって!」
「はいはい、楽しそうやな、さくちゃん。」
「うん!めっちゃ楽しい!」
ほんと、感謝しないとな。
〇〇〇〇〇
ソフトバレーボールが入ってからと言うものの、こっちのチームは調子がいい。1人、奏に当てられて人数が減ったが、8対9とこちらが優勢だ。
「あと1種類残ってるやろ。」
「やけど、とりあえず残してるだけ。もしもの時用で。」
そんなことを言っているが、肘が少し痛み始めてきた。ちょっと無茶しているからな。
「あと1分でーす!」
放送部のアナウンスが聞こえる。微妙に長いな。
―ボコン
―ピーッ
誰かが当てた音と、ホイッスルの音が聞こえる。
「ッシ」
外野でガッツポーズをしているのは御浜君だ。何やら俺の方を見ている。
(働きすぎや。ちょっと休んでろ。)
そう言っているような気がした。
そして避けて、避けて、避けて、30秒前。8対10でリードしていた俺たちだったが、
「ごめん!」
外野から1人当てられて、9対9となる。そして、そのボールは俺たちのコート内で止まる。外野に回して、時間稼ぎをする。
(まだか?)
(あとちょっとで落ち着く。)
フライボールを投げるのすらキツい。ズキッと痛みが走り、思わず肘を押さえる。
ふぅーっと息を吐いて残り15秒。痛みが若干引いた。
「持ってこぉぉぉぉぉぉい!」
外野に向かってそう叫ぶ。モブ男子でいるのはもうやめた。俺は俺なりに目立つ。たとえそれがどんなにカッコ悪くても、どんなに変でも。俺は俺だ。
ニヒヒと笑った御浜君がボールを回してくれる。それを受け取り、掌の中で1回転させる。すぅーーっと細く息を吐いて集中する。もう1つのボールは、後ろか。なら、ノールックで避けれそうやな。
半歩左にズレると、太腿あたりをボールが通り過ぎていくのがわかった。そして、そのボールはそのまま奏の目の前へ。
取り際を狙うのが普通かもしれない。けど、俺はそこに選択の余地を与える。
捕った瞬間に投げる。無回転やなくて、縦回転。ボールは奏の顔の高さをキープして飛んでいく。
奏は捕ったボールを捨てた。負けず嫌いな奏なら当然か。今は俺が勝ち越している。なら、せめて最後くらい勝っとかないと、メンツが立たねぇもんな。
奏は少し飛ぶ。このボールに対する正攻法はこれだ。でも、甘い。
ボールは浮く。ほんの少し。飛んだ胸の高さから、顎、いや、口の高さまで。こうなれば、オーバーハンドで捕るしかない。
奏はボールに触れる。そして、落ちた。
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