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サマバケ
DAY9
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今日もまた、ラクタプドームに来ている。高校対抗2日目。俺は昼過ぎの100mバタフライに出場する。今日は少し早めに来て、入り口前のスペースで軽く体を動かしている。
「奏、呼吸やる?」
「いや、いいや。楓、ありがとう。」
少しずつ体を温めて、集合の時間になった。部長が形式的な挨拶だけして、解散する。荷物を持って入場の列に並んだ。
「今日は負けねぇからな。」
横に並んだのは、昨日戦った白野倫也。今日も同じ種目に出る。
「ハハッ!フラグ立ててくれてありがとう。」
「チッ、圧勝してやる。」
ちなみにベストタイムはほぼ変わらない。どちらかがペース配分を失敗したら負けるし、成功したら勝てる。トモは前半型だから足くらいにつけといたら後半で抜けるだろうと予想している。まぁ、そのときによるが。
入り口に続々と人が入っていく。学校名がコールされてから入るルールなので、うちの学校はあとの方に入った。
昨日と同じようにアップをする。メインプールで心拍数をあげて、アッププールで泳ぎを整える。早めにアップをやめてスタンドに戻った。
「楓、俺って何レーン?」
「3の6。トモの隣。最高だね。」
「最高というか、最悪というか。負けたらその場で煽られるじゃねぇか。」
「勝ったらいいだけでしょ。」
「簡単に言うな。あいつの波乗りにくいから、後半に仕掛けにくいんだよ。」
夏休みの宿題を片付けながら答える。試合までは3時間ちょいあるから、まだストレッチはしなくていいだろう。会場に流れている音楽を聴きながら、古文の予習を進めていく。
気がつけばもう1時間前。俺はスタンド裏に行ってストレッチを始めた。裏にはトモがもう居た。
「随分と余裕だな。」
「俺にしては早めに来た方だぞ。」
俺はイヤホンを耳に突っ込み、昨日と同じプレイリストを聴きながら、ストレッチを始める。肩が潰れたらバタフライは死ぬので、肩周りを重点的にする。昨日の疲れはほぼなく、昨日よりも調子が良さそうだ。
試合前30分。昨日と同じ水着を履く。乾きやすいので、濡れていない。ぴっちりとした締めつけを太ももに感じながら。アナウンスを待つ。
アナウンスがあって、召集所に向かう。気持ちはだいぶ乗っている。だからこそ油断しないように。そう自分に言い聞かせて、キャップを被った。
試合前1分。いつものルーティーンを始める。頭の中で何かが爆ぜたように、周りの音が聞こえなくなり、スイッチが入ったことが分かる。7レーンにいるトモも同じ。一切こちらのことは気にせずに、ただ笛を待つ。
長い笛があって、俺はスタート台に上がった。この景色はずっと変わらない。ただ水の流れる音がかすかに聞こえてくる。透明な水はライトを反射して光り続ける。目線は自分のつま先の少し前。短い笛で飛び出した。
浮き上がり一掻き目は呼吸をしない。二掻き目も。三掻き目でようやく呼吸をして、自分の位置を確認する。我ながらいいスタートだと思っても、前半型の選手には劣る。今でだいたいつま先の辺り。秒数にすると1秒差程だろうか。また頭を水に突っ込み、次の呼吸の時にはさらに差が開いていた。ここで焦ると後半まで体力が持たない。俺は控えることにした。
ターンの時にはおそらく3~4秒差が開いていたと思う。おそらく9番目。ベッタ2でターンして、後半に入る。
まず一掻き目で1人を抜き去る。そこから12.5mラインを通過する時には前には4人いた。4、5レーンの人と、隣にいるトモ。全員、呼吸の時に普通に見えるくらいだから、結構な差があるはずだ。俺はもう1つギアを上げる。
25mラインを過ぎた時、4レーンの人が落ちていくのが見えた。あと2人。俺はここまで溜めていた脚の力を使ってさらに加速する。トモのつま先の辺りまで追いついた。急に楽しくなり始めて、残り12.5mでまた加速。ついていけなくなったトモを颯爽と抜き去り、2位でゴールした。
「フラグ回収、あざます。」
「黙れ!後半だけ上げやがって。後ろから抜くのがそんなに楽しいか?」
「うん、めちゃくちゃ楽しい。」
勝ち負けを気にせずにレース後はいつも仲良く喋っている。今日もまた。軽くダウンを泳いで、2人とも、顧問に呼び止められる。
「白野は後半、バテたな?」
「はい!バテました!」
「自慢じゃないぞ。んで、加太は前半流したと。」
「流したんじゃなくて見ていただけです。」
「加太は前半もっと突っ込め!体力はあるんだから。白野は後半バテるな!次も期待してるぞ。」
「「はい!」」
顧問に一礼して、更衣室に入る。ジャージに着替えてスタンドに戻ると、先輩たちが俺たちに集まってきた。
