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ハジマリ

俺たちは球技大会③

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 午前ぶりのコートの感触を確かめる。みんなすれ違う女子から何か話しかけられている。俺の正面からは楓が向かってきた。

「負けたらダッツね。」

そのまま楓は倒れ込む。俺は咄嗟にかがみ、彼女を受け止めた。服の上からでも体が熱くなっているのがわかる。

「まったく。無茶しやがって。」

 昔から、人一倍外で遊びたがるくせに、体はとことん弱かった。中学の時はバレー部に入りたがっていたが、親が必死に止めたこともあり、生物部に嫌々入った。それでも休み時間は外に出て男子と遊び、日曜日になるたびに熱を出していた。

「はぁ、心配かけんなよ。」

そう呟き立ち上がる。駆け寄ってくる桜と音羽の姿があった。肩にもたれさせて楓を預けると、楓は目を覚ました。

「起きたか、バ楓。悪いな。俺の財布から金が出てくことはねぇわ。」
「ふふっ、期待しとく。」

それだけ言い残して、楓は支えられて保健室に向かった。振り返ってコートに踏み込む。もう負けられない。そう強い意志を持って。

 試合開始と同時に、ボコン、ボコンと音が鳴り続ける。最初の1分で敵も味方もある程度人数が減り、コート内を自由に走り回れるほどになっていた。残っているのは12人ずつ。のほずなのに、外野にも内野にもQがいない。まあいい。俺はとりあえずこの試合に勝つだけだ。

〇〇〇〇〇

 少し昔話をしよう。小さい頃から影の薄かった俺は、ドッヂボールでラスト1人を何度も、何度も、何度も、何度も経験した。たまに、まだ残っているのに試合が終了してしまったこともあった。その度に言われるのだ。「いたの?」と。最初はいじめじゃないかと思った。しかし、中学校になって、新しいクラスメートとドッヂボールをしても、同じ反応をされた。そのときに気づいた。俺は影が薄すぎることを。

 そして、この試合も、ちゃんと気づかれない。相手に近づいてもバレることは無い。見られることもない。これでいい。今はただ空気に徹するだけだ。

〇〇〇〇〇

10-12、9-12と少しずつ差が広がっていく。こちらのチームにも少しずつ焦りが出てきた。避けて、避けて、正面にきたら受ける。そして、外野にパスして休憩する。その繰り返し。次第に息も切れてきて、集中も途切れそうだ。

―ボン

右肩の辺りに強い衝撃が走る。避けたと思っていたボールは大きく曲がり、俺の右肩に当たったのだ。ふわりと上がったボールの行先には誰もいなかった、ように思えた。目に淡く影が映り、次第に濃くなっていく。Qだ。Qはボールを捕り、投げる。一直線に相手の膝に向かって飛んでいき、当たった。

「ッシャアァァァ!」

野郎どもの低い歓喜の声が轟く。そのあとも盛り上がりながら試合は進み、終了のホイッスルが鳴った。
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