「白野惜しかったぞ!」
「加太、悪いやつだな!」
何か嬉しくなって、そのまま話し込んだことは覚えている。何を話したかまでは覚えていないけど。
「奏、呼吸やる?」
「いや、いいや。楓、ありがとう。」
少しずつ体を温めて、集合の時間になった。部長が形式的な挨拶だけして、解散する。荷物を持って入場の列に並んだ。
「今日は負けねぇからな。」
横に並んだのは、昨日戦った白野倫也。今日も同じ種目に出る。
「ハハッ!フラグ立ててくれてありがとう。」
「チッ、圧勝してやる。」
ちなみにベストタイムはほぼ変わらない。どちらかがペース配分を失敗したら負けるし、成功したら勝てる。トモは前半型だから足くらいにつけといたら後半で抜けるだろうと予想している。まぁ、そのときによるが。
入り口に続々と人が入っていく。学校名がコールされてから入るルールなので、うちの学校はあとの方に入った。
昨日と同じようにアップをする。メインプールで心拍数をあげて、アッププールで泳ぎを整える。早めにアップをやめてスタンドに戻った。
「楓、俺って何レーン?」
「3の6。トモの隣。最高だね。」
「最高というか、最悪というか。負けたらその場で煽られるじゃねぇか。」
「勝ったらいいだけでしょ。」
「簡単に言うな。あいつの波乗りにくいから、後半に仕掛けにくいんだよ。」
夏休みの宿題を片付けながら答える。試合までは3時間ちょいあるから、まだストレッチはしなくていいだろう。会場に流れている音楽を聴きながら、古文の予習を進めていく。
気がつけばもう1時間前。俺はスタンド裏に行ってストレッチを始めた。裏にはトモがもう居た。
「随分と余裕だな。」
「俺にしては早めに来た方だぞ。」
俺はイヤホンを耳に突っ込み、昨日と同じプレイリストを聴きながら、ストレッチを始める。肩が潰れたらバタフライは死ぬので、肩周りを重点的にする。昨日の疲れはほぼなく、昨日よりも調子が良さそうだ。
試合前30分。昨日と同じ水着を履く。乾きやすいので、濡れていない。ぴっちりとした締めつけを太ももに感じながら。アナウンスを待つ。
アナウンスがあって、召集所に向かう。気持ちはだいぶ乗っている。だからこそ油断しないように。そう自分に言い聞かせて、キャップを被った。
試合前1分。いつものルーティーンを始める。頭の中で何かが爆ぜたように、周りの音が聞こえなくなり、スイッチが入ったことが分かる。7レーンにいるトモも同じ。一切こちらのことは気にせずに、ただ笛を待つ。
長い笛があって、俺はスタート台に上がった。この景色はずっと変わらない。ただ水の流れる音がかすかに聞こえてくる。透明な水はライトを反射して光り続ける。目線は自分のつま先の少し前。短い笛で飛び出した。
浮き上がり一掻き目は呼吸をしない。二掻き目も。三掻き目でようやく呼吸をして、自分の位置を確認する。我ながらいいスタートだと思っても、前半型の選手には劣る。今でだいたいつま先の辺り。秒数にすると1秒差程だろうか。また頭を水に突っ込み、次の呼吸の時にはさらに差が開いていた。ここで焦ると後半まで体力が持たない。俺は控えることにした。
ターンの時にはおそらく3~4秒差が開いていたと思う。おそらく9番目。ベッタ2でターンして、後半に入る。
まず一掻き目で1人を抜き去る。そこから12.5mラインを通過する時には前には4人いた。4、5レーンの人と、隣にいるトモ。全員、呼吸の時に普通に見えるくらいだから、結構な差があるはずだ。俺はもう1つギアを上げる。
25mラインを過ぎた時、4レーンの人が落ちていくのが見えた。あと2人。俺はここまで溜めていた脚の力を使ってさらに加速する。トモのつま先の辺りまで追いついた。急に楽しくなり始めて、残り12.5mでまた加速。ついていけなくなったトモを颯爽と抜き去り、2位でゴールした。
「フラグ回収、あざます。」
「黙れ!後半だけ上げやがって。後ろから抜くのがそんなに楽しいか?」
「うん、めちゃくちゃ楽しい。」
勝ち負けを気にせずにレース後はいつも仲良く喋っている。今日もまた。軽くダウンを泳いで、2人とも、顧問に呼び止められる。
「白野は後半、バテたな?」
「はい!バテました!」
「自慢じゃないぞ。んで、加太は前半流したと。」
「流したんじゃなくて見ていただけです。」
「加太は前半もっと突っ込め!体力はあるんだから。白野は後半バテるな!次も期待してるぞ。」
「「はい!」」
顧問に一礼して、更衣室に入る。ジャージに着替えてスタンドに戻ると、先輩たちが俺たちに集まってきた。
「白野惜しかったぞ!」
「加太、悪いやつだな!」
何か嬉しくなって、そのまま話し込んだことは覚えている。何を話したかまでは覚えていないけど。
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